HOTEL

山梨・甲州市《STAY366》
造り手が営むワインとビールを堪能できる絶景宿

2023.1.18
山梨・甲州市《STAY366》<br><small>造り手が営むワインとビールを堪能できる絶景宿</small>
1階は「98BEERs」、2階が宿になっている「STAY366」。日常を忘れ、心を解放して過ごす特別な一日、1年365日のその先のよりよい一日への思いを込めた、大人のためのシンプルだけど贅沢な空間

美味しい酒を、その造り手の想いを感じられる場所で飲んで泊まる。そんな酒好きにとって至福の時間が過ごせる場所が、2022年秋にオープン。日本ワインをけん引してきた造り手の宿は、富士山に見守られるように佇んでいます。今回は、その酒が生まれた場所で造り手の想いに触れて飲む、そんな夢の滞在がかなう宿やワイナリー、ブルワリーをご紹介します。

〈ご紹介してくれた方〉
石井 もと子(いしい・もとこ)

輸入ワインのプロモーションにかかわるかたわら、ワインジャーナリストとして活動。『飲む!知る!歩く!日本版「ワインツーリズム」のすすめ』(講談社)、『日本のワイナリーに行こう』(イカロス出版)などの著作がある

場所にこだわったワイン造り

樽の中で発酵中のマスカット・ベーリーA。日中は野外で陽に当てる。これが「芒(NOGI)」の赤となる

甘さで風味の薄さや欠陥をカバーしたワインがまだ多かった1980年代からワイン造りをはじめた平山繁之さん。大手ワインメーカーで醸造技術を磨き、果実味をもつクリーンなワインを世に出し、現在の日本ワインの礎を築いてきた一人だ。

そんな平山さんが5年前に自ら開いたワイナリーが「98WINES」。98WINESでは培養酵母も亜硫酸も使わず補糖も補酸も基本的にしないが、平山さんは自然派ワインと呼ばれるのを嫌う。

ブドウのポテンシャルを最大限引き出すために、平山さんは技術と経験を駆使し発酵熟成の環境を整える。「手を加えずブドウに任せる」とする自然派の造り手とは一線を画している。

造るのは山梨の地品種といえる甲州とマスカット・ベーリーAのみ。契約農家のブドウも自ら収穫し「ひと粒でも病果があれば房ごと捨てる」と収穫時に徹底的に選果する。もろみやワインを疲れさせるポンプは極力使わず、雑菌繁殖の場となり酸化をもたらすタンクや樽の空気スペースをなくす補酒管理も徹底する。結果、ブドウは最高のパフォーマンスを見せ、身体に染み入るような味わい深いワインとなる。98WINEsはほったらかしの自然派ではなく、徹底的に手をかけるクリーンな自然派ワインなのだ。

造りには一切妥協しないが、平山さんの山梨の土地と人への思いが詰まった98WINEsは、訪れる人に優しく安らぎを与えてくれる。「ワインは人と人をつなぐもの」という思いがそうさせるのだろう。

ほかとは一手間ひと手間違うチャレンジングな造りをする芒シリーズの白、ロゼ、赤。男女それぞれの顔パターンがあるエチケットは毎年描き替える
自社畑にて平山繁之さん。98WINEsというワイナリー名は、このワインを通じて多くの人が交わり、不完全な98が100にも200にもなるようにと想いを込めた
樽発酵のマスカット・ベーリーA。まずは人が樽の中に入って、丹念にブドウをつぶす。ワイン造りの原点を思わせる。発酵初期の液温はひんやり
樽熟成中のワインは樽材を通して蒸発。ワインが変質しないように満量貯蔵が大原則。蒸発分にワインを注ぎ足す補酒作業をこまめに行う

出来たてビールをフリーフローで

ブルワリーに併設のタップルームで、出来たてのビールを。スタンダード4種のほか、桃や栗など季節限定のビールも登場

ワインの造り手にはビール好きが多い。平山さんも例外ではない。ワイナリーが軌道に乗ると、自分も楽しめるビールを造りたいという気持ちがむくむくわき上がったという。ワイナリーの近くに、時間を気にせずビールとワインを楽しめる宿泊施設を併設できる最適な物件も見つかった。

ブルワー(ビール醸造家)が見つからなければ自分で造ろうとしていたが、甲州市出身のブルワー宮嵜尚文さんと出会い、合流。「98BEERs」もスタートした。芸術家肌の平山さんの膨らむ思いを、片腕であるビジネスパートナーの吉留明子さんが各所と調整し、2022年秋、大人の憩いの場所「STAY366」が誕生した。

宮嵜尚文さんは甲州市在住で、山梨県内のブルワリーでビール醸造に携わった経験があり、準備段階から98BEERsに加わった
ガラス越しにブルワリーでの作業を見学できるタップルーム。日中は一般にオープン。宿泊客は夕方18時まで、なんとフリーフローで愉しめる
98BEERsはボトルでの販売もしているので、お土産にもできる。種類はセゾン、ベルジャンビター、レッドエールでそれぞれ1980円

ヴィンテージ違いでのペアリングを愉しむ

帆立、ボタン海老、湯葉。甲州とマスカット・ベーリーAを混醸した霜 ロゼのかすかな苦みが海老とホタテの甘い旨みを引き出す。山と海の幸せな出合い

平山さんは「ワインはセンス・オブ・プレイス」と、その地の神髄を表すものだとする。それゆえここでは、この地に根づいているブドウ品種である甲州とマスカット・ベーリーAのみを使ってワインを造る。

