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《四国村ミウゼアム》
時を超えて伝える暮らしやアート
|アート県かがわの源流へ①

2025.4.9
《四国村ミウゼアム》<br>時を超えて伝える暮らしやアート<br><small>|アート県かがわの源流へ①</small>

高松市北東部にある屋島はその名の通り、屋根のようなかたちをした山で、国の天然記念物。そのふもとに江戸~大正時代の古民家・近代建築など33棟が点在する野外民家博物館がある。近年は瀬戸内国際芸術祭の会場のひとつとしても人気を集める、「四国村ミウゼアム」だ。

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江戸時代から大正時代まで
四国の暮らしを伝える家々

屋島のふもと、自然豊かな広大な敷地
古くは源平の合戦「屋島の戦い」で知られる屋島は国の史跡でもある。屋島寺や屋島神社などを抱く屋島の南嶺が、四国村ミウゼアムの至るところから望める

屋島の南麓に広がる「四国村ミウゼアム」(四国民家博物館)は、1976(昭和51)年の開村以来、美しい自然に囲まれた野外博物館として愛されてきた。

急ぎ足でめぐったとしても約1時間半はかかる、起伏に富んだ広大な敷地。爽やかな緑の香りと鳥のさえずりに包まれながら、石の道「流れ坂」を上っていくと間もなく、立派な佇まいの石灯籠や土蔵が現れる。さらに奥へと進んでいくと石畳の広場の向こうに、美しい茅葺きの家々が見えてくる。

江戸時代以降の古民家など33棟を移築
四国四県に残る古建築から、民家のほか砂糖しめ小屋や醤油蔵といった産業遺産まで33棟の貴重な建物を移築し復原。丁寧に手入れを続けながら公開している

ここに建ち並ぶのは、江戸時代から大正時代にかけて香川・徳島・愛媛・高知の四国四県に建てられた、民家を中心とした33棟もの建築。讃岐の一大産業・砂糖づくりを担った「砂糖しめ小屋」をはじめ、醤油蔵・麹室などの産業遺産や瀬戸内の漁師の暮らしを伝える古民家、アーチ型の石橋、小豆島の農村にあった歌舞伎舞台など、各地から移築・復原された建物が樹々の中にゆったり配され、「村」を形成している。

灯台など近代の日本の歴史を語る遺構
日本の近代が幕を開けた明治期に建てられた灯台、そして灯台守が暮らした退息所などの建物がある一角。見晴らしのよい高台にあり、季節の花々も楽しめる

週末には古民家の囲炉裏に火が入れられ、また正月に桃の節句、端午の節句と一年を通して季節に応じた飾りが施されて、いまも息を吹き込まれ続ける建物たち。往年の暮らしを静かに伝える、土と石と木でつくられた建物の中でしばし時を過ごせば、不思議と心身の凝りがすっとほぐれていく。

原点と新名所がつながる!
2022年にリニューアルした四国村ミウゼアム。古民家移築1号のうどん店「わら家」は、以前の塀や駐車場が取り払われ、ゆるやかなスロープと緑地帯で新エントランス棟「おやねさん」とつながり一体に

ほかではもう見られない稀少な建築や工作物の多くと、砂糖や醤油づくりにかかわる約6500点の資料は国の重要有形民俗文化財にもなっている。2022(令和4)年には瀬戸内国際芸術祭に建築作品として参加した新エントランス棟「おやねさん」が誕生。古民家と現代建築のコントラストも新たな魅力を放っている。

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四国村ミウゼアムリニューアル2周年記念!
時を超えてつながるアーティストたち

〈はじまりを支えた彫刻家と共鳴する建築家、木工家〉

1998年制作の作品「ながれバチ」は高さ約137㎝。階段状の噴水上に。バチシリーズは流彫刻の代表作品のひとつ

四国村ミウゼアムのリニューアル2周年の春、彫刻家・流政之の作品3点が新たに展示に加わった。世界的評価を受け、ニューヨーク・世界貿易センタービル前のシンボルだった巨大彫刻も手掛けた流は、1966(昭和41)年から制作拠点を香川県庵治に置き、四国村の設立にも深くかかわってきた。

四国民家博物館理事長の加藤英輔さんは「創設者である父・達雄は流さんと同い年ということもあって親しくしており、我が家でもウイスキーの水割りを飲みながらよく話し込んでいました」と思い出を語る。ゴツゴツとした石の道「流れ坂」や、音と動きのある「染が滝」が生まれたのは、そんな二人の会話からだったという。

安藤忠雄×流 政之×桜製作所 四国村ギャラリーの水景庭園に設置された、流政之の「恋のまつげ」。彫刻全体を回転することができ、いろんな角度から鑑賞できる

今回、流の作品ふたつが置かれた四国村ギャラリーは、加藤達雄が蒐集した美術品を公開するために2002(平成14)年に建てられた美術館。設計は、世界を舞台に活躍する安藤忠雄氏だ。かつて流のスタジオで働いた永見宏介氏率いる桜製作所が設置を監修し、ギャラリー前に広がる水景庭園に「ながれバチ」、「恋のまつげ」が据えられた。

世界貿易センターに飾られていた!?
流政之が思いを込め再制作した名作が新名所に

エントランス棟「おやねさん」のライブラリーに設置された「雲の砦」。世界貿易センター前広場にあった同名作は250tの巨大彫刻で、2001年米国同時多発テロ後に惜しくも撤去。本作は2012年の制作

また「雲の砦」は、川添善行氏設計のエントランス棟「おやねさん」のライブラリーに。ガラス越しに見える壁の向こうには「流れ坂」があるというロケーション。作品の台座の制作にも桜製作所がかかわった。’24年秋には流の長女で画家の流麻二果氏の個展を四国村ギャラリーで開き、親子共演の実現も果たしたのだった。

四国村ミウゼアムではいま、美を追求するいくつもの魂が時を超えて響き合い、新しい景色を見せはじめている。

水景庭園から望むギャラリー全景

 

 

〈屋島の観光文化を支える鍵のひとつに〉

除幕は四国民家博物館理事長・加藤英輔さんと香川県知事、高松市長らで行われた

2024年4月13日、四国村ミウゼアムのリニューアル2周年を祝し、新たに加わった流作品の除幕式が四国村ギャラリーで開かれた。池田豊人香川県知事、大西秀人高松市長をはじめ、地元香川の文化を支える約50名が参列。’22年オープンの「やしまーる」とともに屋島観光を盛り上げるスポットとして、四国村ミウゼアムにさらなる期待の声が寄せられた。

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さぬきうどんの店《わら家》
 
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text: Kaori Nagano photo: Hiromasa Otsuka
2024年7月号増刊「香川」

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