「自然とアート」を楽しめる美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この秋はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。
〈お話をうかがった方〉
藤田 令伊(ふじた・れい)
鑑賞ファシリテーター。単に知識としての「アート」にとどまらず、見る体験としての「アート鑑賞」が鑑賞者をどう育てるかに注目し、楽しみながら成長できる鑑賞の在り方を探っている。モネの『ラ・グルヌイエール』を見て、「絵が動いている!」と感動したことがアートにはまったきっかけのひとつ。各種市民講座などアウトリーチ活動にも注力。主な著書に『アート鑑賞、超入門!』、『現代アート、超入門!』(ともに集英社)など。プラスリラックス共同代表。
野外展示は
自然と融合してはじめて完成します
アートと自然はとても相性のよい関係です。それもそのはず、「culture(文化)」の語源はラテン語の「colere」で、「耕す」という意味。元からアートと自然には、親和性が備わっているわけです。
自然との共生を重視した美術館には、建物の中で作品を展示しただけの施設にはない特徴的なメリットがあります。たとえば、訪れる時期それぞれに楽しめることのもそのひとつ。日本は豊かな四季に恵まれた国であり、同じ場所でも春の桜とともに見るのと、秋の紅葉とでは驚くほど印象が変わります。四季折々にアートを味わえるのは、アートの可能性を引き出すことにもなるのです。
あるいは、自然の美とアートの美のコラボによって、予期しなかった表現が繰り広げられることもあります。自然志向の美術館は、いわば自然の恩恵を生かしたミュージアムであり、無限の味わい方が可能といえるのです。
現在のコロナ禍を考えても、自然の中での屋外展示が充実していれば、より安心して楽しめるという面も。いまこそあらためて、自然とアートの関係に視線を注いでみてはいかがでしょうか。
自然とアートを楽しむなら
芸術祭にも注目したい!
近年、各地で「〇〇芸術祭」と銘打ったアートプロジェクトが開催されています。その多くは地域全体を会場としているので、見て回るとおのずとエリアの自然に触れられることに。日本の多様性への理解が深まるメリットもあり、アートと自然を楽しむひとつの方法としておすすめです。
自然とアートの融合
鹿児島県「霧島アートの森」
雄大な霧島連峰の山麓、標高700mの高原に位置するミュージアム。県立施設だけあってコンテンツが充実しており、国内外の著名アーティストの作品が所蔵されています。草間彌生の『シャングリラの華』やジョナサン・ボロフスキーの『男と女』、チェ・ジョンファの『あなたこそアート』など、写真映えする作品も多数。ホームページのアドレスに「open-air-museum」とあるように、霧島の豊かな自然の中で現代アートが満喫できます。
ジョナサン・ボロフスキー『男と女』
制作年|1999年
材質|スティール鋼
サイズ|W3940×D3800×H8010㎜
公開期間|通年
鹿児島県 霧島アートの森
住所|鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220
開館時間|9:00〜17:00 (7月20日〜8月31日の土・日曜、祝日は〜19:00)※入園は閉園の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、2月13日〜20日
料金|一般320円、大高生210円、中小生150円
Tel|0995-74-5945
施設|カフェ、ショップ
https://open-air-museum.org/
アートの森に迷い込んでみない?
「ポーラ美術館」
アートと自然の共生が館のテーマ。モネやゴッホらのコレクションにも、自然を題材にしたものが多いです。ガラスを多用した建物は、周囲の雄大な森の光景を楽しめる風情。気持ちよく散策できる「森の遊歩道」沿いにも彫刻作品が展示され、富士箱根伊豆国立公園の豊かな自然とともにアートを堪能できます。
ロニ・ホーン『鳥葬(箱根)』
制作年|2017〜2018年
材質|鋳放しの鋳造ガラス
サイズ|φ1422×H1314㎜
公開期間|通年
ポーラ美術館
住所|神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|なし(展示替えや悪天候による臨時休館あり)
料金|一般1800円、大高生1300円、中学生以下無料
Tel|0460-84-2111
施設レストラン、カフェ、ショップ
https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/
環境芸術の第一人者が手掛けた穴場
「室生山上公園芸術の森」
イスラエルの世界的アーティスト、ダニ・カラヴァンがデザインしました。総面積7.8haもの敷地にユニークな作品がちりばめられ、のびのびと心身を解き放つことができます。「太陽の道」と呼ばれる北緯34度32分の緯度線が通っており、それが作品に生かされた宇宙的な自然も実感できるようになっています。
ダニ・カラヴァン『らせんの水路』
制作年|2006年
材質|コンクリート、キンモクセイの木
サイズ|〔らせん部分〕φ8250㎜ 〔水路〕W3440×D492890㎜
公開期間|通年
室生山上公園芸術の森
住所|奈良県宇陀市室生181
開館時間|10:00〜17:00(3月、11月〜12月は〜16:00)※入園は閉園の30分前まで
休館日火曜(祝日の場合は翌日休)、1〜2月、ほか不定休あり
料金|一般410円、高校生200円、中学生以下無料
Tel|0745-93-4730
施設|なし
https://www.city.uda.nara.jp/sanzyoukouen/
世界的彫刻家の作品に触れられる癒しの地
「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」
閉校した小学校を再生した施設。屋内外に彫刻家・安田侃さんの作品が展示され、訪れた人は心の向くまま散策可能。北海道の大自然の中で自由に心を遊ばせることができます。2003年には上皇上皇后両陛下もご来訪。海外でも知られ、3カ月で計5000名の団体客が訪れたことも。入場無料という点もうれしいです。
安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄
住所|北海道美唄市落合町栄町
開館時間|9:00〜17:00
休館日|火曜、祝日の翌日(日曜は除く)
料金|無料
Tel|0126-63-3137
施設|カフェ、ショップ
https://www.artepiazza.jp/
アートと花、ふたつの美が一度に楽しめる
「クレマチスの丘」
広大なエリアの中にベルナール・ビュフェ美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館、IZU PHOTO MUSEUM(一時休館中)の3つの美術館が建つ複合型文化施設。季節の花々が美しいクレマチスガーデンなど自然環境も抜群で、花が好きな人もアートが好きな人も、一日たっぷり楽しめる場所です。
ジュリアーノ・ヴァンジ『竹林の中の男』
制作年|1994年
材質・技法|ブロンズ、ニッケル合金、金
サイズ|〔竹林〕W4000×D18000×H5000㎜ 〔人物〕W480×D700×H1900
公開期間|通年
クレマチスの丘
住所|静岡県長泉町東野クレマチスの丘347-1
開館時間|〔画像のヴァンジ彫刻庭園美術館の場合〕10:00〜18:00 (2・3・9・10月は〜17:00、11〜1月は〜16:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日水曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般1200円、大高生800円、中学生以下無料(季節による変動あり) ※ベルナール・ビュフェ美術館と長泉町井上靖文学館は別料金
Tel|055-989-8787
施設|レストラン、カフェ、ショップ
http://www.clematis-no-oka.co.jp/
今度の休日は心が潤うミュージアムへ出かけてみませんか?
それぞれを味わえる美術館
≫次の記事を読む
1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
3|「日本美術」を楽しめる美術館
4|「自然とアート」を楽しめる美術館
5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
6|日本全国の美しい名建築、外から見る?中から見る?
7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館
text: Discover Japan, Rei Fujita
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」