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場所も時間もつくり手も選ばない
変幻自在の木材ユニット《つな木》の魅力|前編

2024.8.27
<small>場所も時間もつくり手も選ばない</small><br>変幻自在の木材ユニット《つな木》の魅力|前編

ニーズや好みによって、そのかたちやサイズを変えられる、木を使った便利な道具「つな木」。どのような商品で、なぜ開発されたのだろうか。開発者の大庭拓也さんに話を聞いた。今回は、つな木が環境にやさしい理由や、つな木の使い方について紹介します。

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地球環境や生命にとってよい建築をつくりたいです

日建設計 Nikken Wood Lab ダイレクター・大庭拓也さん

「日建設計では、採択されたら事業化できる社内ベンチャーコンペがあります。僕は設計者として、東京オリンピックの有明体操競技場や選手村ビレッジプラザなど、国内外の大規模な建築にかかわらせていただいていましたが、実は子どもの頃からずっと木にかかわりたかったんです」と大庭さん。

「僕は北九州の農家育ちで、田舎のよさを感じていたので、上京して建築を学んでいた学生時代に『単にかたちのデザインだけでは、地域に貢献できない』と痛感しました。それ以来、地球環境を意識して『つくればつくるほど生命にとってよい建築』を自分のマニフェストにしてきました」

都市建築の木質化を目指し、社内コンペで「Nikken Wood Lab」を提案。2018年に採択されスタートした。同社は木造建築や森林循環などを考えていく必要性があると判断し、2021年から正式に組織化したという。大庭さんとその仲間の情熱が、組織に伝播したのだ。同ラボの実証実験として進められているのが「つな木」プロジェクトというわけだ。

「製造や販売を担当いただける企業がなかなか見つからなかったのですが、国内最大規模の生産能力を誇るスチールラックメーカー『三進金属工業』さんにお願いでき、試作を繰り返して完成しました」

ホームセンターなどで購入できる45角の木材を専用クランプで固定。一般的な工業用クランプは約2㎏もあるが、オリジナルクランプは約400g。約2年かけて開発された

「つな木」のクランプは、角材を直角に組み付ける直交タイプと、斜めに固定する回転タイプの2種類。色は6色展開されている。「僕たちは物理的には、45角という一般的なサイズの角材で使える、けがをしにくいクランプを開発しただけ」と大庭さんは謙遜するが、使用が終われば解体してまた使えるため、イベントやオフィスなど、あらゆるシーンで重宝されている。

一般の人でも使いやすいよう、1畳サイズの小さな空間をつくることができる「どこでもつな木キット」や、普段はブースやベンチとして使い、災害などの非常時には医療・避難用空間として利用できる「もしもつな木キット」なども販売している。角材を追加することでアレンジも可能だ。クランプの位置を下げれば、高さも自由に変えられる。

今回の「WOOD DESIGN EXPERIENCE」で使用した木材は、能登半島地震の被災地に寄贈され、木材を組み換えるワークショップも行われた。寄贈した木材は、被災地で日よけとベンチに組み替えられ、再利用されている。「つな木」はこれからも木と人を結びながら、社会を少しずつ明るくしていくのだろう。

森と街をつなぎ、森林資源の循環を促す

つな木が環境にやさしい理由

① ゼロ・ウェイスト
一般的な角材とオリジナルクランプだけで空間をつくることができ、解体して何度も使えるのでゴミが出ない。一般の人が木材を使うハードルを下げ、森林循環に貢献している。

② 歩留まりを高める
製造現場における生産性や効率性にも配慮し、販売しているキットは端材などを生まないよう設計されている。一般のユーザーのみならず、林業従事者への配慮もある商品だ。

③ さまざまな用途
マルシェやオフィス、仮設医療でのブース、テーブル、ベンチ、シェルフ、コミュニケーションボード、舞台、やぐらなど、さまざまな使い方ができ、多彩なニーズに応えられる。

シンプルゆえの柔軟性が変幻自在の秘密!?

誰でも組み立てられるシンプル設計
一般的な角材を運んでクランプで固定するだけで完成。木材に難しい加工がされておらず、シンプルな設計でクランプが軽いので、誰でも簡単に組み立てや組み替えができる。

約30分で組み立てられる利便性
1畳サイズの小さな空間をつくる「どこでもつな木キット」は約30分で組み立てることができ、イベントなどで使いやすい。1ユニットを組み合わせ、好みのサイズにすることもできる。

災害や非常時にそなえる「もしもつな木キット」
普段は家具として使い、イベント時にはカフェブースなどに、非常時には医療ブースや避難所に適したサイズの個室空間に組み換えられるキット。もしもの時の備えとして役立つ。

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変幻自在の木材ユニット
《つな木》の魅力|後編

 
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text: Yoshino Kokubo photo: Azusa Todoroki
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」

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