世界に轟くものづくり県の礎を築いた15の伝統的工芸品 – 前編
第2回|暮らしをつなぐ、愛知県の伝統的工芸品。
受け継がれてきた技術を用い、主に手づくりで原材料にもこだわった品目に与えられる「経済産業大臣指定伝統的工芸品」。愛知県では15品目が登録されています。伝統を守り続けるとともに、新しい挑戦に取り組む産地をめぐる本連載。第2・3回では焼き物やファブリック、彫刻品、家具など、15品目をすべて紹介します。
日本六古窯ふたつの産地、
愛知の伝統工芸をリードする
やきもの
〈001〉
常滑焼
History
平安時代末期頃に瓶や壺、安土桃山時代には茶道具や花器から日常使いの食器までをつくるように。近代以降は下水道の土管やタイル、衛生陶器なども手掛け、幅広い製品を大量生産する一大産地となった。
Characteristics
粘り気があり粒子の細かい陶土は可塑性が高いため、大小を問わず多種多様な製品がつくられてきた。土の中の鉄分が赤く発色する朱泥焼が有名で、江戸時代末期から明治時代に生産がはじまった急須など茶器で知られる。
良質な陶土と燃料となる森林に恵まれ、日本六古窯の中でも最大の生産量を誇った。清水源二さんをはじめ各窯元は、土の質感をより際立たせるため、独自でブレンドした土を使っている。「きめ細かな常滑の土の質感を感じてください」。
とこなめ焼協同組合
Tel|0569-35-4309
〈002〉
赤津焼
History
奈良時代に須恵器がつくられていたほどの古い窯。鎌倉時代には、全国に先駆けて釉薬を使った作陶を開始。やがて安土桃山時代になると茶道の影響を受け、織部や志野などの技法を確立。尾張徳川家の御用窯として栄えた。
Characteristics
淡い緑色をもつ灰釉、爽やかな青色をたたえる御深井釉など7種類の釉薬と、へら彫りや櫛目といった12の装飾技法を組み合わせ、鉄分の少ない土で茶道具から家庭用品まで幅広く製作している。
日本六古窯瀬戸の中に数えられる赤津焼の最大の特徴は、織部釉や御深井釉などの釉薬に、鉄分を含むが使われていること。産出量減少のため、いまでは貴重な原材料だとか。伝統工芸士・梅村鉱則さんと梅村知弘さんは「資源がある限りこの地で続けていきます」と話す。
赤津焼工業協同組合
Tel|0561-82-0149
〈003〉
瀬戸染付焼
History
古来、陶芸が盛んであった瀬戸は、日本ではじめて釉薬をかけた陶器をつくった。後に京焼や大津絵などを手本とし、呉須絵具などを用いて陶磁器に絵付を施すようになったのが染付焼のはじまりといわれる。
Characteristics
瀬戸の土は耐火性に優れ、不純物が少ないため白色であるのが特徴。焼成後も柔らかな白い素地となり、絵付が容易で淡色でも鮮やかに映える。陶器に施されるものは藍色を基調とし、瀬戸の自然や花鳥が描かれる。
「染付」とは、磁器に施される絵付技法を指すと思われがちだが、瀬戸ではまず陶器に施されていたという。以来、丈夫で使いやすく、暮らしに寄り添った製品がつくられてきた。「焼物は、使うほどに味わいが増す」と8代 半次郎 後継・水野雄介さん。
瀬戸染付焼工業協同組合
Tel|0561-82-4152
名古屋が世界に誇る、
芸術で染め上げられたファブリック
〈004〉
名古屋友禅
History
尾張藩7代藩主・徳川宗春が繁栄策を取ったことで消費文化が花咲き、京都や江戸から華美な友禅が伝わった。宗春失脚後は質素倹約の気風に戻ったことで、色数を抑え落ち着いた趣の作品がつくられるようになった。
Characteristics
絹織物の生地に、ひとつの色彩の濃淡で絵柄を描く単彩濃淡調が特徴。質素倹約が根づく名古屋の風土に合わせた渋い作風だ。手描き友禅は、図案から仕上げまで一人の職人がすべてを担う「一品手作り」だ。
色数を抑えつつ多彩な色合いを見せる名古屋友禅は、「胡粉の使い方こそが肝」と伝統工芸士の堀部満久さんと堀部晴久さん。水に溶かした胡粉を染料へ数滴入れるだけで、色が瞬く間に変化する。一見派手に見えるが実は質素を尊ぶという名古屋の風土が生んだ芸術だ。
名古屋友禅黒紋付協同組合連合会
Tel|052-981-1318
〈005〉
有松・鳴海絞
Characteristics
手蜘蛛絞や三浦絞、巻上絞などの技法を組み合わせることによりつくり出されるバリエーション豊かな模様が特徴。明治から大正時代にかけても新たな絞り技法が生み出され、現在も70種類以上が継承されている。
History
慶長年間(1596〜1615年)、名古屋城築城のため九州から訪れた職人が着ていた絞り染めの着物を見た竹田庄九郎が、その染色法を用いた手拭いを、東海道を行き交う旅人向けに土産として売りはじめたのが起源。
型彫りや括り、染色といった工程にはそれぞれの職人が存在し、とりわけ括りの作業は専門性が高く、技法に応じ複数の括り職人が携わる。「作業は各家庭で行われることも多く、親から子へ技術が受け継がれてきました」と竹田嘉兵衛さん。
愛知県絞工業組合
Tel|052-621-1797
〈006〉
名古屋黒紋付染
Characteristics
紋をかたどった紋型紙を金網で挟んで染める「紋型紙板締め技法」が特徴。高温の染液に浸す浸染と刷毛を使う引染があり、写真の浸染の伝統技法では紅下染または藍下染を施すことでより深い黒を表現できるという。
History
公家が用いた紋章を武家も使うようになり、1610(慶長15)年、尾張藩士小坂井家が藩の旗や幟などの製造にあたったことがはじまり。後に絞り染めで用いた板締め技術を応用し、現在の「紋型紙板締め技法」が確立。
家紋が凜と染め抜かれた黒い着物が礼服となったのは意外にも明治時代以降。しかし家紋のルーツは平安時代までさかのぼり「どれも洗練されたデザインで飽きない」と武田和也さん。染師と紋章上絵師のコラボで継承される美しい意匠だ。
名古屋友禅黒紋付協同組合連合会
Tel|052-981-1318
愛知県の伝統工芸についてもっと詳しく知りたい方はこちら
http://jibasangyo.pref.aichi.jp/
伝統的工芸品が一堂に会する全国大会が開催予定!
全国の伝統的工芸品の製作体験や、展示販売会などを予定。ぜひ足を運んでみてください。
第38回伝統的工芸品月間国民会議全国大会
開催期間|11月26日(金)〜29日(月)
会場|愛知県国際展示場「Aichi Sky Expo」ほか
問|愛知県経済産業局産業部産業振興課
Tel|052-954-6341
暮らしをつなぐ、伝統的工芸品。
1|“ものづくり”県の原点とは
2|“ものづくり”県の礎を築いた15の伝統的工芸品 – 前編
3|“ものづくり”県の礎を築いた15の伝統的工芸品 – 後編
4|暮らしの中に息づく温故知新の“ものづくり”
photo: Atsushi Yamahira, Akane Yamakita, Kiyono Hattori text: Arika Inc.(Yasunori Niiya, Yuki Sawai, Makiko Shiraki, Kaori Nagano) illustration: On Yamamoto
2021年3月号「ワーケーションが生き方を変える?地域を変える?」
≫シンプルなフォルムが映し出す色の小宇宙「岩崎龍二のうつわ」というアート