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空海は9つの顔を持つ稀代のマルチクリエイター ?!
はじめての空海と密教

2020.10.11
空海は9つの顔を持つ稀代のマルチクリエイター ?!<br><small>はじめての空海と密教</small>
©西新井大師總持寺蔵 重文 弘法大師像

密教を日本に広めた僧侶として知られる空海。密教ってなに? 空海はどんなことをした人? そんな人にもよくわかる《はじめての空海と密教》。僧侶としてだけでなく、さまざまな分野で活躍した弘法大師空海。第1回はそんな現代のマルチクリエイターさながらの空海がもつ9つの肩書きを紹介します。

1 僧侶

日本に真言密教を広める先頭走者として
密教最高の位・阿闍梨である弘法大師空海。高野山を開山したほか、京都の東寺を下賜され、密教宣布、鎮護国家の中心寺院として造営し、真言密教を布教した。当時は、ひとつの寺に複数の宗派が混在するのが一般的だったが、弘法大師空海は東寺を密教僧のみが修法を行う場とした。この頃から「真言宗」の呼称が使われはじめる。入定後は、「お地蔵さま」のように「お大師さま」として民間信仰の対象にもなった。

2 詩人

美しく豊かな文体で世界観を表現
仏教経典には散文で書かれた部分と、詩歌で書かれた部分がある。仏の真理は論理を超えた次元にあるため、散文で論理的に語るだけではなく、詩歌の感性で把握される必要があるのだ。空海は表現豊かな詩歌が挿入された著書や、漢詩も多く残している。

3 編集者

日本初の辞典を誕生させた優秀な編集者
弘法大師空海は、「人々を教え導く根底には文字や文章がある」という見解から、言葉を重視した。語学の天才でもあり、中国語、サンスクリット語を自在に操ったという。その才能を生かし、中国南北朝時代に書かれた辞典をもとに、約1万6000の漢字を部種別に収録したいわゆる漢字辞典や、サンスクリット語にも堪能なことから梵字解説書を編纂。これらは、後の仏教経典研究を飛躍的に進歩させることとなった。

4 教育者

庶民に開かれた日本初の総合大学を創設
当時、学校といえば官吏養成機関である大学や氏族が入る私立学校だったが、弘法大師空海は身分に関係なく庶民に開かれた仏教的総合大学「綜芸種智院」を創設。密教以外の教養を排斥しない弘法大師空海の理想が反映され、仏教のほか儒教や道教が教えられた。

空海から最澄に宛てた3通の書状を貼り継いだもの。壮年期の空海を代表する筆跡
国宝 風信帖(第一通) 空海筆 平安時代・9世紀 東寺蔵

5 書家

「弘法にも筆の誤り」は空海が名筆家の証し
嵯峨天皇、橘逸勢とともに日本三筆の一人に数えられている弘法大師空海。達筆なだけでなく、相手や状況に合わせて書体を自在に使い分けていた。熱心に書体を研究したことでも知られ、弘法大師空海の独特の世界観を表すのに書を用いた。

6 アーティスト

密教を芸術的に表す
密教の神秘的な世界観を広く届けるために、文字では伝えきれない奥深い内容を、曼荼羅を使って理解させたが、弘法大師空海自らも曼荼羅を描いた。また、仏像を彫ることもあるなど、芸術的な力やセンスをもち合わせたアーティストとしての顔も見せる。こういった表現力の豊かさが、他の宗教家とは一線を画している。

7 デベロッパー

知識と技術、人徳を生かして治水事業に挑む
寺院の建立で自ら設計にかかわるなど、多くの土木事業を行った弘法大師空海。中でも故郷である讃岐の満濃池の修築は逸話として残る。巨大な満濃池は、しばしば決壊して被害を出していたために、住民が「故郷の誉れ」と仰ぐ空海に堤防修築を依頼。弘法大師空海は現地に着くと大きな岩の上に修法の壇を設け、護摩法をもって祈祷した。それを知った人々が全国から集まり工事に協力。わずか3カ月で修築を完結させたという。

8 文筆家

中国の古典を踏まえた教養あふれる文書を書く
弘法大師空海は語学堪能なことから通訳としても活躍したが、遣唐使船が漂着した際には、遣唐大使に代わって観察使へ手紙を書く。その文章は整然とした論理が展開されており、韻を踏んだ華麗な文体だったという。文章を重んじる中国人もこの書に感銘を受け、長安への入京を認めた。

9 パフォーマー

全国に弟子を派遣し、布教キャンペーン
経典は僧が都の大きな寺に出向いて写経し、それを持って帰って地元で布教するのが一般的だった。しかし、それでは時間がかかることから、弘法大師空海は経典の写経やその目録を持たせた弟子を全国に派遣して布教するキャンペーンを行って多くの人に密教を広めたという。

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《はじめての空海と密教》
1|マルチクリエイター空海の9つの顔
2|現代を生きるヒントになる! 空海の出世人生
3|密教は当時最先端のライフスタイルだった?
4|密教をより深く知るためのキーワード

text: Akiko Yamamoto
参考文献:『イラストでわかる 密教 印のすべて』(藤巻一保著・PHP研究所)、『空海辞典』(金岡秀友編・東京堂出版)、『KOYASAN Insight Guide 高野山を知る一〇八のキーワード』(高野山インサイトガイド制作委員会・講談社)、『国宝・重要文化財大全 4 彫刻(下巻)』(文化庁監修・毎日新聞社)、『仏像図典』(佐和隆研編・吉川弘文館)、『マンダラの仏たち』(頼富本宏著・東京美術)

2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」

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