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和歌山県「道成寺」
この秋700年祭!ニッポンの芸能の聖地へ〈前編〉

2021.10.19 PR
和歌山県「道成寺」<br>この秋700年祭!ニッポンの芸能の聖地へ〈前編〉

和歌山随一の古刹、道成寺(どうじょうじ)は能・歌舞伎をはじめ日本の芸能史に欠くことのできない「道成寺物」のルーツ。この秋、その立役者である人物の生誕700年を記念し特別な機会がもたらされる。

道成寺のキーマン
逸見万壽丸(へんみまんじゅまる)とは?
南北朝時代、南朝の後村上天皇に仕え、その武功により紀伊国矢田庄を与えられ30数年統治。1357(正平12)年道成寺本堂を再建、さらに秘仏・千手観音像と2代目釣鐘を寄進し、約400年失われていた鐘をよみがえらせた偉人。

1000年を超える
千手観音信仰が息づく寺院

初代本尊の千手観音立像(重要文化財)は8世紀の造立で天平様式をよく保つ

道成寺は聖武天皇の母・藤原宮子の願いにより、文武天皇が701(大宝元)年に創建した名刹である。天平様式を残す初代本尊を含め3体の千手観音像が祀られ、千手観音信仰が1300年近く連綿と続く。そんな由緒ある寺院のもうひとつの顔、それは日本芸能史に燦然と輝く「道成寺物」の舞台であり、原点という側面だ。

発端は平安時代の928(延長6)年。紀州真砂庄(和歌山県田辺市)の清姫が、東北から熊野詣でにやってきた修行僧・安珍に思いを寄せるが、裏切られたことを知るや60㎞以上も追いかけた末、道成寺の釣鐘に隠れた安珍を大蛇と化した清姫が焼き殺したという。この事件を種とした話は『今昔物語』をはじめ数々の説話集に収められ、能・歌舞伎・浄瑠璃などあらゆる芸能の題材となり、いわゆる「道成寺物」に発展。現行作品は20を超え、年間百数十公演が行われるほどの人気演目だ。

1691(元禄4)年建立の仁王門(重要文化財)と、能楽『道成寺』で清姫が足で拍子を取りながら舞う「乱拍子」の場面を生んだとされる62段の石段

ところで「道成寺物」が起こった最初はいつなのだろう?

能『道成寺』の成立は1500年頃。その影の立役者といえる人物が逸見万壽丸だ。万壽丸は南北朝時代、紀伊国矢田庄(和歌山県御坊市と日高郡日高川町の一部)を三十数年にわたり統治。領内の神社仏閣の再興に貢献し、道成寺では本堂を再建。さらに秘仏・千手観世音菩薩と二代目釣鐘を寄進している。道成寺では安珍・清姫の事件以来、約400年鐘がなかったが、それをよみがえらせたのが万壽丸というわけだ。後にこの鐘供養を題材としてつくられたのが、清姫の亡霊が出たという設定の能『道成寺』で、これが道成寺物の嚆矢(こうし)だと考えられる。

今秋、万壽丸生誕700年を記念し、この釣鐘と秘仏・千手観音像を特別公開。「秘仏とは亡き親のように見えないところから守ってくれる存在。どうぞ大切な人とお参りし、次の開帳も一緒にお参りできるようにとお祈りください」と道成寺院主の小野俊成さん。歴史を背負った鐘とともに拝める貴重な機会、日本芸能の聖地にぜひ足を運んでみたい。

1357(正平12)年再建の本堂は重要文化財。総欅造の三重塔は1763(宝暦13)年再建で県指定文化財

旅の前に「安珍・清姫伝説」をおさらい!

道成寺では、室町期成立の『道成寺縁起』(重要文化財)の写本を広げて行う「絵とき」が毎日聞ける

エピソードの流れを知っておくことで、道成寺を訪れたときいっそう楽しめる。物語のポイントをおさらいしよう。

東北から熊野詣でに赴く若き修行僧・安珍が、真砂庄の清次の屋敷に泊まり、その家の清姫が安珍にひと目惚れ。清姫の求愛に困った安珍は、熊野詣での帰りにも泊まると約束する
約束の日になっても安珍は戻らず。追いかけた清姫は安珍に「人違いだ」と言われて激高し蛇に。安珍が熊野権現に祈ると清姫は目がくらみ、その隙に安珍は日高川へ逃げる
日高川を渡った安珍は、助けを求めて道成寺へ。最初は話を信じなかった僧侶たちも、怖がる安珍をかくまうことにし、鐘の中に隠れた安珍を鐘つき堂に入れ戸を閉める
蛇身の清姫は道成寺まで追いかけ、安珍のいる鐘つき堂に来て尾で戸をたたき破り、火炎が燃え上がる。両目から血の涙を流して蛇は立ち去り、安珍は炭のように真っ黒な骸骨に

特別公開

道成寺といえば「釣鐘」2代目が里帰り
逸見万壽丸が寄進した2代目釣鐘は、戦国時代の1585(天正13)年、豊臣秀吉の紀州・雑賀攻めの戦利品として持ち去られた。その3年後に京都・妙満寺に奉納、大切に守られ現代に至る。その鐘が17年ぶり、2度目の里帰りを果たす。
期間|2021年10/24(日)〜11/18(木)
16年半ぶり!秘仏・千手観音が御開帳
1378(天授4)年頃、初代本尊の千手観音像(重要文化財)を中に納めて造立された秘仏の千手観音像(重要文化財)。33年ごとに開帳される秘仏だが、逸見万壽丸生誕700年祭で16年半ぶりに「中開帳」される。本堂北面の扉が開かれ間近で拝める。 期間|2021年9/20(月)〜11/28(日)

道成寺
住所|和歌山県日高郡日高川町鐘巻1738
Tel|0738-22-0543
拝観料|600円、小学生300円、小学生未満無料(入山のみは無料)
拝観時間|9:00〜17:00 ※無休
アクセス|車/阪和自動車道川辺ICから約11分、御坊ICから約11分 電車/JR道成寺駅から徒歩約9分

 

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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Kazuma Takigawa
2021年11月号「喫茶のススメ」

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