小松美羽作品、最初のコレクター
齋藤峰明(シーナリーインターナショナル代表)
「素晴らしい世界の在り方、豊かな感覚を思い出させてくれる」
いまや作品を購入するのに何年も待たなければならないほどの人気を誇る小松美羽さん。そんな彼女も2004 年に女子美術大学短期大学部を卒業した後、しばらくの間は一切作品が売れず、こつこつと描き続けていた時期があったという。はじめて彼女の作品が人手に渡ったのは、2010 年にGALLERY TAGBOAT(ギャラリータグボート)主催で、東京交通会館にて開催されたアートフェア「YOUNG ARTISTS JAPAN Vol.3」でのことだった。
「友人に連れられてたまたま訪れた会場で『四十九日』を目にしたんです。描かれているものは毛むくじゃらの妖怪のようで、一瞬怖い感じがするけれど、近づいてよく見ると聡明そうなウサギがラクダのような化け物を引き連れていく。怪しさとかわいらしさが共存しているところに惹かれてしまいました」
そう語るのは、小松さんの作品を世界ではじめて購入した齋藤峰明さん。当時はエルメスジャポンの社長で、その後、エルメスのフランス本社で副社長に就任。現在は日本の芸術、文化の魅力を世界に伝えるシーナリーインターナショナルの代表を務めている。
欧米では専門家に限らず、一般の人でもギャラリーの個展やアートマーケットに出掛け、若手芸術家を支援し、自分たちの時代の文化を豊かにしていこうという思想が浸透しているが、日本ではまだまだ。齋藤さんも同様の理由からアートフェアを訪れていたが、小松さんの作品にはまた少し違う感覚を覚えたという。
「画風としては日本的ではないのに、西洋には見られない独自の自然観が描かれている。そこに息づいているのは、人間の知恵や論理的な思考を超えた概念、発散されたエネルギーのようなものでした」
学生時代からフランスに居住し、日本とヨーロッパの感覚や思想の相違を明確に理解している齋藤さん。人が高貴な存在であり、自由も自身が築き、勝ち取ったものであるという自負の下に生きてきたヨーロッパに対し、日本は八百万の神に代表されるように、自然信仰の中で自分も他者も自然界の一部であり、万物を分け隔てなく慈しむ気持ちがあるという。
「日本にも近代以降、西洋文化が流入、定着したことで、こうした日本独自のビジョンは次第に薄れていってしまったように思います。それでも、世界から見ると日本はいまだ確かな感覚をもった特別な国であることには変わりません。小松美羽さんの絵は、日本が、そして世界がいま一度立ち止まり、見るべき素晴らしい世界の在り方、豊かな感覚を思い出させてくれるのです」
齋藤峰明(さいとう・みねあき)さん
1952年、静岡県生まれ。1975年、フランス三越に入社。40歳のときにパリのエルメス本社に入社、エルメスジャポン社長に就任。2008 年よりエルメス本社の副社長に就任。2015年に退社後、シーナリーインターナショナルを設立、代表に就任
小松美羽の「大和力」に影響を与えた恩人たち
1|塩原将志(アート・オフィス・シオバラ代表)第1章/第2章/第3章
2|齋藤峰明(シーナリーインターナショナル代表)
3|Luca Gentile Canal Marcante(アートコレクター/起業家)
4|JJ Lin(シンガーソングライター)
5|手島佑郎 Jacob Y Teshima(ヘブライ文学博士)
6|加藤洋平(知性発達学者)
7|飛鷹全法(高野山高祖院住職)
小松美羽さんが裏表紙を飾るDiscover Japan10月号もチェック!
Discover Japan10月号では、巻頭特集で小松美羽さんを特集しています。
宗教や伝統工芸など、日本の文化と現代アートを融合させ、力強い表現力で、神獣をテーマとした作品を発表してきた現代アーティスト・小松美羽さんの、すべてが本書に詰まっています。
text=Mineaki Saito photo=Norihito Suzuki、提供
2020年10月号「新しい日本の旅スタイルはじまる。/特別企画 小松美羽」