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尾形アツシのうつわ
「土に投げかけるニュートラルな視線」

2021.3.6
尾形アツシのうつわ<br>「土に投げかけるニュートラルな視線」
エッジ部分だけをくるりと囲むように釉薬を施し、表情の違いを味わう「縁刷毛目(ふちはけめ)」の皿

生き生きとした土の表情を、そのままうつわに映していく尾形アツシさん。彼はどのような環境のなかで土と向かい、何を思いながらろくろを回しているのか? 尾形さんを訪ねて奈良の山間にある工房に赴きました。
尾形さんのうつわは渋谷パルコ「Discover Japan Lab.」および公式オンラインショップでも購入いただけます。詳しくは記事末尾をご覧ください。

尾形アツシ(おがた・あつし)
1960年、東京都生まれ。雑誌編集者を経て、‘96年、愛知県立窯業高等技術専門学校卒業。‘98年、愛知県瀬戸市で独立し、作家活動を開始。2007年、奈良県宇陀市に工房を移し、登窯とガス窯を使って作陶を続ける。鎌倉のうつわ祥見をはじめ、全国のギャラリーで定期的な個展を開催している

陶板に手書きで記した、素朴な工房の看板
工房の裏手には、薪窯(右)と薪置き場(左)がある。どちらも尾形さんが自ら建てたものだ
春や秋など季節が安定したときに、火入れを行う薪窯。花器や茶碗などに、灰かぶりで独特の表情を付けていく

周囲を山に囲まれた奈良県北部の高地、宇陀市で作陶を続ける尾形アツシさん。2007年にこの地に拠点を移し、古い家屋の納屋を自らの手で工房に改装。2年後には工房のすぐ横に登り窯を完成させた。

一般的な陶器に用いられる土は、原土(げんど)を精製し、石や木の根などの不純物を取り除いたもので、作業効率が良いもの。しかし尾形さんは、何も調整をかけていない、いわば「素のままの土」である原土を用いての作陶も行っている。

「作家として活動をはじめた頃は、食器用に開発された土を使っていたのですが、扱いやすいぶん変化に乏しくおもしろくない。原土という、言うならば焼き物には向いていない材料を手に、焼きや釉薬の調子でうつわのかたちに整えていく。ときに土が暴れて、うつわに穴が開いたりキレが出たりして、予想以上に手間がかかったとしても、土と向き合いながら可能性を探っている時間が好きなんです」

ろくろで土を立ち上げていく尾形さん。微妙な手先の動きが、かたちに変化をもたらす
土にまみれたさまざまな工具が、生きたものづくりを語っている
左からヒビ手、刷毛目(はけめ)、粉引(こひ)き。釉薬の掛け方のちょっとした差が、うつわの表情を大きく変える

刷毛目や粉引といった、うつわの表面に見え隠れする土のリアルな表情。欧米とは異なり、日本人は食事のときには直接で触れるため、うつわの表情は手からも伝わる。目からでは味わうことのできない土の感触が堪能できるのも、尾形さんの作品の楽しみ方だ。

窯から焼き上がったときに、思いのほかうまく仕上がっているときもあれば、予想とはほど遠いかたちになってしまうこともある。どれほど経験を重ねても思い通りにならないものだからこそ、さらなる探究心が芽生え、尾形さんは作陶にのめり込んでいく。

うつわづくりに真剣なまなざしを向けつつも、世の中を取り巻く状況をあるがままの状態を受け止め、自然体に構えている。

「土が醸し出す柔らかさは、確かに日本のうつわ特有のものですし、工芸の世界では茶の湯を軸としたものづくりに重きが置かれています。現代の食卓ではパンも食べるし、洋食も並びます。様式にこだわることなく、自由な感覚でうつわを楽しんでもらいたいと思っています」

うつわは料理を盛ってこそ完成するもの。作品単体で成立させるのではなく、日常の風景のなかに置かれたときにどのように映るか。そんなことに思いを馳せながら、尾形さんは日々ものづくりを続けている。

ヒビ手のポット。釉薬の細かな割れ目をずっと見ていると、無限の宇宙に引き込まれそうになる
全体に、化粧土を刷毛で塗った刷毛目のうつわ。荒々しい表情に特徴があり、「荒刷毛目」と名付けられた最新作だ。ぐるりと渦を描いたような刷毛目の鉢は、料理の創作欲を掻き立ててくれる





 


 

尾形アツシの作品一覧
 

「うつわ祥見」が選ぶ注目作家
1|小野象平 – 1
2|境 道一
3|荒川真吾
4|岩崎龍二
5|小野哲平
6|八田亨
7|尾形アツシ
8|山田隆太郎
9|芳賀龍一
10|田宮亜紀
11|鶴見宗次
12|小野象平 – 2
13|吉田直嗣

Text: Hisashi Ikai photo: Sadaho Naito special thanks: utsuwa-shoken


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