飛鷹全隆×小松美羽 特別対談
2人にとって「祈り」とは?
現代アーティスト・小松美羽さんが長年特別な想いを抱いていた場所だという高野山。今回、高野山別格本山三宝院住職である飛鷹全隆さんのもとを訪れ、お二人にとっての「祈り」について語っていただきました。
飛鷹全隆さん
高野山別格本山三宝院住職。1943年、愛媛県壬生川生まれ。弘法大師空海が若い頃に行ったという、真言を100万回唱える修行、虚空蔵求聞持法を成満。2020年7月、真言宗総本山 東寺の、第257世長者(住職)に就任
「宗教のお話は、祈る気持ちが具現化した事実」
飛鷹全隆(以下、全隆) 高野山ははじめてでいらっしゃいますか。
小松美羽(以下、小松) 熊野古道経由で一度訪れましたが、今回のように一つひとつきちんとうかがうのははじめてです。三宝院も素晴らしい建物ですね。
全隆 元禄年間のもので、300年ほど経っているでしょうか。
小松 高野山の歴史を考えると短いのかもしれませんが、十分な時を刻んできたものだと思います。
全隆 大広間にある襖絵は、能の謡曲『』から題材を取ったもので、紅葉の三宝院、月の伝法院、雪の奥の院が描かれています。もう一枚、壇上伽藍の花の襖絵があったはずですが、はて、どこかに行ってしまったかなぁ(笑)。
小松 移ろう季節とともに、高野山の日常が描かれていますね。
全隆 独りゆったりお経を楽しむ僧の姿が描かれていますね。通年ならば、高野山には世界から多くの方が訪れるのですが、今年はとてもひっそりとした毎日です。しかしながら、本来一人で自分と向き合いながら信仰にふける場所なので、これが本来の姿だと言えるのかもしれません。
小松 以前、東京の印刷博物館の企画展で、弘法大師の書を拝見したとき、その字の周りだけが神聖な空気に包まれていているような気がしたんです。その後、瞑想のために訪れたタイの寺院でも弘法大師の逸話を聞き、高野山にはいずれきちんと訪れるときが来ると信じていました。
全隆 弘法大師は、香川の在家の生まれ。京の都で大学に入りますが飽き足らず、真の信仰を求めて、たどり着いたのが高野山だったのです。
小松 私も創作の大きなテーマに「祈り」を掲げているのですが、全隆さんは祈りとはどういうことだと考えていらっしゃいますか?
全隆 祈りとは、自分一人のため、という枠を越えて、大きな仏のいのちとひとつになり、周りのすべてに慈愛もって、強く、大きく願うことでしょう。現在なら、自分が病にかからないようにと思うのではなく、全世界の人が無事であるように願うこと。考え方を変えれば、コロナの発生は決して悪いことだけでもないような気がするのです。未来のため、全生命のよりよいあり方を判断する機会を与えられているような気もします。
小松 僧侶の方々は、このように次々に起こる予想すらつかない状況に対処するために、修行を繰り返していらっしゃるのでしょうか。
全隆 堂内に数百日こもって修行をすることもありますが、ご飯を食べること、話をすること、山林を散策することといった日常すべてが修行だと思います。京都の東寺でもう35年もしていますが、参道を行き交う国内外の、年齢も性別もバラバラの方々が喜捨してくださり、ほほ笑みかけていただく。小さいけれど、貴重な出会い。これは、誰しもが日々心を養われる修行体験です。
小松 私にとっては絵を描くことが修行のようなもの。描いているうちに、瞑想状態になることもあります。
全隆 きっと(安定した精神状態を示す宗教的な瞑想)に入っていらっしゃるのでしょう。
小松 大きなキャンバスに描いていると、5台のカメラを同時に操っているように視点が瞬時に複数箇所をとらえながら、余白を埋めていることもあるんです。
全隆 私は50日間をかけて午前と午後に1万回ずつ経を唱える修行を行っていたとき、最終日の前日に仏さまの胸がゆらぎ、光に包まれたことがあります。こうしたいという欲求を超え、無心になるほど集中したその先に、清らかな祈りの世界が広がる。そうしてこそ、ようやく心から自他ともなる幸せを祈ることができるのではないでしょうか。
小松 仏教や、キリスト教イスラム教も、あらゆる宗教にまつわる話は、伝説ではなく人が祈る気持ちが具現化した事実だと思います。めぐる時間の中で必然的に訪れる出会い、信じる気持ちを大切に、もっとたくさんの体験を重ねていきたいです。
全隆 ある地点に達することが目標ではありません。日々努力を重ねること。それを欠かさず繰り返すことにこそ、その日そこに到達する真の意味があるのだと思います。
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text: Hisashi Ikai photo: Masanori Ikeda
2020年10月号「新しい日本の旅スタイルはじまる。/特別企画 小松美羽」