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奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」で
鮮度抜群の温泉にとろける【前編】
温泉ビューティ研究家・石井宏子さん厳選!

2022.6.17
奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」で<br>鮮度抜群の温泉にとろける【前編】<br><small>温泉ビューティ研究家・石井宏子さん厳選!</small>

温泉は生きている地球そのものだ。マグマのエネルギーに温められ、その土地の栄養を溶け込ませて全力で私たちを癒してくれる。唯一無二のありがたい生命の源だ。

飛騨山脈は日本列島を東西に分画するホットスポット。高温で湯量豊富な温泉が湧いている奥飛騨温泉郷はスゴイ温泉の宝庫だ。温泉ビューティ研究科の石井宏子さんが、湯力を存分に満喫できると評判の福地温泉「元湯 孫九郎」を訪れた。

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元湯 孫九郎では飛騨の伝統的な古民家を活用しているが、移築ではなく、実際にこの地に住んで養蚕を営んでいた自宅の建物を利用している

飛騨山脈は日本列島の東西を分画する火山帯であり日本海と太平洋の分水嶺エリアでもある。地球のエネルギーが渦巻く奥飛騨温泉郷には、全国屈指の高温で湯量豊富な温泉が湧いている。福地温泉では平安時代から温泉が利用されていたが、温泉地となってからは半世紀ほどだ。元湯 孫九郎は、養蚕や農業を営んでいた先代が、自宅の古民家を活用して1968年にはじめた温泉宿だ。2代目の女将はこの家で生まれ育ち、すてきな伴侶を得て二人三脚で宿を進化させた。大旦那と大女将も裏方として活躍し、家族のハーモニーがもたらす温かさに心安らぐ。

宿が独自に試行錯誤した源泉利用法の変革により、源泉100%で温泉の鮮度を損なうことなくすべての湯船へ届けられることになり、宿の湯力が劇的に向上した。同時に、温泉熱交換の恩恵で全館温泉熱暖房となり、エコエネルギーと滞在の快適性をもたらした。主力の自家源泉「帝の湯4号泉」は飲泉ができ料理にも活用。身体の内側からも温泉の力で元気をもらえる。

飛騨家具を配した心地よい客室
少しずつ改装を重ねた館内や客室は、居心地のよい場所へと進化している
温泉の後は“音浴”も愉しみたい
隠れ家のような「音泉リビングParagon」は、「柏木工」の飛騨家具に腰掛けて音の泉に浸る部屋

飛騨の古民家を活用した旅情あふれる湯宿から、その趣は残しつつ、過ごしやすさを追求して改装を重ね、飛騨家具を取り入れたモダンなパブリックスペースや客室もできた。温泉を満喫したら、のんびり音浴を。飛騨家具の椅子に座ってビンテージスピーカーで心地よい音楽に浸れる「音泉リビングParagon」は、古民家の入り口からは想像もつかない別世界だ。ロビーにある囲炉裏の奥には、飛騨家具を置いた休憩室や独立した喫煙室があり、お気に入りの椅子を見つけて過ごすお客も多い。リニューアルされた客室は、壁は珪藻土仕上げ、飛騨家具が置かれ、快適な寝具がある。訪れるたびに進化しているので、本当に目が離せない宿だ。

鮮度抜群なピュアな源泉を内湯と露天で愉しめる
4本の自家源泉を駆使し源泉率100%。内湯は飲泉可能な「帝の湯4号泉」。含有する重炭酸ソーダ(重曹)の泡が湯口ではじけるのは新鮮さの証し。露天風呂は高温と低温の源泉を混合して調整することでにごり湯になる
気兼ねなく入れるふたつの貸切風呂
予約なしで入れる貸切風呂も100%源泉かけ流しで、露天風呂も内風呂も家族で入れる広さ。ふと、一人の時間と空間で温泉に浸かりたくなったら、ふらりと行ける貸切風呂があるのがうれしい

宿に到着したら、源泉昆布茶で一服し、作務衣に着替えて露天風呂へ向かう。脱衣室に隣接する内湯で、まず身体をゆるめる。ほどよい温度で深めの湯船、しっかり手足を伸ばしてリラックス。ふわっと身体が軽くなったら露天の広い岩風呂へ。やわらかな緑色のにごり湯にテンションが上がる。旅情たっぷり、これぞ求めていた温泉の世界だ。気分転換に屋根付きの露天風呂へと移動。おや、ここの湯は透明なオーロラ色だ。同じ源泉なのに不思議だなあと入ってみると、なんだか感触も違うように感じる。湯船の広さによって注がれてからの熟成度が微妙に違うからかもしれない。泉質は単純温泉なのに個性的、まったく単純ではないのが温泉のおもしろさだ。音泉リビングで休息したら、別の自家源泉の内風呂「大湯」へ。泉質はナトリウム炭酸水素塩泉、肌の古い角質を落としてなめらかに整える美肌の湯だ。無色透明だが大地のミネラルたっぷり、とろりとなめらかな湯にぎゅっと抱かれているような重厚感だ。ここの温泉分析書はすごい。通常は源泉湧出時で分析したものが多いが、熱交換後の湯口でわざわざ分析して掲示しているのだ。二酸化炭素ガスが308.3㎎も残っているのは鮮度を損なわずに熱交換されて湯口へ届いている納得の数値だ。

【内湯】
泉質|ナトリウム炭酸水素塩泉
泉温|81.8度℃
湯の色|無色透明
加温|なし
加水|独自の熱交換システムで加水なしで適温に調整
かけ流し|〇

【露天風呂】
泉質|単純温泉
泉温|帝の湯2号泉67.2℃、帝の湯5号泉36℃
※掛け合わせて適温に調整
湯の色|緑褐色にごり湯(季節によりにごらない場合もあり)
加温|なし
加水|なし
かけ流し|〇

 

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text: Hiroko Ishii photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年5月号「ニュー・スタイル・ホテルガイド2022」

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