兵庫県・淡路島《禅坊 靖寧》
“禅”と“発酵”でととのう滞在
淡路島北部の山間にこつぜんと現れる、圧倒的な存在感の木格子の建築。世界的建築家の坂茂さんが “空中座禅道場”として設計したこの「禅坊 靖寧」では、禅の要素を取り入れた、いままでにないデトックスとリトリートが実現する。身も心も癒される「3つのZEN」体験から、自然由来の禅坊料理まで、その魅力を紹介していく。
禅の要素を取り入れた
新しいリトリート
北淡路の静かな山の中にまっすぐ延びる、木組みの橋梁のような建築。この「禅坊 靖寧」は、建築業界で最も権威ある賞のひとつ「プリツカー賞」を受賞した坂茂さんが、「空中座禅道場」として設計した施設だ。斜面上の敷地を見て、宙に浮かぶように森を見下ろせる建築を発想した坂さん。外から見ると周囲の森とのコントラストが際立ち、中に入ると存在感が消え、森に溶け込む建築を意図したという。その狙い通り、この建築の外観は緑の中で圧倒的な存在感を放つが、2階の「ZENデッキ」に立つと建築の存在を忘れるほどの開放感。360度、見渡す限りの森が広がるオープンエアーの空間で目を閉じると、森のざわめきがじかに感じられ、風に吹かれて空中に浮かんでいるような不思議な感覚が味わえる。
自然との一体感にあふれ、建築的な見どころも豊かなこの場所で体験できるのは、海外でも注目されている「禅」の要素を取り入れた、心身の癒し。座禅や瞑想、ヨガを組み合わせたオリジナルの「ZEN Wellness」では、森の中を浮遊するような“空中座禅”で心を鎮めリセットできる。さらに、健康的で滋味深い「禅坊料理」を味わったり、「起きて半畳、寝て一畳」の精神に基づき必要最低限のものだけで構成された宿坊で自分に向き合ったり。忙しい日常から離れ、豊かな自然の中で本来の自分を取り戻す“リトリート”がかなうのだ。
この世界に類を見ないリトリート施設が誕生したのは今年4月。運営を行うのは、2008年から淡路島で地方創生事業を行うパソナグループだ。一昨年には、本社機能の一部を淡路島に移転する計画を発表したことでも話題を呼んだ。同社広報担当に話をうかがうと、「私たちが目指しているのは、心身ともに健康で、社会的にも満たされたウェルビーイングなライフスタイル。コロナ禍を経たいま、社会全体としても暮らしや働き方への意識が変わり、身体だけではなく心の健康にも関心が高まっています。自然の中での禅体験を通して、心身ともにリフレッシュできるこの施設は、都会では味わえないマインドフルネスな時間をご提供できる場所なのです」と教えてくれた。
約4時間の日帰り「ZEN Wellness」プランを基本に、すでにリピーターも訪れているという。それはあえてここまで足を延ばしたくなる、独自の魅力があることの証左といえるだろう。
身も心も癒される
「3つのZEN」体験
「禅坊 靖寧」の一番の醍醐味は「ZEN Wellness」だろう。空中座禅のために設計されたこの空間で、雄大な自然に包まれて心を無にする時間はほかでは体験し得ないもの。日帰りプランでは40分〜1時間ずつ2度の「ZEN Wellness」が設定され、独自の座禅リトリートをたっぷり満喫できる。そのはじまりは、「シンギング・リン」の癒しの鐘の音から。軽く身体をほぐし「リトリートチェア」に座ると、自然にすっと背筋が伸びる。インストラクターの穏やかな声に導かれ、そっと目を閉じ集中していると、木々のざわめきと鳥や虫の声に空間の広がりを感じ、森の中を浮遊するような感覚に。目を開いたときの緑のまぶしさにも心打たれる。「お客さまの7割が座禅初体験。気持ちが鎮まり心の底からリラックスできると、繰り返し来られる方も」とインストラクターの茶木めぐみさん。終了後は「ZEN書」と「ZEN茶」の体験を。いずれも書道や茶道の心得がなくても、心静かに精神統一できる。自然との一体感を味わいながら自分と向き合うひとときは、帰宅後の慌ただしい日常の糧ともなるに違いない。
身体の内からととのえる
自然由来の禅坊料理
ウェルビーイングを実現するためには、身体をつくる基となる食事も重要。「禅坊 靖寧」で提供されるのは、オリジナルの「禅坊料理」だ。監修を手掛けるのは、発酵醸造料理人として活躍する伏木暢顕シェフ。肉や魚、乳製品、卵などの動物性食品を使わないばかりか、砂糖や小麦粉、油も一切不使用。現地で調理を担当する臼田直人シェフによると、調味料は伝統製法のものだけを使っているという。
「伝統製法の醤油や味醂、味噌は味わいがいいのはもちろん、何年もかけてつくられているため身体で分解されやすく、生きた麹菌を含んでいるからです」
精進料理より厳しい制約を設け、身体へのやさしさを極めた「禅坊料理」。そこで主役となるのは、淡路島産の上質な野菜や米。古代、都に食料を貢ぐ「御食国(みけつくに)」であった淡路島の豊かな恵みを体感できる。
「自家製甘酒は最後に。生きた麹菌が消化を促進してくれます」
自然との一体感を味わえる空間の中で、座禅で心身をリフレッシュし、「禅坊料理」で身体の中からも軽やかに。心や身体が疲れたとき、よりどころとしたい特別な場所がここにある。
“禅”の思想によりコミットしたいなら……
ZEN STAY(宿泊時)の過ごし方
※プログラムにより変更あり
DAY1
14:30 チェックイン
15:00 プログラム開始
15:30〜16:30 ZEN Wellness
16:45〜 ZEN 茶/ZEN 書
18:00〜19:00 禅坊料理
19:30〜20:00 ZEN Wellness
22:00 就寝
DAY2
6:30 起床
6:45〜7:15 朝のおつとめ
7:30〜8:00 ZEN Wellness
8:00〜9:00 朝食
9:30〜10:00 部屋の掃除
10:00 チェックアウト
禅坊 靖寧
住所|兵庫県淡路市楠本字場中2594-5
Tel|0799-70-9087
客室数|18室
料金|ZEN Wellness 日帰りプラン(4時間)2万3000円〜、ZEN STAY 1泊2日食事付4万8000円〜
カード|AMEX、DINERS、DC、JCB、UC、VISAなど ZEN STAY
IN|14:30
OUT|10:00
夕・朝食|和食(禅坊料理)
アクセス|車/神戸淡路鳴門自動車道淡路ICから約5分 バス/神戸三宮バスターミナルから北淡路西海岸ライン岩屋・野島・北淡IC行きに乗車、禅坊靖寧前で下車、約45分 電車・船/JR明石駅から明石港まで徒歩約10分、船「ジェノバライン」に乗り換え岩屋港まで約13分、岩屋港から無料シャトルバスあり
施設|禅デッキ、ヨガテラス、ラウンジ、サロン、宿坊、ショップ
text: Miyo Yoshinaga photo: Shintaro Miyawaki
Discover Japan 2022年10月号「旅で、ととのう。/西九州新幹線開業!特別企画『九州』」