TRADITION

相撲発祥の地で、その歴史と文化に触れる
はじまりの奈良

2021.3.2
相撲発祥の地で、その歴史と文化に触れる<br><small>はじまりの奈良</small>
桜井市にある長谷寺詣での土産として人気の出雲人形。野見宿禰にちなんだ力士や、古墳を守る埴輪の気持ちを表し死者のように衣服を着た左前人形などがある(人形窯元「水野佳珠」作)

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いていきます。今回取り上げるのは相撲。実はそのはじまりが奈良であることを知っている人は少ないのかもしれません。相撲の歴史や、どう発展してきたのかを、「奈良まほろばソムリエ」の雑賀耕三郎さんに伺いました。

教えてくれたのは……
雑賀耕三郎(さいが・こうざぶろう)さん
奈良を案内するガイド「奈良まほろばソムリエ」。愛知県出身。妻の故郷である奈良に移住し、15年が経つ。「奈良まほろばソムリエの会」副理事長や、桜井市にある談山神社の氏子総代も務める

相撲の神さまは、相撲や埴輪、人形も残した!?

日本の国技である、相撲。そのはじまりは、第11代天皇である垂仁天皇の時代にさかのぼる。『日本書紀』に「垂仁天皇2年、(現在の奈良県桜井市)に都をつくった」。さらに「垂仁天皇7年7月7日に、野見宿禰と當麻蹶速が相撲をとり、宿禰が蹶速の肋骨を蹴り折り、腰を踏み砕く」とあるのだ。

野見宿禰は、相撲の神様、土師部の始祖として知られている。一度目は相撲に勝った男として、二度目は生贄の代わりに埴輪を考案し、古墳づくりに精を出した男として、『日本書紀』に二度も登場する。力と知恵の人だ。

今回相撲について教えてくれた雑賀耕三郎さんは、こう話す。

「野見宿禰は『出雲出身』とされていますが、私は出雲国ではなく、倭の出雲庄ではないかと考えています。いまも残る桜井市出雲(元・出雲村)では『野見宿禰はうちの村の人だ』と語られているんです。でも、出雲国出身とする説もあり、現在も2地域は交流しています」

桜井市出雲でつくられている人気の土産物「出雲人形」は、野見宿禰の埴輪製作の技術がルーツだとされる。

野見宿禰の相撲が行われた場所は桜井市出雲の近くにある穴師坐兵主神社の境内で、相撲発祥の地だといわれている。カタヤケシという小字名が残っているからだ。競技者が控える場所を「カタヤ(方屋・片屋・形屋)」と呼び、現在でも力士が土俵に入ることを「方屋入」という。

「でも、相撲が日本ではじまったものかは明確にわからないのです。相撲形式の競技は世界中にあって、大昔から戦いや遊びとして行われてきました」

しかし、相撲が国内で独自に発展していったことは疑いようもない。野見宿禰の相撲の開催日を基準にして、734(天平6)年の同じ日に相撲が行われ、聖武天皇が見学した。これが怨霊を鎮魂させる相撲節会のはじまりで、宮中の年中行事として広まっていく。また『万葉集』には、宮中で七夕に相撲節会が行われ、相撲人を諸国から集めることを仕事にしている専門職があったことが記されている。相撲は、宗教や娯楽の要素を含んでいくのである。

鎌倉時代から戦国時代にかけては、武士の戦闘の訓練として盛んに相撲が行われた。その後、江戸時代に入ると相撲を職業とする人が現れ、中期には定期的に相撲が興行されるようになった。強豪力士が出現して相撲の人気は急速に高まり、今日の「大相撲」の基礎が確立されたのだ。相撲は競技を指すが、大相撲とは日本相撲協会が主催する相撲のプロ興行を指す。

2月11日に行われる「お綱まつり」。江包区では男綱を、大西区では女綱をそれぞれ綯(な)い、その御綱は村を一巡して練り歩く。さらに泥の田んぼで泥相撲(田遊び)をするのが祭りの特徴だ(写真提供:雑賀耕三郎)

現在の奈良でも、相撲文化は続いている。奈良豆比古神社の秋祭りでは相撲の奉納が、柳生八坂神社の秋祭りでは「スモウの舞」が行われている。葛城市當麻には、當麻蹶速を顕彰するため開館した「相撲館けはや座」があり、本場所と同サイズの土俵があって遠足などに利用されている。

また、桜井市の「お網祭り」では、相撲が祭りの賑やかしの中心になっている。泥の田んぼで「泥相撲(田遊び)」を行うのだ。汚れがつくほど豊作だとされている。このように神社や祭りと相撲の関係は深い。

2020年、大相撲初場所で県出身力士として98年ぶりに奈良市出身の徳勝龍関が優勝し、県内が沸いた。はじまりの地・奈良で相撲がより活気づく契機になるかもしれない。さて、2021年は?

cooperation: Masayuki Miura edit: Hazuki Nakamori text: Yoshino Kokubo photo: Mao Suzuki
Discover Japan 2021年2月号「最先端のホテルへ」


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