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仏像の鑑賞は“手元”から!
密教の印を知ろう

2020.9.24
仏像の鑑賞は“手元”から!<br>密教の印を知ろう
金剛界大日如来の智拳印(大日拳印などの別名あり)。胎蔵界大日如来は法界定印を結ぶ

仏像が両手の指で表すさまざまなかたちを印といいます。そのかたちは仏や菩薩など、それぞれにパターンがあり、同時にそれぞれの徳や悟りを表すものです。ここでは仏像を鑑賞するときに役立つ、印の基本を解説していきます。

印を結ぶことによって
仏との一体化を目指す

降三世明王の降三世明王印(大印)

両手の指で多様なかたちをつくる印(印相、印契、密印ともいう)。そのルーツは、バラモン教の祭祀における舞踊において、有形無形のものを手指で表現したムドラー(ジェスチャー)にある。ムドラーの中には、現在の密教の印に通じるものが少なくない。

仏教は当初、偶像崇拝を行っていなかったが、釈迦の入滅から数百年経って、仏像がつくられるようになった。その頃の仏像が結ぶ印は、釈迦が悟りを得た状態を表す「定印(禅定印)」、釈迦が悟りを開いた後、惑わそうとする魔物を退けた際の「触地印(降魔印)」、釈迦の最初の説法を象徴する「説法印(転法輪印)」をはじめ、釈迦が行ったことや釈迦にまつわる伝説を説明する意味合いのものだった。

この3つの印に、仏教の力によって人々の恐れを取り払うことを示す「施無畏印」、人々の願いを聞き入れることを示す「与願印」を加えた5つの印は「釈迦の五印」と呼ばれ、その後の仏像の印としても多く用いられている。

印はその後、大乗仏教から興った密教によって、古代インドの神々やムドラーなどの要素が取り入れられた結果、諸尊の徳や悟りの内容を象徴するものとして、さまざまなかたちが用いられるようになる。さらには仏像だけでなく、僧が結ぶようになった。

大威徳明王の檀陀印(大威徳根本印)

真言密教では、手に印を結び(身密)、口で真言を唱え(口密)、心に仏を思う(意密)ことで、仏の身体(身)、言葉(口)、心(意)の働きを表す「三密」と一体化することで悟りの境地に達すると考える。そのため印を結ぶこと(身密)は、口密、意密とともに特に重視されている。

また、真言密教では、右手の親指から順に識、想、受、色、という「五蘊」(仏教で、人間の心身をつくり上げていると考える5つのもの)、左手の親指から順に空、風、火、水、地という「五大」(万物をつくり上げる5つのもの)をそれぞれ象徴すると考え、印でこれらを組み合わせることでさまざまな教えを説く。また手指はそれぞれ、親指=大指、人差指=頭指、中指=中指、薬指=無名指、小指=小指という異名で表される。

印には数えきれないほどの種類があるが、諸尊(仏像)ごとにパターンがある。たとえば大日如来であれば、胎蔵界は膝の上に右手が上になるように、両手を仰向けに重ね、左右の親指の先を付ける「法界定印」、金剛界であれば金剛拳にした両手から立てて伸ばした左手の人差指を右手の小指で握る「智拳印」を結ぶ。そのため印は、その像が誰を表したものなのかを知る手掛かりにもなる。

真言密教では「十二合掌」と「六種拳」を、すべての印の基本となる印母としている。ちなみに印は、そのものに諸尊の力が宿るものであり、悟りである仏の真理へつながるもの。本来は、真理を伝える仏や菩薩などの真実の言葉である真言と並び、師から弟子に秘伝として授けられ、真言と合わせて結ぶものである。そのため、密教の僧が印を結ぶ場合、みだりに一般に見せることはせず、本来は法衣(衣服)の下で行う。

真言密教の基本となる18の印

印は大きく「合掌印」、「定印」、「拳印」に分けられる。真言密教には、12種の合掌印と6種の拳印を基本とする。

●六種拳
6種のうち蓮華拳、金剛拳、内縛拳、外縛拳は特に重要で四種拳ともいう。

蓮華拳
胎蔵界を象徴し、胎蔵拳、胎拳ともいう。親指を除く四指を握り、親指で人差指を押さえる。

金剛拳
金剛界を象徴する。中指、薬指、小指を握り、親指で中指を押さえ、その親指を人差指で押さえる。

内縛拳
胎蔵界を象徴する。右手の指が上になるようにして、両手の指を掌内でしっかり交差させる。

外縛拳
金剛界を象徴する。右手の指が上になるようにして、両手の指を掌外でしっかり交差させる。

如来拳
左手で蓮華拳、右手で金剛拳をつくり、左手の親指を右手に差し込む。浄土変印ともいう。

忿怒拳
金剛拳の変形ともいわれる。親指を中指と薬指で握り、立てた人差指と小指の先を少し曲げる。

 

●十二合掌
両掌を合わせるかたちが基本だが、中には合わせないものもある

堅実心合掌
両方の掌を堅く合わせる、最も一般的な合掌。堅く合わせた掌中が印名の「堅実心」を表す。

虚心合掌
両方の指先を揃え、掌中に空間をもたせて合わせる。その空間が印名の「虚心」を表す。

未敷蓮合掌
基本的には虚心合掌と同じで、掌中の空間を蓮のつぼみのかたちのように円形に大きくする。

金剛合掌
右手の指が上になるように、両手の指先を軽く交差させる。帰命(きみょう)合掌などの別名あり。

初割蓮合掌
未敷蓮合掌から人差指、中指、薬指の先を少し開く。つぼみが割れて蓮の花の開きはじめを表現。

顕露合掌
合掌印ながら両掌を合わせず、掌を仰向けにして、小指側のみを触れ合わせて並べる。

持水合掌
顕露合掌から、両手の親指以外の四指の先をつけ、水をすくうようなかたちにする。

反叉合掌
掌ではなく手の甲を合わせ、右手の指が上になるようにして、両手の指を交差させる。

反背互相著合掌
反叉合掌同様、掌ではなく手の甲を合わせてつくる。伏せた左手に右手を仰向けに重ねる。

横柱指合掌
掌を仰向けにして、顕露合掌のかたちから、両手の中指の先のみをつけてつくる。

覆手向下合掌
両手の親指の側面同士が触れるように両掌を並べて伏せ、両手の中指の先のみをつける。

覆手合掌
両掌を並べて伏せた状態で、両手の親指の側面同士が触れるようにしてつくる。

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text: Miyu Narita illustration: Fumino Hisanaga
参考文献:『イラストでわかる 密教 印のすべて』(藤巻一保著・PHP研究所)、『空海辞典』(金岡秀友編・東京堂出版)、『KOYASAN Insight Guide 高野山を知る一〇八のキーワード』(高野山インサイトガイド制作委員会・講談社)、『国宝・重要文化財大全 4 彫刻(下巻)』(文化庁監修・毎日新聞社)、『仏像図典』(佐和隆研編・吉川弘文館)、『マンダラの仏たち』(頼富本宏著・東京美術)

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