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兵庫県・淡路島《禅坊 靖寧》
“禅”と“発酵”でととのう滞在

2022.10.29
兵庫県・淡路島《禅坊 靖寧》<br><small>“禅”と“発酵”でととのう滞在</small>

淡路島北部の山間にこつぜんと現れる、圧倒的な存在感の木格子の建築。世界的建築家の坂茂さんが “空中座禅道場”として設計したこの「禅坊 靖寧」では、禅の要素を取り入れた、いままでにないデトックスとリトリートが実現する。身も心も癒される「3つのZEN」体験から、自然由来の禅坊料理まで、その魅力を紹介していく。

まっすぐ見通せる2階「ZENデッキ」。自然との一体感を重視し構造の存在感を極力なくしたオープンエアーの空間。森に馴染む日本杉の床材もリラックス感を高める

禅の要素を取り入れた
新しいリトリート

1階にある18の宿坊は大きさの異なる2タイプで、禅語が部屋名になったミニマムな空間。宿泊時は自分で掃除も行う

北淡路の静かな山の中にまっすぐ延びる、木組みの橋梁のような建築。この「禅坊 靖寧」は、建築業界で最も権威ある賞のひとつ「プリツカー賞」を受賞した坂茂さんが、「空中座禅道場」として設計した施設だ。斜面上の敷地を見て、宙に浮かぶように森を見下ろせる建築を発想した坂さん。外から見ると周囲の森とのコントラストが際立ち、中に入ると存在感が消え、森に溶け込む建築を意図したという。その狙い通り、この建築の外観は緑の中で圧倒的な存在感を放つが、2階の「ZENデッキ」に立つと建築の存在を忘れるほどの開放感。360度、見渡す限りの森が広がるオープンエアーの空間で目を閉じると、森のざわめきがじかに感じられ、風に吹かれて空中に浮かんでいるような不思議な感覚が味わえる。

自然との一体感にあふれ、建築的な見どころも豊かなこの場所で体験できるのは、海外でも注目されている「禅」の要素を取り入れた、心身の癒し。座禅や瞑想、ヨガを組み合わせたオリジナルの「ZEN Wellness」では、森の中を浮遊するような“空中座禅”で心を鎮めリセットできる。さらに、健康的で滋味深い「禅坊料理」を味わったり、「起きて半畳、寝て一畳」の精神に基づき必要最低限のものだけで構成された宿坊で自分に向き合ったり。忙しい日常から離れ、豊かな自然の中で本来の自分を取り戻す“リトリート”がかなうのだ。

眺望の抜け感を出すため、柱の筋交いや大梁のない構造に。デッキ周囲を一段下げることで、手すりも視界に入らない

この世界に類を見ないリトリート施設が誕生したのは今年4月。運営を行うのは、2008年から淡路島で地方創生事業を行うパソナグループだ。一昨年には、本社機能の一部を淡路島に移転する計画を発表したことでも話題を呼んだ。同社広報担当に話をうかがうと、「私たちが目指しているのは、心身ともに健康で、社会的にも満たされたウェルビーイングなライフスタイル。コロナ禍を経たいま、社会全体としても暮らしや働き方への意識が変わり、身体だけではなく心の健康にも関心が高まっています。自然の中での禅体験を通して、心身ともにリフレッシュできるこの施設は、都会では味わえないマインドフルネスな時間をご提供できる場所なのです」と教えてくれた。

約4時間の日帰り「ZEN Wellness」プランを基本に、すでにリピーターも訪れているという。それはあえてここまで足を延ばしたくなる、独自の魅力があることの証左といえるだろう。

身も心も癒される
「3つのZEN」体験

ZEN Wellness
座禅、ヨガ、瞑想を組み合わせたオリジナルプログラム。軽く身体を伸ばしたり、ヨガの呼吸法を行ったりと、幅広い年齢層が行いやすい内容。人間工学に基づき開発された「リトリートチェア」で無理なく長時間の瞑想ができる

「禅坊 靖寧」の一番の醍醐味は「ZEN Wellness」だろう。空中座禅のために設計されたこの空間で、雄大な自然に包まれて心を無にする時間はほかでは体験し得ないもの。日帰りプランでは40分〜1時間ずつ2度の「ZEN Wellness」が設定され、独自の座禅リトリートをたっぷり満喫できる。そのはじまりは、「シンギング・リン」の癒しの鐘の音から。軽く身体をほぐし「リトリートチェア」に座ると、自然にすっと背筋が伸びる。インストラクターの穏やかな声に導かれ、そっと目を閉じ集中していると、木々のざわめきと鳥や虫の声に空間の広がりを感じ、森の中を浮遊するような感覚に。目を開いたときの緑のまぶしさにも心打たれる。「お客さまの7割が座禅初体験。気持ちが鎮まり心の底からリラックスできると、繰り返し来られる方も」とインストラクターの茶木めぐみさん。終了後は「ZEN書」と「ZEN茶」の体験を。いずれも書道や茶道の心得がなくても、心静かに精神統一できる。自然との一体感を味わいながら自分と向き合うひとときは、帰宅後の慌ただしい日常の糧ともなるに違いない。

