TRAVEL

奈良二度目の修学旅行。
くるみの木・石村由起子さんとめぐる【前編】

2020.11.22
奈良二度目の修学旅行。<br>くるみの木・石村由起子さんとめぐる【前編】

東大寺、法隆寺、興福寺に奈良公園。修学旅行で一度は訪れるであろう奈良。次旅するならば、歳を重ねたからこそ気づく、“新しい奈良”に会いに行きませんか?前編では、奈良をこよなく愛するスペシャリストである石村由起子さんに、とっておきを紹介していただきました。石村さんが奈良の“たからもの”をめぐります。

石村 由起子(いしむら・ゆきこ)
香川県高松市生まれ。1984年に奈良市内でカフェと雑貨の店「くるみの木」を開業。奈良の観光案内所を兼ねた「鹿の舟」のプロデュースも手掛ける。『自分という木の育て方』(平凡社)など著書も多数。www.kuruminoki.co.jp

奈良のたからものをめぐる

奈良の宝物探しの旅をはじめて20年。つくり手のもとへ足を運びながら手から手へ、心から心へ届けたいと思う宝物をひとつずつ集め、その魅力を店やカフェを通して発信している石村由起子さん。そんな石村さんが大切にしている奈良の宝物をめぐる1泊2日の旅へご案内します。

何が起きても変わらない
奈良の自然と鹿

奈良公園・飛火野エリアは、石村さんが出勤前の早朝に訪れる散歩コース。いま、新型コロナウイルスによる不安な時を迎えているが、ここには変わらぬ景色がある。「芝生を踏みながら鹿の頭をなで、若草山を眺める。そんな時間が気持ちを奮い立たせてくれる、明日の私をつくる場所です」。

奈良公園
所在地|奈良市春日野町ほか
http://nara-park.com

春日大社へ誘う神の使い
鹿のいる風景

奈良公園から足を延ばし、春日大社の二之鳥居をくぐって境内へ。朱色の鳥居の前を鹿がゆったりと歩く姿を眺めながら石村さんは、「とても幸せそう」と笑顔を見せる。古来神の使いとして崇められてきた鹿のいる風景は、石村さんの心を潤す宝物。

春日大社
住所|奈良市春日野町160
Tel|0742-22-7788
営業時間|7:00〜17:00(本殿)
www.kasugataisha.or.jp

ひと晩の町家暮らしで
奈良という土地のおもてなしに出合う

町家で暮らすように旅をして奈良の魅力を知ってほしい。そんな想いから石村さんがゲストへ案内するのが「奈良町宿 紀寺の家」。「朝ごはん、一杯のお茶、その一つひとつから胸にじんわりと響くおもてなしの心が伝わります」。

奈良町宿 紀寺の家
住所|奈良市紀寺町779
Tel|0742-25-5500
料金|1泊朝食付2万1000円(税別)〜 ※1棟2〜3名利用時の場合
http://machiyado.com/index2.html

仏像に想いを馳せ
自身の心の声に耳を傾ける時間

奈良国立博物館のなら仏像館は、石村さんが一度訪れたいと思っていた場所。「身を置いた瞬間、優しく包み込まれる気がしました。人として生きる術が仏像の生まれた背景と重なり、どんなときも確かなものは残っていくのだと無言で教えてくれます」。

奈良国立博物館
住所|奈良市登大路町50
Tel|050-5542-8600
営業時間|9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
定休日|月曜
www.narahaku.go.jp

歴史をひも解く独創的な料理で
奈良を味わう

「日本料理店『白』の店主・西原理人さんは、奈良を想う心をうつわの中に表現して手渡してくれる料理人です。その日の月の情景を詠んだ阿倍仲麻呂の歌にちなんだ一品をはじめ、訪れるたびに味わう楽しみがあります」。

白 Tsukumo
住所|奈良市三条町606-2南側1F
Tel|0742-22-9707
営業時間|12:00〜13:00、17:30〜19:00
定休日|月曜、毎月最終日、火曜昼、毎月1日の昼
http://tsukumonara.com

和菓子に向ける
店主の心意気を通し奈良の心を知る

ゲストを連れていく際は必ず店主のいるお店を選ぶという石村さん。喜多誠一郎さんが目の前でつくる和菓子をコースで味わえる「樫舎」もそのひとつ。「素材と真摯に向き合う喜多さんの心が織り込まれ、口福が訪れます」。

喜多さんがドリップするコーヒーと味わう、熊本県産の栗を使用した栗きんとん

萬御菓子誂處 樫舎
住所|奈良市中院町22-3
Tel|0742-22-8899
営業時間|9:00〜18:00
定休日|水曜
www.kasiya.jp/wagasidukuri/index.html

