《2025年大阪・関西万博》
世界の人をつなげる木の建築デザイン
後編|「大屋根リング」に込められた想いとは?

1970年にアジア初の国際博覧会「日本万国博覧会」が開催されてから55年。ついに日本で3度目となる万博が幕を開ける。今回、「大屋根リング」の建築デザインの秘密について、会場デザインプロデューサーの建築家・藤本壮介さんに教えてもらった。
世界中の人をつなげる?
木の建築デザインの秘密。

丹下健三、菊竹清訓と、日本を代表する建築家が設計の総合監修を務めてきた日本万国博覧会。3度目となる大阪・関西万博では、国際的に活躍する建築家・藤本壮介さんが、会場デザインプロデューサーという大役を担った。
「世界がひとつの場所に集まり、半年もの間ともに過ごすことに、大阪・関西万博を開催する意義があると私は考えます。そこで、参加国のパビリオンが円の中で共存できれば、多様な世界がつながる象徴性を示せるのではないかと着想し、『大屋根リング(以下、大屋根)』を設計していきました」と語る藤本さん。

提供=2025年日本国際博覧会協会
会場デザインの理念は「多様でありながら、ひとつ」。円形にはヒエラルキーがなく、禅画の「円相」をも彷彿とさせる。会場を空から眺めたとき、「あの円に世界が集まっている」と、万博のメッセージをすべての人へ直感的に伝えていくだろう。
「1周約2㎞に及ぶ巨大な木造の円形建築は、これまで人類が目にしたことのない規模となります。そのような驚きを体感できるのも、万博の醍醐味でしょう」

北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。世界各国の国際設計競技にて、最優秀賞を多数受賞。2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーを務める
大屋根は高い機能性も有す。屋根で覆われた回遊路となっているため、雨や日差しを避けるとともに、来場者の流れを分散。会場内で迷子になっても、大屋根を目印にすれば最短距離で戻れる。
「木組みが連なる回遊路は、圧倒的なスケール感の景色をつくり出します。大屋根の下を歩いていると、神社の鳥居をくぐるかのような感覚を覚えるはずです。木組みを額縁に見立て、大屋根の内側と外側が見通せる箇所もありますので、ここでの空間体験をぜひ楽しんでいただきたいですね」

提供=2025年日本国際博覧会協会
大屋根は世界最大であると同時に、世界最先端の木造建築でもある。京都・清水寺の「懸造」を基にした伝統技法「貫工法」と、最新の建築技術を組み合わせ、細部の美しさと現在の耐震基準を満たす施工を両立させた。
「貫工法を尊重し、柱と梁との接合部でボルトが極力見えないジョイント技術を新たに開発しました。ゆえに回遊路から見上げると、木組みの美しさがよくわかります。この技術は法隆寺のように1000年以上の歴史ある木造建築を多く残し、数々の伝統工法をもつ日本だからこそ具現化できたといっても過言ではありません」
近年、環境保護への機運の高まりから、大規模木造建築は世界的ブームとなっている。しかし日本は後れを取っているのが現状だ。
「日本は木造建築の歴史が深く、森林資源が豊富にあるにもかかわらず、この状況はもったいない。1889年のパリ万博で建設されたエッフェル塔では、時代に先駆けて鉄骨が採用されました。万博は未来を示す素材を用いることにも意味がある。今年、日本で開催される万博であれば、木造がもっともふさわしいと考えました」

最後に、藤本さんはひそかに温めている企画を話してくれた。
「どの文化圏でも“輪になって踊る”民俗舞踊があるそうで、大屋根の屋上の回遊路で盆踊り大会を行いたいですね。もし実現できれば世界中の人たちとのつながりをリアルに体験できるはずだと、私自身も楽しみにしています」
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2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)
会期|2025年4月13日(日)~10月13日(月)
場所|大阪 夢洲(大阪府大阪市此花区夢洲中)
料金|1日券/大人7500円、中人(満12~17歳)4200円、小人(満4~11歳)1800円
※年齢は2025年4月1日時点の満年齢。3歳以下は無料
入場チケットやアクセスなどの詳細は、公式ウェブサイトへ!
https://www.expo2025.or.jp/
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text: Nao Ohmori
2025年4月号「ローカルの最先端へ。」