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フランクロイドライトの愛弟子と隈研吾の愛弟子が手掛けた名建築で別荘ステイ『加地邸』

2020.9.13
フランクロイドライトの愛弟子と隈研吾の愛弟子が手掛けた名建築で別荘ステイ『加地邸』

海と山が同居し、快適な気候と豊かな自然に恵まれた葉山。古くは別荘地として知られ、御用邸をはじめ政財界や文化人の邸宅が軒を連ねていた。そんな古きよき時代の名建築をいまに伝える加地邸に新しい命が吹き込まれる。

ライトの愛弟子 建築家・遠藤新氏とは?
東京帝国大学建築学科卒業。帝国ホテルを引き受けたフランク・ロイド・ライトの建築設計事務所に勤務。ライトの帰国後もその設計思想に基づいて自由学園などを完成させた。甲子園会館(旧甲子園ホテル)も遠藤の作品
ライトの建築哲学「プレーリースタイル」を採用し、周囲の緑と一体になるように建てられている加地邸。柱に使われている大谷石は、同時期に造られた帝国ホテル旧本館でも多用された。

創建当時からサロンとして利用されるリビングルーム。最も広くパブリックなスペースで、インテリアや家具は保存中心に修復

神奈川県三浦郡葉山町。一色海岸や葉山御用邸から徒歩10分ほど内陸に入った、はやま三ヶ岡緑地の一角に加地邸はある。三井物産のロンドン支店長や重役、監査役を歴任した加地利夫の別邸として1928年に建てられた邸宅で、フランク・ロイド・ライトの愛弟子として知られる建築家・遠藤新が設計を担当した。

大谷石を不規則に積み上げた柱、周囲の緑と融合するように建物の高さを低く抑えるプレーリースタイルの採用などライト建築の特徴が色濃く残されている。別邸竣工の3年後には、東京の白金にある加地の本邸も遠藤の設計によって建てられていることから、加地は遠藤に全幅の信頼を寄せていたことがわかるだろう。

創建当時から個人宅として使用されてきたが、老朽化が顕著に進んでいたことから、オーナーの武井雅子さんを中心にその価値を残したまま修繕するプロジェクトが発足した。

「この時代の優れた建築、特に個人宅はもうほとんど日本に残っていません。加地さんのご家族によると、海外暮らしを経験している加地夫妻は建築にも造詣が深く、建築家の遠藤さんに細かく指示を出し一緒につくり上げたといいます。大谷石の運搬には、近隣の人たちも率先して協力してくれたそう。葉山の象徴的な建物として地元でも親しまれているこの建物を残したい一心で利活用を考えましたが、歴史的建造物のように鑑賞用に保存したかったわけではありません。

刻々と移り変わる葉山の景色を眺めたり、それぞれの部屋でどんな風に過ごしていたのか想像したり、何日か滞在しないとわからない加地邸の魅力を伝えるには、宿泊施設として利用してもらうのが一番だろうと考えました。ワインセラーも新設したので、お好みのワインをお持ちいただき、思い思いに滞在を楽しんでいただければうれしいです」

都心から1時間半程度でアクセスできる葉山は、コロナ禍で注目されるステイケーションやショートステイに使い勝手のいいエリア。一棟貸しのスタイルは、3密を避けて家族や気の置けない友人とプライベートに旅を楽しむのにも最適だ。延べ床面積364㎡という広さを生かしたパーティやイベント利用の相談もできるという。

「第一の目的である保存のための修繕は完了しました。これからは、この価値をご理解いただける方にさまざまに利用してもらいたいと考えています。建物は古くても、新しい活用法を見出し、有形文化財の利活用のお手本となるよう進化していきたいですね」

建築デザインはそのままに。生まれ変わった加地邸
外観

Before
After

築90年を超える加地邸は木造(一部鉄筋コンクリート造)の2階建て(一部地下1階建て)。外観は全面的に補修し、植栽の整備でプレーリースタイルをよみがえらせた。銅板葺の屋根も竣工当時のもので、経年変化で美しいエメラルドグリーンの緑青が生成。

ダイニング

Before
After

大きなガラス窓の向こうに海を眺めるダイニングルーム。ガラス戸の奥に続くサンルームのようなダイニングは、今回の修復で網戸を抜いてテラスにリニューアル。ダイニングとテラスを合わせて大人数がテーブルを囲める団欒スペースに生まれ変わった。