ふたつの品種から日常の食卓向けの「霜(SOU)」、挑戦的な造りをして品種のおもしろさを引き出した「芒(NOGI)」、より高みを目指した「穀(KOKU)」の3シリーズを造る。ワイナリーでは500円で3種類のワインを有料試飲できる。運がよければ限定生産の貴重なものが含まれていることも。実はリリースしたワインは早々に完売してしまうので、試飲用のワインを確保するのに苦心しているそう。

STAY366では同じワインのバックヴィンテージと現行ヴィンテージをともに出し、その味わいの違いをソムリエが解説しながらサービスする。平山さんの右腕でワインに精通した吉留さんがサービスすることもある。

98BEERsのビールはアペリティフ代わりに18時まで好みのものを好きなだけオーダーできる。定番はケルシュ、セゾン、ベルジャンビター、レッドエールの4種。ブルワーの宮嵜さんは、この地の軟水はビールの味をマイルドにするという。シャンパンのように瓶内で二次発酵させ、よりきめ細やかな泡立ちを生み出している。

夕食はエッジの効いたアレンジが施された蕎麦懐石。この卓越した食事を提供できるのも料理人・角谷康洋さんとの出会いからと平山さんは笑う。STAY366ではそんな料理長の感性あふれる料理が続く。

ワインは、ソムリエがサービスし、ペアリングを楽しめる。とはいえ、好みのワインがサービスされたら飲み続けてもいいし日本酒にシフトするのもありだ。食事と会話を楽しめるように、ソムリエもワインも主張し過ぎない。宿泊客が主役の大人の宿だ。

夕食に提供されるワインの数々
料理長を務める角谷康洋さんは修善寺や銀座の名店で腕を振るった蕎麦打ち職人兼料理人。朝も夜も蕎麦を打ち、発想豊かな料理で宿泊客を唸らせている

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美味しい酒には美味しい料理を。

蕎麦の実、もち米と桜海老の和え物、異なる食感と香りをショウガの風味がまとめる爽やかな一品。霜の白2019と2021とともに
白子。マッシュルームとトマトを加えた蕎麦汁と白子の濃厚な旨みが絶妙に合い、熟成した芒のロゼ2019がさらに旨みを引き出す
蕎麦寿司。香り高い蕎麦で海老とアボカドを巻いたカリフォルニアロールのアレンジ。山形の日本酒「十四代」とともに
無花果。塩水でゆでてからオーブンで軽く焼いたイチジクのしっとりとした甘さを霜の白が引き立てる
銀杏。粗みじんに刻み焼かれた銀杏が秋の香りを振りまき、とんぶりが銀杏のねっとり感を引き出す。福岡の日本酒「田中六五」と
鰻。奈良漬け、マスカルポーネとトリュフを添えた鰻を蕎麦粉のガレットに巻き複雑な味わいのパズルが完成。芒の赤2021を合わせて
甲州ワインビーフ。ワインの搾り粕を食べさせた甲州育ちの牛の赤身をステーキで。赤だけでなく芒のロゼも合う
松茸蕎麦。料理長が細く繊細に手打ちした十割蕎麦の香りは、出汁と松茸の香りと競い合うように立ち上がる
蕎麦茶ミルクプリン。なめらかな舌触りの優しい味わい。ひとしきり飲んだお腹を落ち着かせてくれる

蕎麦尽くしの朝食

蕎麦粥に蕎麦の実とろろ、すだち蕎麦、サラダ蕎麦、トリュフ蕎麦、盛り蕎麦と朝から蕎麦三昧。飲んだ次の日でも、蕎麦の七変化を楽しみながら、するするとお腹に収まる

タイプ違いのスタイリッシュな客室

黒の部屋「玄-GEN-」のピクチャーウィンドウから望む広葉樹は季節ごとに色合いを変える一幅の絵画のようだ

STAY366は98WINEsから急な山道を上がった先の森に、溶け込むように建つ。客室はわずか3室、それも1日の宿泊は2組までと決まっている。

趣がそれぞれに異なる部屋のいずれにも、ピクチャーウィンドウが設けられている。部屋名は日本古来の色名で黒を表す「玄-GEN-」はシックな黒い壁の部屋。針葉樹と広葉樹の森を望むふたつの窓と浴室にも大きな窓があり、いながらにして森林浴をしているような気分になれる。一番人気の「朱-AKE-」にはブルワリーを臨む窓と甲府盆地と富士山を望む窓がある。

部屋のしつらえは一見シンプルだが、アンティーク家具の配置など、こだわりがそこここにある。富士山の湧水で羽毛を洗って加工し、良質な寝具をつくる「甲州羽毛ふとん」のポーランドホワイトマザーグースを使った最高品質の羽毛ふとんを備え、リネンの部屋着も地元業者への特注品。麻のさらり感はそのままに、絹のようなしなやかな肌触り。着替えてベッドに横たわればスーッと夢の世界に引き込まれる。

テレビなどはなく、木々のざわめき、小鳥のさえずりがBGMだ。地元の粋をさりげなく集めたSTAY366では、その名のように、365日の先にある五感が解放された一日を過ごせる。

明るいトーンでまとめられた「朱ーAKEー」。ブルワリーを見渡せる窓が設けられ、滞在中、醸造作業を眺めることができる

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STAY366
住所|山梨県甲州市塩山福生里462-1
Te|0553-32-6603
料金|1泊2食付4万500円〜(税・サ込)
客室数|3室
カード|AMEX、Master、VISAなど
IN|15:00〜18:00 OUT|11:00
夕食|日本料理(レストラン) 朝食|和食(レストラン)
アクセス|車/中央自動車道勝沼ICから約15分 電車/JR塩山駅からタクシーで約10分
施設|ブルワリー、レストラン、ラウンジ
http://stay366.jp

 

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text:Motoko Ishii  photo: Kanako Nakamura, Atsushi Yamahira
Discover Japan 2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」

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