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《杉田創作》
木の道具の “道具”をつくる木工作家

2024.8.16
《杉田創作》<br>木の道具の “道具”をつくる木工作家

木工芸には欠かせない手道具の南京鉋や豆鉋をつくっている木工作家の杉田創作さん。その手道具を用いた鉋の痕跡に温もりを宿す作品は、いま注目されている。つくり手であり、その使い手でもある杉田さんのものづくりとは?

杉田創作(すぎた そうさく)
1987年生まれ。茨城県出身。車の整備士として働く中で一からものづくりをしたいと木工職人の道へ。2014年、岐阜「森林たくみ塾」で木工技術を学び、木工作家・川合優さんへの師事を経て2019年に独立。現在は茨城・つくば市に工房を構える。

つくり手として受け継ぎ
担い手として次世代へ

茨城・つくば市にある杉田さんの工房。実家の農機小屋を改装した空間には、大型機械や作業台、さらに各種の木材が整然と並べられている。作業台や照明台は、使いやすいようにすべてをカスタマイズ。夏の間は、2カ所ある扉を開放して作業をするそう。筑波山から爽やかな緑の風が工房を吹き抜けていく

杉田創作さんは、木の道具の“道具”をつくる木工作家だ。木工品づくりには欠かせない手道具の「南京鉋」や「豆鉋」のつくり手であり、またその使い手でもある。

「南京鉋は曲線を削り出す鉋です。椅子のアームやカトラリーの柄など、ストロークの長い部分を削るのに適しています。豆鉋は椅子の座面やお盆など、通常の鉋が入らない面を削るのに使いますね。小さいながらもきちんと仕事をしてくれる心強い相棒です」

彫刻刀、小刀、木槌などの仕事道具。どの刃物もすぐ使えるようにきれいに研がれている。手に取りやすいように枕木を設置

そう言って作業台に整然と並べた南京鉋を手に取って説明する杉田さん。南京鉋の柄が鉋刃に対して長いのは、曲面加工の際に刃を左右に動かしやすくするため。しかし、柄の厚みや形状はつくる人によって違う。杉田さんの手道具は、握りやすく使いやすいと木工作家からも評判だ。

南京鉋をつくって8年目を迎えた。木工作家を目指して、岐阜の学校で学んでいた際、先輩作家が手掛けた木の匙に出合ったことで手道具に惹かれるようになった。そこで自ら手道具のつくり手になることを決意したという。
「まずは南京鉋を使いこなせるようになろうと、卒業後は木工作家の下で修業を重ねました」

南京鉋の台づくりを行う。柄の部分は、南京鉋を使ってカーブを削り出して握りやすいように加工する。南京鉋で削り出しをする際は、欧米で昔から使われてきた“削り馬”と呼ばれる作業台を活用することも。ひもで対象物を押さえるために両手を使う作業がしやすいという。ちなみにこの削り馬は、杉田さんがつくったもの

2年後に独立するもコロナ禍で仕事が激減する。将来にどこか不安を感じていたとき、岐阜の鍛冶職人調査に参加する。
「職人の高齢化や需要の関係で手道具の担い手は減る一方の現状を知りました。これは自分が頑張らないと、とあらためて思うように」

本格的にオリジナルの南京鉋づくりをはじめるが、なかなか当初はうまくいかなかったそう。
「鉋づくりの要は、刃を台に固定する台打ち。鉋刃に合わせ、穴に差し入れてゆるまないようにするのですが、これが難しい……」

上から四方反り南京鉋、蝶鉋、竿鉋、「サルボボ」と名がついた豆鉋など、杉田さんが手掛けたクセモノやヤクモノと呼ばれる鉋たち

木工作家の先輩に助言を請い、台の厚みや幅に改良を重ねて、ようやく少しずつ満足のいく鉋がつくれるようになった。
「まだまだです。でもうれしいことに尊敬する木工作家の方にも使ってもらえるようになった」

鉋刃は新潟の鍛冶師の似鳥透さんをはじめ、高知や兵庫など各地の職人に依頼。初心者が扱いやすいようにステンレス鋼の鉋刃(写真中央)を開発中

最近では、鉋刃の開発もはじめている。仕様に合わせて鍛冶師に依頼してきたが、打ち刃物は、細やかなメインテナンスが必須。そこで誰もが扱いやすい、錆びにくいステンレス刃を取り入れた南京鉋づくりを進めている。

受け継いだ手道具を広げて次世代へとつなぐ、杉田さんはその先を見据えている。

鉋台はシラカシを使用。岐阜は祖父の山で伐採したもの。「硬くて丈夫なシラカシは、昔から農具の柄に使われてきた、道具にふさわしい木材です」
乾燥させた鉋台は、木工機械で表裏面をきれいに平らに整える。その後に特殊な刃物を組み込んだ穴掘り専用機を使って中央に穴を開けていく
荒掘りした穴をノミで削る。刃口の成形や押さえ溝などをノミのサイズを変えて調整。材が硬いために彫刻刀をあごに押し当てて台に押し込むことも

手道具の痕跡がいとおしい
杉田創作のプロダクト

コーヒードリッパー
耐水性の高いカエデ、サクラ、クリのコーヒードリッパー「六花(りっか)」。保温効果が高く、軽くて丈夫。温かな佇まいと優しい木目の風合いは、ガラス製サーバーや陶器のカップと好相性。1万4850円〜
コーヒースクープ
地球儀のようなかたちのコーヒースクープ「珈星(こうせい)」。コーヒー1杯分の豆(12g)が入る。ネジでつないでいて分解ができる遊び心あふれたアイテムは、多彩な樹種の材で制作される。6600円〜
マドラースプーン
ハンドドリップで淹れたコーヒーを攪拌するためのマドラースプーン。すらりとした美しいシルエットは手馴染みがよく握りやすく、ジャムなどを瓶に詰めるときにも重宝する。サクラやナラ材を使用。1980円〜
木べら
まぜる、こそぐ、ほぐす、すくうなどのさまざまな作業がしやすいように角度をつけた木べら。料理人経験がある杉田さんが愛用のフライパンに合わせつくったのがはじまり。調理油がつや出し効果にも。5830円〜
キャニスター
柔らかな丸みを描く蓋は、ナチュラルな風合いのヤマモモや存在感のある鉄染めクリと雰囲気を変えて。自然の美しさをガラスに写す吹きガラス作家・栗原志歩さんとのコラボアイテム。9350円〜
スパイスミル
イヌシデやサクラなどで手掛けたスパイスミル。握りやすさを究めた削り出しの妙や無塗装仕上げによる質感や経年変化を愉しめる。灯台や糸巻きをイメージした洗練されたデザインが揃う。1万3750円〜

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text: Yukiko Mori photo: Kenta Yoshizawa
2024年9月号「木と暮らす」

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