奈良に宿る目に見えるもの、目に見えないもの
そのすべてが私の宝物

「鹿の舟」の敷地内にあるレストラン・喫茶室「囀(さえずり)」の中庭。秋篠の森から移植した木々が小さな田んぼを囲む、のどかな風景

カフェと雑貨の店「くるみの木」のオーナーであり、〝日々の営みに寄り添う、心地よい空間づくり〟をコンセプトに奈良の町づくりにもかかわりをもつ石村由起子さん。2015年にはならまち観光の拠点となる観光案内所と食堂&グローサリー、喫茶室を併設した複合施設「鹿の舟」をプロデュース。奈良県産の旬の食材を生かした料理をはじめ、県内の生産者がつくる食品や手仕事から生まれる工芸品などの販売を通して奈良に受け継がれる生活文化とその魅力を発信している。

「くるみの木をはじめた頃は無我夢中で、実をいうと、あまり奈良に意識を向ける余裕がなかったんです。私の奈良の宝物探しがはじまったのは20年前、ホテルやレストラン、ギャラリーを併設した『秋篠の森』(現在は営業終了)をオープンさせたのがきっかけでした。県外から来られるお客さまに奈良の美味しい食やすてきな場所をご案内したいという思いが募り、お客さまにお出しするお茶探しからはじまり、お寺をめぐり、職人さんの工房を訪ね、奈良という土地を少しずつ学びながら心と身体に染みつけていった気がします。宝物と思えるものにひとつ出合うたび、ああ、奈良ってなんていいところなんだろうといとおしさが深まりました」

約1300年の歴史を伝える奈良。その悠久の時を刻む東大寺の大仏をはじめ、歴史的建造物や史跡が人々の暮らしのすぐそばに広がる町の景色、鹿が戯れる奈良公園を散歩する穏やかな朝のひととき──。そんな日常の風景と時間も、石村さんにとって気持ちを奮い立たせてくれる、かけがえないのない宝物。新型コロナウイルスによる影響で町から人の気配が消え、不安な時期を迎えたときも「誰もいないけれど、鹿はいるのよ。何が起ころうと鹿にとってはどこ吹く風。それは古の時代から変わらぬ景色であり、その揺るぎない強さを目にしたとき、希望を捨てずにいたらきっといいことがあると勇気づけられました」と笑顔を見せる。

そんな景色とともに、石村さんが大事に思うのが、この地に宿る人々の心。今回おすすめしてくれた宿、店、スポットは、奈良に受け継がれる〝おもてなしの心〟が息づく場所。いずれも石村さんがその心に触れることで奈良という町を知り、味わってほしいという思いから、大切なゲストを連れていく特別な存在だ。

「『紀寺の家』は、オーナーの藤岡俊平さんが生まれ育った場所で奈良の文化財である町家を再生させてはじめた宿。ゆき過ぎず、けれど、確かな心配りでいつ訪れても心地よく迎えてくれます。『白』の店主の西原さんは県外から来られてお店をはじめられた方ですが、奈良のことをよく勉強なさっていて、奈良を愛する気持ちがあふれる、心の込もった料理を楽しませてくれます。『樫舎』の喜多さんは心意気が伝わる方。天地が育むものが一番美しく美味しいという考えの下、素材に敬意を払い、和菓子づくりを通して奈良を語っていらっしゃるのを感じます。そこに共通するのは奈良を想う心。決して饒舌ではないかもしれないけれど、居心地や料理を通して奈良を訪れた人、味わう人へ真心を届けてくれます。じんわりと胸に染み入るような時間を過ごし、奈良の魅力を感じていただければ」とほほ笑む。目に見えるもの、目に見えないものを含め、奈良には何度でも足を運びたくなる出合いがある。石村さんは「新しい宝物も脈々と生まれているのを感じます。さらに輝きが増すように、お手伝いをしていけたら」と奈良の町を見つめ続ける。

鹿の愛らしい表情に思わず笑みがこぼれてしまう、荒木義人さんの奈良一刀彫。奈良らしさを伝えるお土産としても人気の高い工芸品
季節の料理を月替わりで味わえるランチAコース4400円(予約優先制)。写真は9月に登場した「奈良の葱と吉野田舎こんにゃくの蕎麦パスタ」
食堂&グローサリーの「竈」では八木酒造の月ヶ瀬梅原酒、蕎麦店「玄」のそば茶など奈良各地の生産者が製造する食品や工芸品が並ぶ

鹿の舟
住所|奈良市井上町11
www.kuruminoki.co.jp/shikanofune
【囀】

Tel|0742-94-9700
営業時間|11:00〜17:00
定休日|火、水曜
【竈】
Tel|0742-94-5520
営業時間|11:00〜16:00
定休日|水曜、火曜(隔週)

≫後編を読む

text: Mimi Murota photo: Kohei Yamamoto
2020年11月号 特集「あたらしい京都の定番か、奈良のはじまりをめぐる旅か」


≫中川政七さんが奈良旅で出合った進化を続けるものづくり【前編】

≫清澄の里 粟・三浦雅之さんによる、はじまりをめぐる大和2日間の旅。【前編】

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