FOOD

卵のように大きい奈良いちご「珠姫」

2020.4.13
<b>卵のように大きい奈良いちご「珠姫」</b>
奈良県産の「珠姫」(写真右)と「古都華(ことか)」(写真左)。「珠姫」は果実の大きさが特徴で、90g以上のものも確認されている。味は、酸味が少なく、やさしい甘みがある

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞く。今回は次々に新品種を発表し、注目されている奈良県のいちご。中でも新たに品種登録出願されたばかりの「珠姫」について、開発研究に携わったお二人から話を伺った。

いちごは1株を手に入れればそのクローンを無限に増やすことができるので、民間ではなく国や県の研究機関が開発を行ってきた。写真は、奈良県農業研究開発センター内でいちごを栽培している圃場の様子。現在は別の場所へと移転している

赤い愛らしいビジュアルと、皮をむかずに手で持ってそのまま食べることのできる手軽さ、そして甘さや酸味が口に広がる美味しさ。そんな魅力を併せもついちごは、老若男女に人気のある食べ物のひとつ。農林水産省発行の雑誌『aff』によると、日本は生食の消費量が世界一で、日本のいちごは約300もの品種があるという。

次々に新品種が発表される背景には、民間ではなく都道府県ごとに進められる開発がある。奈良県農業研究開発センターで育種科科長を務める西本登志さんは「種苗法に基づいて、品種利用を占有する権利を20〜25年保護する制度があります。県外での利用が許諾されているいちごは少なく、各県がオリジナル品種を育てる時代になっているのです」と話す。いちごの各品種は、いまや“ローカルフード”といえるのかもしれない。

奈良県でも新品種の開発・育成は盛んだ。西本さんは、平成12年に登録された奈良県のいちご「あすかルビー」や、平成23年に登録された「古都華」の育成に携わった。特に独特の味わいの「古都華」はケーキ店などで人気が高く、ブランドいちごになっている。

さらに新顔も登場した。令和元年12月に品種登録の出願公表をされた「珠姫」だ。育成に携わった、奈良県農林部マーケティング課の東井君枝さんに話を聞いた。「特徴は、卵ぐらい大きい果実がたくさん収穫できるところで、大きいものではなんと90gを超えるいちごも確認されています。こんなに果実が大きい品種は珍しいです。味は、酸味が少なく、やさしい甘みがあります」。

「珠姫」の誕生までには、どのような苦労があったのだろう。東井さんはこう話す。「平成26年に新品種をつくるための掛け合わせをスタートしました。品種にするためには、味はもちろんのこと、収量、果実の色やかたち、育てやすさ、収穫開始の時期、病害への抵抗性などが求められます。それらを加味して掛け合わせを考えるのです。約6500の種子を採ってまき、定植したらひたすら選抜していきます。特性を見極めて選抜していくのですが、とても根気の要る作業です(笑)」。

選抜は運命の分かれ道ともいえるが、その仕方は人それぞれだ。「先輩から『選抜は(いちごの)欠点ばかりが目につくけれど、最初の選抜では、やさしい気持ちで長所を探しなさい。その後の選抜では、欠点をたくさん見つけて、その欠点を補って余りある長所があるものを選びなさい』と教えていただいたので、私はそれを心に留めて選抜してきました」と東井さんは話す。そうして選ばれたのが「珠姫」だったのだ。

平成28年から生産者による生産現場での試験をはじめたところ、生産者からの反応がよく「来年からつくりたい」という要望が出たので、東井さんたちは「品種として登録してもいいのかな」と思いはじめた。一般の人に味のアンケートを取ると、「珠姫」は酸っぱいいちごが苦手な人から特に人気があることがわかった。先述したように、県から品種を生み出さないと生産者はつくれる品種が限られてしまう。「つくりたい方がいるのなら、品種として出そう」と決まったのだ。

「苦労して生み出したいちごは、どれも我が子のように思っています」と東井さんはほほ笑む。

ひと粒のいちごに秘められたストーリー。一般販売がはじまっている「珠姫」の未来が楽しみだ。

 

人と人の出会いを生む場所
奈良の「いま」を知るなら、coto cotoへ

小誌プロデュースの下、奈良市の観光の中心にある公共施設の一部を活用して誕生したcoto coto。大和野菜を使った料理や地酒、曽爾高原ビールなどが楽しめるほか、併設のギャラリースペースで展示やイベントを開催。

企画協力=三浦雅之 文=小久保よしの 編集=中森葉月 写真=原田教正 写真提供=奈良県農業研究開発センター

2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」

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