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宗像窯の守り継がれる「郷土料理にふさわしいにしん鉢」
ただいま、ニッポンのうつわ

2021.4.7
宗像窯の守り継がれる「郷土料理にふさわしいにしん鉢」<br><small>ただいま、ニッポンのうつわ</small>
W214×D165×H120mm 1万6200円

自分の料理や暮らしに合ううつわを求め続けて、高橋みどりが最近気になっているのが、ニッポンのうつわ。背景を知ると、使うのがもっと楽しくなることを伝えたい。今回は、福島県会津美里町の「宗像窯のにしん鉢」を紹介します。


高橋みどり

スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう! 料理上手のともだちレシピ』(マガジンハウス)など

宗像家
奈良時代に宗像大社の布教師として福岡から会津に移住。1718(享保3)年頃に焼物をはじめ、文政年間(1818~ 30)より陶業に専念、宗像窯を開く。震災で破損した東北最古の登り窯は2012年に修復。茶陶、花器、食器を制作。

山に囲まれ新鮮な魚が手に入らなかった会津では、貴重なタンパク源の海産物の乾物を上手に使う郷土食が生まれた。そのひとつが身欠きにしんの山椒漬けで、そのための鉢が会津本郷焼のにしん鉢だ。独特のかたちと釉薬の色、使い込まれた風情に惹かれ、骨董市で大中小と求めてきた高橋さん。カトラリーや箸入れに愛用していたが、本来の役割はずっと気になっていた。会津田島の若者と知り合い、その家に伝わる山椒漬けを教わりに、自前の古い鉢を手に出掛けたのは4年前。会津田島では、夏祭りに振る舞うという。棒ダラやぜんまいの煮物、干し貝のだし。祭料理はどれも雪深い風土に暮らす人の工夫が培った、じんわり底力を感じる味だった。

高橋さんが新しく手に入れたのは、会津本郷でただ一軒にしん鉢をつくり続ける宗像窯のもの。素地を板にし、頃合いに乾燥させ、切って成形するのは、8代当主宗像利浩さんの妻、眞理子さん。利浩さんの母から技を受け継いだ。1958年、宗像窯のにしん鉢はブリュッセルの万国博覧会でグランプリを受賞。表情に富む釉薬と一体になった陶土の土味、堂々たる風格に滲む風土の香り。その魅力が用途を超えて世界に通じた、と利浩さんは考える。貼り合わせる板は、底のほうを縁よりも薄く削り、見た目より軽く。伝え継ぐ中で工夫を重ねたあんばいや繊細な仕事は、奥に芯のある女性ならでは、と利浩さん。それはまさに会津の女性たちが守り継ぐ郷土料理にも重なる。ともに次代に続いてほしいと願わずにいられない。

にしん鉢の基礎知識

会津本郷焼
会津の焼物は桃山時代に鶴ヶ城の瓦を焼くためにはじまったという。 1645 年、初代藩主保科正之が招いた瀬戸出身の水野源左衛門が陶土を 発見。1800 年、有田に学んだ佐藤伊兵衛が磁器焼成に成功。

会津の郷土食に欠かせないにしん鉢
身欠きにしんを山椒、酢、しょうゆ、酒などで漬ける「にしんの山椒漬け」用の鉢。地元の本郷で焼かれた。粘土板 5 枚を貼り合わせて成形。長期間漬けた時代には共蓋もつくられ、古作には飴釉のほか白釉もある。

にしん鉢の土と釉薬
宗像窯で用いる地元の的場粘土は、素焼せずに釉薬をかけて焼く生掛け焼成が可能な良質な陶土。鉄分が多い飴釉は、油が浸みにくく水漏れが少なく塩分や酸にも強い。通気性がよく吸水性に富み、山椒漬には最適。

text : Akiko Nariai photo : Yuichi Noguchi
Discover Japan 2018年5月号「東京再入門」


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