「大黒屋」の七角形の箸が料理の味を変える?!
修繕を繰り返し、20年以上も同じ箸を使い続ける愛用者もいるという、東京都墨田区東向島にある「大黒屋」の木箸。それは手や指にしっくり馴染むだけでなく、食の美味しさや感じ方さえ変えてしまうといいます。いったいどんな箸なのか、つくり手を訪ねました。
竹田勝彦(たけだ かつひこ)
1942年、東京都生まれ。祖父は大工、父は桐下駄職人と、木に所縁のある家系で育つ。蔵前の食器問屋に勤めた後、1987年に大黒屋を開業。1999年に「江戸木箸」の商標登録を取得
使い勝手を極めた
一生ものとなり得る一膳
日本の食卓には、自分だけが使う食器「属人器」と呼ばれるものがある。使い心地がよくて、デザインも申し分なければ、愛着をもって大切に使う。もし傷ついたり壊れたりしても修繕してまた使う。そうするうちに、それなしでは生活がうまくいかなくなる。まさに“人に属するもの”となる。
「箸」も属人器のひとつ。しかしその選び方はどうだろう? 時が来れば新調する人も多い箸だが、素材によっては修繕が利き、扱い方次第では生涯をともにできる道具なのだ。
東京・東向島で「江戸木箸」を製造・販売する「大黒屋」。代表であり木箸職人の竹田勝彦さんが手掛ける箸は、一生ものとなり得る一膳だ。三角から八角までのさまざまな角数に加え、太い、長い、重いなどを合わせた200以上の箸が店頭に並び、訪れる人の手に触れられるのを待っている。「自分専用の道具だからこそ、その人の手に一番合う箸を選んでもらいたいんです」と、竹田さんは箸への思いを語る。
大黒屋の箸を持つ人のみぞ実感できる、銘木ならではの木肌のつや、心地いい重み、箸同士が触れて発した澄んだ音。頭から喰い先まで、まっすぐ一直線に砥がれたフォルムに、使い勝手を極めた美しさが凝縮されている。
「自分に合う道具とは、身体を助けてくれるもの」
多くの文化人が愛用し、料亭などでも扱われているという大黒屋の箸。中には「料理の味を変える」という人までいる。その真意を竹田さんにうかがってみた。
「人の手は器用。使い心地がいいとはいえない箸でも手が柔軟に合わせてしまいます。箸は大切なものだけれど、二本あれば食べられる。なんでもいいっていうのも箸なんです」と竹田さん。
「ただしうちの箸は、握りやすくて、つまみやすい。食べることに集中できるので、食事がより美味しく感じられるんですよ。たとえば、スッと切れる包丁が台所仕事を楽にするように、自分に合う道具とは“身体を助けてくれる”ものなんですよ」。身近なゆえについ役割を忘れがちな暮らしの道具が、いかに私たちの生活に欠かせないものなのかを再認識した。
かつては食器問屋に勤め、塗り物や箸の営業回りをしていた竹田さん。20年ほど勤め、箸屋になろうと決意したのは40歳を過ぎてから。当初は若狭や輪島の塗り箸を扱っていたが、四角や丸しかない箸の形状に疑問をもった。「もっと使いやすい箸を世に出したい」そんな思いが職人への道に踏み切らせ箸づくりに勤しむように。はじめて手掛けた八角の使用感は納得のいくものだったというが、箸とは3本の指で扱うのに、奇数箸がないのはなぜか、と思い至る。三角、五角とつくり進め、七角に到達したとき、その使用感は特別だったという。「3本の指が一面ずつ間隔を空けて箸をとらえるので、指が安定するんです。こんなに違うものかと自分でも驚きました」。
持ちやすいが、角度がミリ単位違うだけで均等なバランスにならず、最も難易度の高い七角。面倒だからやめようと思えば簡単だが、それでは使う人がいま以上の体験に至らない。「未体験の価値を届けるのも私の使命。職人は人ができないものをやってやろうと思うものだから」と語る竹田さんの目は、さらなる可能性を探求している。
毎日使うものだから、いい箸を。「私だけの」箸にめぐり合う唯一無二の体験を知らないわけにはいかない。
一本の箸が出来るまで
1.製材-1万膳単位の製材から選別
2.荒削り-頭から喰い先まで削る
3.生地磨き-最終仕上げでつやを出す
完成!
極上 七角削り箸 縞黒檀
価格|8800円
サイズ|大240㎜、中220㎜
材質|縞黒檀
大黒屋の設立|1987年
江戸木箸の誕生|1999年
大黒屋
住所|東京都墨田区東向島2-3-6
Tel|03-3611-0163
営業時間|10:00〜17:00
定休日|日曜、祝日、第2・3土曜
www.edokibashi-daikokuya.com
大黒屋の箸が
オンラインで購入できる!
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渋谷パルコのDiscover Japan Lab.および公式オンラインショップにて、大黒屋の箸や箸置きを販売中! ぜひ実際に手に取ってお楽しみください。
text: Kiyoko Hayashi photo: Kohei Omachi
Discover Japan 2021年12月号「ストーリーのある贈り物」