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岐阜・郡上八幡〜白鳥の徹夜おどりの旅
文筆家 大石始

2022.8.11
岐阜・郡上八幡〜白鳥の徹夜おどりの旅<br><small>文筆家 大石始</small>

いまからワクワクが止まらない夏の旅計画。日頃から全国各地を拠点に活躍中の気になるアーティスト9人にも、この夏、旅に出るならどこへ? とうかがってみました。今回は、地域と風土をテーマとする文筆家、大石始さんに、夏旅スケジュールを伝授してもらいました!

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〈お話をうかがった方〉
大石 始(おおいし・はじめ)
地域と風土をテーマとする文筆家・選曲家。 旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。著書に『盆踊りの戦後史』、『奥東京人に会いに行く』、『ニッポンのマツリズム』、『ニッポン大音頭時代』などがある

 

郡上八幡〜白鳥
徹夜おどりをハシゴで踊り倒す。

提供=郡上八幡観光協会

盆踊りや祭り好きにとって、この2年間は本当につらかった。毎年夏になると盆踊り会場へ足を運び、リズムに合わせて踊ったり身体を揺らす。あるいは各地の祭りを訪れ、その背景や風土を味わう。それが日常になっていた僕のような人間にとって、盆踊りや祭りという喜びを奪われたこの2年は、生きていてもどこか張り合いがないというか、足が大地についていないような感覚があった。

だが、今年に入って少しずつ気運が変わってきた。規模を縮小したり開催時間を変えるなど感染症対策を取りながらではあるものの、今年は多くの地域で盆踊りや祭りが再開される見込みとなっている。かつては太平洋戦争などで数年間各地の祭りや盆踊りが中断したことはあるが、感染症で途絶えたというのは前代未聞。そうした休止期間を経た復活となるわけで、この夏はどの祭り会場でも大きな盛り上がりが見られるだろう。

では、そんな歴史的な夏、どこに出掛けるべきだろうか。僕がおすすめしたいのが、岐阜県郡上市八幡町の「①郡上おどり」だ。日本三大盆踊りのひとつに数えられる郡上おどりは、熱狂的な踊り手が集結することでも知られている。例年であればひと夏に31夜開催され、そのうちお盆の4日間は東の空が白む早朝まで踊りが続けられる。僕も過去何度となく踊りの輪に加わったが、踊りの熱気は日本トップクラスである。

そんな盆踊りであるがゆえに、通常開催がままならなかった地元の苦しみは僕らの想像を絶するものだろう。そもそも郡上おどりは玉音放送が流れた昭和20年8月15日ですら(死者の慰霊を目的として)踊られたのだ。去年、一昨年は配信イべントというかたちで行われたものの、「今年は、さすがに踊らせてくれ」という地元住民と各地の踊りフリークたちの声が届いたのか、17夜に開催日を限定し(それでも多いが)、時間短縮や入場制限を実施した上で再開されることになった。

会場となるのは郡上八幡城の城下町としての風情を残す旧市街だ。郡上おどりがはじまるのは夜20時。時間までゆったりと街を散策し、郡上おどりに向けて少しずつ気持ちを高めていくのが僕のルーティーンである。

以前であれば、郡上八幡最後の銭湯「天徳湯」で汗を流すのが僕の定番だった。昔ながらの銭湯で汗を流し、地元の方と軽い世間話をする。そんなことをしているうちに郡上八幡の空気に自分自身が馴染んでいくのだ。

ただし、天徳湯は2017年6月に惜しまれつつ閉業。あの湯船に浸かれないと思うと何とも残念だが、郡上市内にはほかにも複数の日帰り温泉が点在しているので、そちらで汗を流すのはいかがだろうか。僕のお気に入りは、長良川沿いに建つ「②ホテル郡上八幡」に隣接する日帰り入浴施設「宝泉」の天然温泉。目にも鮮やかな木々を眺めながら熱い湯に浸かっていると、旅の疲れも吹き飛んでしまう。火照った身体をうちわであおぎながら街をそぞろ歩くのも実に気持ちがいいものだ。

提供=白鳥観光協会

郡上八幡中心部は吉田川の清流が流れている。石畳の道の脇には水路が通っており、湧水や山水を引き込んだ水舟と呼ばれる水槽があちこちに設置されている。町を歩いていると常にどこかで水の流れる音が聞こえてくる郡上八幡は、まさに水の都でもあるのだ。

