ART

日本で堪能できる「印象派」美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》

2022.11.5
日本で堪能できる「印象派」美術館<br><small>《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》</small>
写真提供=上原美術館

日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。

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〈お話をうかがった方〉
中村 剛士(なかむら・つよし)
青い日記帳主宰。大学在学中、教授の薦めで美術館に通いはじめる。以降、展覧会が開催されているタイミングであれば、好きな時間やペースで作品が見られる美術館めぐりに没頭。現在では、年間300以上の展覧会に足を運ぶ。2002年から、Tak(タケ)の愛称で、備忘録としてブログ「青い日記帳」を開始。展覧会レビューや書評など、幅広いアート情報を初心者にもわかりやすく発信している。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩書房)など。
http://bluediary2.jugem.jp

印象派は万人にやさしいアートです!

かつてのヨーロッパでは、神話や聖書の中で登場する一場面や歴史上の出来事を描いた「歴史画」が西洋絵画の主流であり、至高の芸術品とされていました。19世紀後半、聖書や歴史を知らない人にとって何が描かれているのか理解できない歴史画に反旗を翻し、身近な家族や風景を主に描いたのが「印象派」の画家たちです。

かわいい少女や自然豊かな風景、近代化を遂げるパリの街並みであれば、ギリシャ神話や聖書の知識をもたない日本人でも、内容を理解し、共感することができます。国や文化を問わず、印象派はシンプルに作品のよさを感じられるものなのです。ゆえに、『睡蓮』で知られるクロード・モネや、フランスのセーヌ川などの風景画を多く描いたアルファレッド・シスレーが、印象派の画家の中でも特に日本人に人気が高いことも納得できます。

印象派の特徴のひとつとして、光を軸にして、刻々と移りゆく時間をとらえている点があります。印象派を鑑賞する際には、それぞれの作品が一日の何時頃を描いた風景なのか、想像を膨らませながら楽しむのもおすすめです。

印象派を超えようとしたポスト印象派って?

「ポスト」は「次の」を意味する接頭語で、ポスト印象派とは印象派の次に美術史に登場した画家たちを指します。具体的にはゴッホやゴーギャン、セザンヌなど。印象派を受け継ぎつつも独自のスタイルを確立し、印象派の美術革命をさらに押し広げ、20世紀美術の大きな道筋を示しました。

名画とともに庭園散策も楽しめる
「DIC川村記念美術館」

クロード・モネ『睡蓮』 写真提供=DIC川村記念美術館

千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館は、20世紀美術の豊富なコレクションを収蔵する日本で有数の美術館。ヨーロッパやアメリカの多種多様な質の高いアート作品を、いつでも観ることができます。この美術館でひと際大きな存在感を誇るのは、西洋絵画の歴史を語る上で大きな転換期となった印象派の主役、クロード・モネの作品。約3万坪ある庭園内には、モネの作品を連想させるスイレンの池もあります。

クロード・モネ『睡蓮』
制作年|1907年
材質|油彩、カンヴァス
サイズ|W735×D925㎜
公開期間|通年

DIC川村記念美術館
住所|千葉県佐倉市坂戸631
開館時間|9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|展覧会によって異なる
Tel|050-5541-8600(ハローダイヤル)
施設|レストラン、カフェ、ショップ
https://kawamura-museum.dic.co.jp/

ロマン派から印象派まで近代洋画の宝庫
「ひろしま美術館」

写真提供=ひろしま美術館

原爆ドームをイメージした丸いドーム型の本館が特徴的な、広島市中央公園内にあるひろしま美術館。1920年代にパリを中心に活動した画家たち「エコール・ド・パリ」や、印象派といった日本人好みの作品をいつでも楽しめます。「印象派の父」と呼ばれたマネが、この時代では珍しい女性画家のモリゾを描いた肖像画は、印象派時代の幕開けを告げる一枚。

エドゥアール・マネ『バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)』
制作年|1872年
材質|油彩、カンヴァス
サイズ|W325×D464㎜
公開期間|通年

ひろしま美術館
住所|広島県広島市中区基町3-2 中央公園内
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(特別展会期中は除く。祝日の場合は翌日休)
料金|展覧会によって異なる
Tel|082-223-2530
施設|カフェ、ショップ
https://www.hiroshima-museum.jp/

仏教美術から近代絵画まで勢揃い
「上原美術館」

写真提供=上原美術館

静岡県下田市にある上原美術館は、平安・鎌倉時代の仏像や古写経などの仏教美術と、西洋絵画や日本近代絵画からなる近代美術の2本の柱からなるコレクションを有しています。ルノワールがモネと二人で、戸外でイーゼルを並べて描いた『アルジャントゥイユの橋』は、光をとらえることを主眼として描かれました。1874年に開催された印象派画家たちの最初のグループ展「第一回印象派展」の前年に描かれた、先駆けともいえる作品です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール『アルジャントゥイユの橋』
制作年|1873年
材質|油彩、カンヴァス
サイズ|W630×D460㎜
公開期間|不定期(要問い合わせ)

上原美術館
住所|静岡県下田市宇土金341
開館時間|9:30〜16:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|なし(展示替え日のみ)
料金|一般1000円、大学生500円、高校生以下無料
Tel|0558-28-1228
施設ラウンジ
https://uehara-museum.or.jp/

幅広い作品が集まる
西日本の公立美術館の先駆け
北九州市立美術館

写真提供=北九州市立美術館

印象派から現代アート、浮世絵など幅広いコレクションをもつ九州随一の美術館。『マネとマネ夫人像』は、ドガの描いた夫人の顔が気に入らず、マネが顔のあたりから切り取ってしまったという、いわくつきの「失われた名画」。マネから作品を取り返し、夫人を復元するつもりでカンヴァスを継ぎ足したようですが、現在もそのままの状態で残されています。

エドガー・ドガ『マネとマネ夫人像』
制作年|1868〜1869年頃
材質|油彩、カンヴァス
サイズ|W710×D650㎜
公開期間|8月27日(土)〜12月18日(日)

北九州市立美術館
住所|福岡県北九州市戸畑区西鞘ヶ谷町21-1
開館時間|9:30〜17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般300円、大高生200円、中小生100円(コレクション展の場合)
Tel|093-882-7777
施設カフェ、情報ラウンジ
https://kmma.jp/

約6000点を所蔵する国宝級の名作パラダイス
国立西洋美術館

写真提供=国立西洋美術館

14世紀の宗教画から20世紀美術まで、西洋美術の流れを堪能できる屈指の美術館。数百年にわたる物語画や風俗画など長い西洋絵画の歴史の中で、印象派がどのようなポジションであったのかを実際の作品を通して学べます。全8回開催された「印象派展」のすべてに、唯一作品が展示されたピサロは印象派の画家たちの精神的なリーダーでもありました。『立ち話』はパリ北西・ポントワーズ周辺の農村で、日常のワンシーンを描いた作品。

カミーユ・ピサロ『立ち話』(国立西洋美術館 松方コレクション)
制作年|1881年頃
材質|油彩、カンヴァス
サイズ|W540×D653㎜
公開期間|不定期(HPを要確認)

国立西洋美術館
住所|東京都台東区上野公園7-7
開館時間|9:30〜17:30(金・土曜は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、ほか臨時休館日あり
料金|一般500円、大学生250円、高校生以下無料
Tel|050-5541-8600(ハローダイヤル)
施設カフェ、ショップ
https://www.nmwa.go.jp/jp/index.html

 

「日本美術」を楽しめる美術館
 
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text: Discover Japan, Takeshi Nakamura
“2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」”

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