安藤忠雄建築「淡路夢舞台」が 働く場所に!?
東京・丸の内の本社機能を兵庫県淡路島へ移転。2024年までに1200人の社員を移住させる。昨夏そんな大胆なプロジェクトを発表&実行。世間をざわつかせたのが総合人材サービスの大手パソナグループです。実のところ働き心地、住み心地、社員の気持ちはどうなのか?副社長の渡辺さんに聞きました。
渡辺 尚(わたなべ・たかし)
1964年、北海道生まれ。パソナグループ、副社長、執行役員。1989年、専修大学卒業。1989年、テンポラリーセンター(現パソナ)入社。2018年、パソナグループ副社長執行役員。昨年から自身も淡路島にて単身赴任中!
話題のパソナグループに、実際のところを聞きました。
企業も移住する時代へ。
Q.なぜ淡路島に企業移住しようと思ったのですか?
A.すでにパソナグループが地方創生事業を淡路島に立ち上げ、“ご縁”があったことから、選びました。
大きな理由はBCP(事業継続計画)です。東日本大震災のような災害時、オフィス機能が一極集中していると事業がストップする。
「本社機能を分散させたい」と以前から考えていました。そこに新型コロナウイルス感染拡大が起き、強く後押しされました。淡路島を選んだ理由は弊社が10年以上前から地方創生事業として独立就農支援やテーマパーク等を手掛け、すでに関係性を築いていたから。そして社員が心豊かに生活し働ける環境を提供したいという、創業者の想いもあります。
Q.淡路島の魅力はなんですか?
A.都会との距離感がほどよいビーチリゾートなことです。
海と緑に囲まれた風光明媚なビーチリゾートのような環境でしょうね。移住した社員からは「子どもたちの遊び場に困らない」、「釣りにハマった」という声が多い。かくいう私は島のそこかしこにある温泉とサウナにハマっています(笑)。それでいて、車なら30分ほどで神戸の中心街に着く、都会とのほどよい距離感も魅力です。明石海峡大橋を渡るだけで、別世界に飛び込むような雰囲気もたまらない。島だからこそ味わえるワクワク感がありますね。
Q.あの夢舞台をなぜオフィスにできたのですか?家賃、ランニングコストは……?
A.飲食店が入っていたエリアをリノベーション。家賃などは約1/5に減りました。
青い大阪湾を望む緑に囲まれた丘にある、安藤忠雄さんがグランドデザインを担当した複合リゾート施設「淡路夢舞台」にも、本社機能のひとつが入居しています。飲食店が入っていたエリアを居抜きで使っていてコンクリートのモダンな建築が素晴らしい。とても贅沢ではありますが丸の内に比べれば、淡路島の家賃は5分の1程度ですからね。これまでよりオフィスのランニングコストはずっと安く抑えられる。地域移住の利点です。
Q.移転にあたり利用できる補助金制度はありますか?
A.たとえば、 県の産業立地促進制度などがあります。
弊社では補助金はあくまで副次的にとらえていますが、兵庫県にも補助金制度はあります。法人事業税の税率が1/2に軽減され、社員1人につき30〜60万円の雇用補助があります。
Q.拠点を移したことで生まれた新たな取り組みはありますか?
A.現在オフィスは夢舞台を含めて3つ。さらに4つ目を建設中です。
いま淡路島へ移転しているのは総務や経理、人事部などのメンバーが中心。事務系の仕事はテレワーク化しやすいですからね。一方で新たな試みとしてネットや電話のみで営業するインサイドセールス部隊を立ち上げつつあります。
また現在は島内に3つの拠点がありますが、新たに4つ目を建設中。業務のデジタル変革を手掛けるDX事業などの部署を設置します。また、同時に他企業がワーケーションや企業移住のお試し体験を、弊社施設を使ってできる新しい仕組みも実施予定。ワーケーションや企業移住が広まるハブになれればと思っています。
Q.移住した社員へのサポート体制は?
A.家賃やマイカー補助。託児所やカルチャースクールまで。
引越など移住に伴う初期費用は会社もち。月々の家賃補助も用意しています。また移動手段として車が欠かせないのでカーリースの補助も。さらに当社の社員でもあるミュージシャンの音楽教室や託児所、英会話スクールなども開設しました。経済面もカルチャー面もさらに充実させていきたいです。
Q.今後の展望は?
A.淡路島に多くの企業が集まり、交流が生まれる。そんな環境をつくりたい。
多くの企業の方々にも淡路島へ移住、またはサテライトオフィスの地として活用いただきたい。特にIT企業はテレワークに適しているし、ワーケーションのニーズも高い。とはいえ縁のないところに飛び込むのはリスクもあると思います。居住地、職場、カーシェアなど含めリーズナブルに開放する弊社のインフラを生かしてほしい。そして島全体が「スマートアイランド」のようなIT人材集積地となり雇用や事業を生み出していけたら最高ですね。
text: Koki Hakoda
Discover Japan 2021年3月号「ワーケーションが生き方を変える?地域を変える?」