水の流れる音を聴いていると、不思議と蕎麦を食べたくなってくる。水のいい郡上八幡には庶民的なそば店がいくつも営業しているので、毎回どこで食べるべきか迷ってしまう。今日は大正3年創業の「③松葉屋」へ。蕎麦を食べたくて店に入ったのに、僕は毎回中華そばを注文する。優しいスープをすすっているうちに、心と身体がまた郡上おどりに向けてチューニングされていくのだ。

郡上おどりと並び、郡上市には「踊り助平」と呼ばれる踊りフリークたちを熱狂させる盆踊りがもうひとつある。それが郡上市白鳥町の「④白鳥おどり」だ。

車に乗れば、東海北陸自動車道を使って30分ほどの近さだが、郡上八幡と白鳥に流れる空気はまるで別世界だ。城下町の風情が残る郡上八幡に対し、白山信仰の中心地である白鳥にはどこまでも続く山の世界の気配が充満している。

白鳥おどりは山岳信仰の地としての白鳥の姿を凝縮した盆踊りともいえる。郡上おどりほど規模は大きくないものの、踊りのテンポは早く、熱狂は郡上にも負けていない。城下町らしく洗練された郡上おどりよりもディープな魅力があり、会場を訪れたときは身が震えるほど感動したものだった。例年であれば白鳥おどりも毎年約20夜にわたって開催されるが、今年は規模を縮小。それでも3年ぶりの開催とあって、大変な盛り上がりとなることは間違いない。

郡上おどりと白鳥おどりの神髄を味わえるのが、徹夜おどり(郡上13〜16日、白鳥13〜15日)だ。まさにひと夏のクライマックス。以前、徹夜おどりの日の郡上八幡と白鳥をハシゴをしたことがあるが、僕はあれ以上の盆踊り体験をしたことがない。通常、徹夜おどりは朝方まで開催されるが、今年は深夜1時まで。空が白むまで踊り続けることはできないものの、日付を跨いでからの熱狂は想像を絶するものだろう。なお、開催にあたっては直前で日程や開催時間の変更もあり得るので、オフィシャルサイトなどで確認の上、会場へ向かうことをおすすめしておこう。

旅のスケジュール

①令和4年度 郡上おどり
日程|7月9日(土)、16日(土)、23日(土)、30日(土)、8月1日(月)、6日(土) 、7日(日)、10日(水)、13日(土)〜16日(火)、19日(金)、20日(土)、24日(水)、27日(土)9月3日(土) ※小雨決行
時間|平日・日曜〜22:30、土曜20:00〜23:00 ※8月13日(土)〜16日(火)の徹夜おどり期間は翌1:00まで
会場|日程ごとに異なる。詳細は、郡上八幡観光協会等でご確認ください
料金|無料
問|郡上八幡観光協会
Tel|0575-67-0002
www.gujohachiman.com/kanko

②ホテル郡上八幡
住所|岐阜県郡上市八幡町吉野208
Tel|0575-63-2311
料金|日帰り入浴利用750円〜(税・サ込)、1泊2食付2万3100円〜(税・サ込)※郡上おどり期間中の料金
www.chitora.co.jp

③松葉屋
住所|岐阜県郡上市八幡町橋本町908
Tel|0575-65-2271
営業時間|11:00〜22:30 ※祭り期間の土曜、及び徹夜おどり期間は延長営業
定休日|木曜

④令和4年度 白鳥おどり
日程|7月9日(土)、16日(土)、17日(日)、22日(金)〜24日(日)、30日(土)、31日(日)、8月6日(土) 、7日(日)、12日(金)〜15日(月)、16日(火)、17日(水)、20日(土)、21日(日)、27日(土)、9月24日(土)、25日(日)※小雨決行
時間|平日・日曜20:00〜22:00、土曜20:00〜23:00 ※8月12日(金)の徹夜おどり前夜祭は23:00まで。8月13日(土)〜15日(月)の徹夜おどり期間は翌1:00まで
会場|日程ごとに異なる。詳細は、白鳥観光協会等でご確認ください
料金|無料
問|白鳥観光協会
Tel|0575-82-5900
http://shirotori-gujo.com

 

宮崎の美味しいと
自然と文化を巡る旅

 
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illustration: Saki Machida
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