FOOD

石川県《Auberge “eaufeu”/オーフ》
小松のクラフトマンシップが集うオーベルジュ

2024.4.26
石川県《Auberge “eaufeu”/オーフ》<br>小松のクラフトマンシップが集うオーベルジュ

2024年3月に北陸新幹線が延伸し、注目を集めている石川県小松市。風光明媚な観音下町に2022年に誕生した「オーベルジュ・オーフ」を訪れ、世界が注目する新進気鋭のシェフ・糸井章太さんに、小松の食やものづくりの魅力をうかがった。

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糸井章太(いとい しょうた)
アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」などで研鑽を重ね、2018年、35 歳以下の料理人を対象にしたコンクール「RED U-35」にて最年少の26歳でグランプリを受賞、翌年にはフォーブス「30 UNDER 30」Asia アーティスト部門に選出。’22年、Auberge “eaufeu”のシェフに就任。

廃校をコンバージョンした、
地域に開かれたオーベルジュ

小学校時代は職員室だった空間がレストランに。宿泊者でなくてもレストランやエントランスのカフェは利用できる

旅のスタイルの多様化が進む中、その地域にしかない風土を表現した美食が堪能できる、泊まれるレストラン〝オーベルジュ〟が国内外で増えている。2022年夏、石川・小松に誕生した「Auberge ”eaufeu”」もそのひとつ。小松空港から車で約30分、かつて日華石が切り出されていた「観音下石切り場」の断崖絶壁を目の前に望むロケーションは、小松の大自然と文化が共存する場所。2018年まで約半世紀にわたり、この地で里山の子どもたちの学びを育んでいた旧西尾小学校がオーベルジュとして生まれ変わった。

建物のシルエットや教室、黒板、廊下の手洗い場など小学校のノスタルジックな面影を残しながら、現代アートと融合し、モダンに生まれ変わった空間の世界観もさることながら、都市部をはじめとする県外から、旅の目的地としてわざわざ訪れる美食家たちを惹きつけているのが、糸井章太シェフの存在だろう。

「食材、お酒、そしてうつわ。 ものづくりの結晶を味わってほしいです」

料理を彩るのは観音下石と九谷焼。春菊の生地に多彩な野草や発酵タマネギ、熊のミンチなどを包み野山の情景を表現した「野草のタコス」。スパイスやハーブとともに口の中で重層的な味わいがプリミティブに広がる

糸井さんは、日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」で史上最年少の26歳でグランプリを受賞して以来、ミシュランに比するフランスのレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ2023』にて「期待の若手シェフ賞」を受賞するなど、世界で注目を集める気鋭の料理人だ。
縁あって小松に移住するまでは、兵庫・芦屋やフランス・ブルゴーニュ、アメリカ・ロサンゼルスなど、さまざまなレストランで研鑽を積み、世界を見てきたシェフがこの地の食材についてこう話す。

「小松には、たとえば青森・大間のマグロや富山・氷見のブリなど『この地ならこれ』といった代名詞的な食材は多くありませんが、このエリア一体の水がとてもきれいで、お米は美味しく野菜やフルーツの味わいも非常にクリアです。手に入る食材のバリエーションも豊富ですから、使いやすく組み合わせやすいのも魅力のひとつです」

毎日のように生産者の元を訪れるだけでなく、春は野山に分け入り山菜や野草を採取。夏は川でサワガニを捕り、紅葉に色づく秋は断崖に生えるキノコを狩って、冬は熊や鹿、鴨などのジビエも取り入れる。

料理は九谷焼作家を中心としたうつわで供される

「日本は四季に富んでいますが、小松に移住してからは季節の移ろいをよりいっそう感じられるようになりました。初夏に黄緑から鮮やかに色づく山々や、10月頃に冠雪しはじめる幻想的な白山、見渡す限り一面が稲穂の黄金色に染まる田んぼ、日本海に沈む美しい夕陽……。大自然に包まれ、人間らしい暮らしをしていると感性が磨かれます」

そうした小松の風土と向き合いながら、フレンチをベースにしたシェフ独自のクリエイションで、その時期にここでしか味わえない美食に仕立てるコースは、約11皿。須田菁華さんや森岡希世子さんなど九谷焼作家を中心としたうつわで供され、隣接する醸造所「農口尚彦研究所」の銘酒とともに堪能する食体験は、何物にも代え難い。

館内には至るところにアーティスト・小川貴一郎さんの作品が飾られている。開放感あふれるスイートは、壁に直接アートが描かれ、空間全体が作品に

「eaufeuの食を構成するのは、生産者がつくる食材やお酒、うつわなど、小松のものづくりの要素にあふれています。僕は皆さんと共創しながら、自分の技術や経験というフィルターを通して料理に仕立て、小松らしさを表現しています。今後はもっとつくり手の方々と関係を深めながら、クリエイティブを掛け合わせて『小松でなければならない意味』を追求していきたい。その表現の幅を広げる可能性が小松にはあると思いますし、まだ知られていない素晴らしさを発信することで、日本だけではなく世界中の人に小松を知ってもらいたいですね」

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まだある!
ものづくりの文化を体感できるスポット

 
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オーベルジュ・オーフ
住所|石川県小松市観音下町ロ48
Tel|0761-41-7080
営業時間|ランチ12:00〜15:00(L.O.13:00)、ディナー17:30〜22:00(L.O.19:00) ※ランチは土・日曜、祝日のみ営業。要予約/カフェスペース11:00〜17:00
定休日|火・水曜(祝日の場合は営業)
宿泊料金|1泊2食付1名3万4100 円〜(サ別)
客室数|12室
カード|AMEX、DINERS、JCB、VISA、Masterなど
IN|15:00 OUT|11:00
https://eaufeu.jp

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki illust: Fumiaki Muto
2024年4月号「日本再発見の旅」

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