ビリヤード室

Before
After

創建当時はビリヤード室として利用されていたプレイルーム。喫煙を考慮した造りで天井が高く、空気が抜けるように設計されている。修復にあたってはオリジナルに近い状態を残しつつ、インテリアに馴染むテーブル&スツールをちりばめた。

設計当時のデザインを生かした
照明やインテリアにも注目

建築だけでなく家具や照明まで総合的にデザインした遠藤。照明は部屋の中央に設置するのが一般的だが、家具や光の入り方、全体の見え方を考慮して設置されている。

建築家・遠藤新がこだわった
大空間の全貌を紹介

眺望室
加地邸の中で最も美しい景色が楽しめる眺望室は、2階の南側にせり出すように設けられている。緑多い葉山の街の先に相模湾が見渡せるぜいたくな空間
書斎・寝室 日当たりのいい主寝室は加地夫妻の寝室、書斎として使われていた。フローリングや壁の木材がほかの部屋とは異なり、ひと際明るい仕様に

今回、加地邸の保存・改修デザインを担当したカミヤアーキテクツ代表の神谷修平さんにもお話を伺った。

神谷 修平(かみや・しゅうへい)
建築家。早稲田大学建築学科卒業後、隈研吾氏に師事。2016年、文化庁新進芸術家海外派遣制度で選ばれ、デンマークに渡りBIG(BJARKE INGELS GROUP) に入社。シニアアーキテクトとして大規模高層ビルのプロジェクトアーキテクト等を務める。2017年株式会社カミヤアーキテクツ一級建築士事務所を設立。ガラスメーカーHARIO初のコンセプトショップ「HARIO satellite」のデザイン等を手掛ける。

「フランク・ロイド・ライトは、師匠である隈さんが最も敬愛する建築家の一人。そのライト建築を踏襲した遠藤作品の保存・改修を手掛けられたことは貴重な経験です」と語る神谷さん。くしくも、神谷さんが加地邸の修復を担当した頃の年齢と、遠藤が加地邸の新築に携わっていた年齢は同じくらいだったという。

加地邸は、山の勾配に沿うように建てられているため各部屋が棚田のように多層的につながる構造になっている。これは「プレーリースタイル」と呼ばれるライトの建築哲学を反映したもので、建物を周囲の自然と一体化させるために用いられた工法。また、建物やインテリアに多用される幾何学的なデザインは、「全一」という遠藤の家づくりのコンセプトによるものだ。

「六角形は雪の結晶や蜂の巣など自然界にも存在するかたちです。プレーリースタイルにも全一にも、自然と一体化する、室内に自然を取り込むといった意味合いがあり、遠藤のこだわりが強く表れています。今回修復を進める上でも受け継ぐ必要性を感じた工法でしたが、そのまま踏襲するのではなく、再解釈する、リ・デザインするという方向性で保存・改修を進めました。

オーナーのリクエストは、世界中の人々にゆっくり滞在してもらえる空間に仕上げることだったので、既存の魅力を残すだけでなく、文化財保護のラインに抵触しないぎりぎりのところで付加価値をどうつくっていくかを考えました。今回大きく変更したのは、地下の女中室をスパに改造した点と、ダイニングに人が集うテラスを新設したことです。これによって建築の美しさと居心地のよさを兼ね備えた、魅力的な空間が出来上がったと思います。でも、建物は使ってこそ存在価値のあるもの。

名建築に宿泊するという唯一無二の体験を、ぜひ楽しんでください」

食事は近隣の飲食店からケータリングも可能

宿泊は素泊まりが基本だが近隣には飲食店も多く食事には事欠かない。創業300年の老「日影茶屋」のケータリングのほか人気ベーカリー「ブレドール」のモーニング利用もおすすめ。岸部露伴は動かないのロケ地としても活用されており、ファンの方も一見ならず一験の価値あり。

加地邸
住所|神奈川県三浦郡葉山町一色1706
Tel|044-211-1711(unico事業部)
宿泊可能人数|6名
料金|2泊42万9000円〜、3泊47万6190円〜(税込) ※季節により変動あり。要問合せ
カード|AMEX、Diners、JCB、Master、VISAほか
IN|15:00〜18:00
OUT|12:00
夕朝食|なし(素泊まり)
アクセス|車/JR逗子駅から車で約16分
施設|寝室3室、浴室1、シャワー室1、トイレ3、キッチン、ダイニング、テラス、Wi-Fi
http://kachitei.link

text: Akiko Yamamoto photo: Atushi Yamahira
2020年10月 特集「新しい日本の旅スタイル」


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