ZEN 書
手本を見ながら一筆ずつ集中して字をしたためることで、雑念が消え心穏やかになれる「書写」。字に自信がなければ手本を下敷きに文字をなぞっても。修行である写経ではないので、肩肘張らずに挑戦してOK
ZEN 茶
心静かに自分と向き合いながら、自分のためにお茶を点てる豊かな時間を。茶道の経験がない人には道具の使い方も指導。お茶とお菓子は、デッキや宿坊、ラウンジなど施設内の好きな場所でゆっくりと味わえる

身体の内からととのえる
自然由来の禅坊料理

ウェルビーイングを実現するためには、身体をつくる基となる食事も重要。「禅坊 靖寧」で提供されるのは、オリジナルの「禅坊料理」だ。監修を手掛けるのは、発酵醸造料理人として活躍する伏木暢顕シェフ。肉や魚、乳製品、卵などの動物性食品を使わないばかりか、砂糖や小麦粉、油も一切不使用。現地で調理を担当する臼田直人シェフによると、調味料は伝統製法のものだけを使っているという。

「伝統製法の醤油や味醂、味噌は味わいがいいのはもちろん、何年もかけてつくられているため身体で分解されやすく、生きた麹菌を含んでいるからです」

精進料理より厳しい制約を設け、身体へのやさしさを極めた「禅坊料理」。そこで主役となるのは、淡路島産の上質な野菜や米。古代、都に食料を貢ぐ「御食国(みけつくに)」であった淡路島の豊かな恵みを体感できる。

「自家製甘酒は最後に。生きた麹菌が消化を促進してくれます」
 
自然との一体感を味わえる空間の中で、座禅で心身をリフレッシュし、「禅坊料理」で身体の中からも軽やかに。心や身体が疲れたとき、よりどころとしたい特別な場所がここにある。

山の芽吹きの野菜散らし寿司
こんにゃく米を50%配合し糖質をオフ。野菜も食用花も淡路産。具材は右が淡い味、中央が酸味、左が濃厚な味になるよう盛りつけられている
淡路の野菜の炊き合わせ
タマネギや赤万願寺、瓜、トウモロコシなど季節の野菜をそれぞれの特徴に合わせて調理し、あわじ島グルメトマトと利尻昆布で取った出汁で調味
蒟蒻蕎麦
蒟蒻粉と蕎麦粉のみでつくった弾力ある蕎麦。利尻昆布と乾燥ポルチーニの旨み豊かな出汁に、松の実とクルミでコクを加えたつゆでいただく
竹蒸し豆腐
竹筒に入れて蒸し、竹の爽やかな香りを移した豆腐。昆布と乾燥舞茸の出汁に、柴漬けで塩味と酸味、彩りを加えている。中には地野菜入り
みたらし団子
たたいたもち米を豆乳で伸ばしたまろやかな団子の中にはピスタチオが。長期熟成のみりんの風味豊かなみたらしあんに、キヌアの食感を添えて

“禅”の思想によりコミットしたいなら……

満月・新月の日限定宿泊プランに参加
満月や新月の日を中心に、月に数回1泊2日の宿泊プランを実施。月や星の光の下行う「ZEN Wellness」は神聖な雰囲気。雑巾がけを行う「朝のおつとめ」もすがすがしい。女性限定プランなどもあるのでサイトでチェックを
セレクトされた癒しグッズを自宅に持ち帰る
ラウンジにあるショップでは、オリジナルのタオルや「ZEN茶」で使われた茶道具、同施設がセレクトしたオーガニックコスメやウェアなどを販売。心地いい肌触りや香りのアイテムをリトリートの思い出に

ZEN STAY(宿泊時)の過ごし方
※プログラムにより変更あり
DAY1
14:30 チェックイン
15:00 プログラム開始
15:30〜16:30 ZEN Wellness
16:45〜 ZEN 茶/ZEN 書
18:00〜19:00  禅坊料理
19:30〜20:00  ZEN Wellness
22:00 就寝

DAY2
6:30 起床
6:45〜7:15 朝のおつとめ 
7:30〜8:00 ZEN Wellness
8:00〜9:00 朝食
9:30〜10:00 部屋の掃除
10:00 チェックアウト

禅坊 靖寧
住所|兵庫県淡路市楠本字場中2594-5 
Tel|0799-70-9087
客室数|18室
料金|ZEN Wellness 日帰りプラン(4時間)2万3000円〜、ZEN STAY 1泊2日食事付4万8000円〜
カード|AMEX、DINERS、DC、JCB、UC、VISAなど ZEN STAY
IN|14:30
OUT|10:00
夕・朝食|和食(禅坊料理)
アクセス|車/神戸淡路鳴門自動車道淡路ICから約5分 バス/神戸三宮バスターミナルから北淡路西海岸ライン岩屋・野島・北淡IC行きに乗車、禅坊靖寧前で下車、約45分 電車・船/JR明石駅から明石港まで徒歩約10分、船「ジェノバライン」に乗り換え岩屋港まで約13分、岩屋港から無料シャトルバスあり
施設|禅デッキ、ヨガテラス、ラウンジ、サロン、宿坊、ショップ
 

≫公式サイトはこちら

 
 

text: Miyo Yoshinaga photo: Shintaro Miyawaki
Discover Japan 2022年10月号「旅で、ととのう。/西九州新幹線開業!特別企画『九州』」

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