「ふふ 奈良」庭屋一如のリゾートが奈良の新しい歴史を開く
古都・奈良を訪れるたびに燻し銀のごとく渋いオーラに包まれる。名所・旧跡は数知れず、探索し、知るほどに古(いにしえ)の奥深さに惹かれていく……。そしていま、奈良公園の一角に話題の最高級リゾートが扉を開けました。
せきねきょうこ
1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多く、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタントやアドバイザーも兼任。著書に『一度は行きたい世界のホテル&リゾート』ほか
奈良の伝統に触れる、新しい贅沢を体感
2020年6月5日、リゾートホテル「ふふ奈良」の開業日。わずか数日後に訪れた際には「当初より想像を遥かに超えた人々が来館された」と関係者のうれしい声が聞けた。この瀟洒な宿・ふふ 奈良は、世界的な建築家の隈研吾氏が建築基本デザインを担当。メインのエントランスから見るホテルの建物は、漆黒とも違う“古代墨”の温かで優しい墨色の外壁が印象的だった。壁に並べて飾られた“箒”にも、また格子の飾りにも、特徴的な甍(屋根の大棟)や大和張りにも奈良のいにしえの景観が継承され、奈良独自の匠の伝統や名残を、繊細に、忠実に、そして斬新に創り出している。
ふふ 奈良の魅力のひとつに、雅号を「滴翠」と号する茶道家で、山口財閥の当主であった山口吉郎兵衛の別邸があった「瑜伽山園地」の復元がある。ロビーや客室がある棟と、日本料理「滴翠」の棟を分かつこの庭園は、奈良県が管理運営し一般開放もされている。庭園の中央には、滴翠の茶室も復元させた。
奈良公園には、国の天然記念物の“鹿”が生息しており、ホテル駐車場あたりまで散策に来るらしい。「いくら鹿が嫌いな植物を植えても、すっかり葉を食べられてしまう」と、植木囲いを指してスタッフが笑う。このスモールラグジュアリーホテルの開業を、昔から公園を“我が家”にしていた鹿も待っていたのだろう。
ホテルの客室棟の建物の中心には「中庭」と呼ばれる細長い庭がある。手掛けたのは著名なランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏だ。巨石、小石、木、土、水で奈良の自然を表現した細長い空間は、観ているだけで心が静かに整う……不思議な庭である。
ふふ 奈良には全30室、5タイプの贅沢な客室が揃っている。すべての室内には天然温泉露天風呂が設置され、客室の家具・調度品、ファブリックもそれぞれに異なっている。どの客室も広く(71〜121㎡)、「ふふ」らしい贅沢なつくりと、奈良の燻し銀のような高級感が表現されている。同時に、伝統を体感できる墨や古木遣い、真鍮の輝きやスタイリッシュなライティング機器など、古さと新しさ、渋さと洗練のバランスが見事に折衷されている。竹林に面した客室は、日本人の美意識でもある生活と自然との一体感を有し、室内に居ながら庭を見て物を思い、静かなる時を過ごす古都らしい滞在となる。
漢方や和ハーブを取り入れた夕食
ふふ 奈良が提供する食事は、奈良の伝統食や、ゆかりの深い奈良由来の生薬も取り入れている。大和野菜や和ハーブ、和漢植物、生薬など、奈良らしい食材を生かした「新しい、ふふの食事」に挑戦しているというのだ。その食事が楽しめるレストランは、庭や茶室に臨み、2階席からは鷺池が視野に入る快適な空間だ。
料理は、日本料理「滴翠」と鉄板焼き「久璃」で楽しめる。滞在客に用意される夕食、朝食のほか、開業直後から地元客で賑わうランチや、カフェもオープン。オールデイダイニングの機能を有している。
滴翠では旬の食材を奈良の味つけに仕上げるという懐石料理、久璃でも季節の旬と奈良の伝統を融合させた鉄板焼きを提供している。「大和は国のまほろば」と伝わるように、奈良は日本の食文化発祥の地といわれる。ここ、ふふ 奈良でも、奈良の郷土料理や和漢植物をアレンジし、オリジナルのメニューを提供。まさに伝統の奈良とスタイリッシュな「ふふ」の感性が融合した、料理のコラボレーションである。
贅沢な品数の朝食にも「ふふ」らしさが凝縮されていた。大和野菜のスムージーをスターターに、奈良の数々の食材を使った小鉢が並ぶ。納豆汁、茶粥と合わせて一日のスタートにふさわしいエネルギッシュな朝食は完食だった。
「シスレー」100%監修
世界初の薬湯付きコースも
奈良の地酒や生薬を使ったカクテルもおもしろい
「座する」がテーマの心落ち着く客室デザイン
ふふ 奈良
住所|奈良県奈良市高畑町1184-1
Tel|0742-81-7738
客室数|30室
料金|1泊2食付3万5000円〜(税別・サ込)
カード|AMEX、Diners、JCB、MASTER、UC、VISAほか
IN|15:00 OUT|11:00
夕食|日本料理、鉄板焼(レストラン)
朝食|日本料理(レストラン)
アクセス|車/京奈和自動車道木津ICから約15分
電車/近鉄奈良駅からタクシーで約5分、JR奈良駅からタクシーで約10分
施設|レストラン、バー、スパ、貸切風呂、ショップ
www.fufunara.jp
text: Kyoko Sekine photo: Mariko Taya
2020年11月号 「あたらしい京都の定番か、奈良のはじまりをめぐる旅か」