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名古屋の日本遺産・有松をキーマン「庄九郎」と旅する。【前編】

2020.9.25 PR
名古屋の日本遺産・有松をキーマン「庄九郎」と旅する。【前編】
歌川広重は、東海道40番目の宿場・鳴海の図で、鳴海より約2㎞東にある有松の町を描いた。画中には「名物 有松絞」の文字がある。
歌川広重『東海道五十三次之内 鳴海 名物有松絞』、江戸時代(天保4〜7年頃)、大判錦絵 画像提供=知足美術館

高層ビルがそびえる名古屋駅から名鉄名古屋本線に乗車し、ほんの20分で400年のタイムトラベルができる町が有松です。東海道筋に生まれ、有松・鳴海絞りとともに繁栄し、江戸の面影をいまに伝えるこの町を、キーマン「庄九郎」をテーマにめぐりました。

有松のキーマン、庄九郎
本名、竹田庄九郎。知多(愛知県南部)から、新興地区の有松にIターンし、町の礎を築くとともに、現在まで400年続く地域ブランド・有松絞りを生み出した。有松人で彼を知らない者はいない。

Iターンした庄九郎が、町とブランドをつくる

ゆるやかに曲がる東海道約800mの区間に沿って、絞商の主屋や土蔵が建ち並ぶ。有松を歩けば、それだけで絵になる

2019(令和元)年には日本遺産に認定され、アクセスのよさからマイクロツーリズムの視点でも注目の町、有松。全国で唯一「染織町」として重要伝統的建造物群保存地区に選定される町並みや、世界的に知られる「有松・鳴海絞り」など見どころは多彩だが、有松に出掛ける際には「庄九郎」という人物を知っておくと、より深く楽しい旅ができる。庄九郎とは、400年前、有松にIターンし、地域ブランディングを行った人物だ。

有松は、幹線道としての東海道の重要性がようやく認識され、尾張藩の基礎が固まりつつあった1608(慶長13)年、尾張藩のお触書によって東海道筋に誕生した。松林が続く地を開発すべく、幕府は諸役免除等をして移住者を募る。Iターン第一陣としてやってきたのが、竹田庄九郎ら8名の人々。彼らによって有松の町はつくられた。

当時の有松は、耕地が少なく茶屋集落としても限界があった。転機が訪れたのは1610(慶長15)年。名古屋城の築城に参じた庄九郎は、九州豊後の職人が身につけていた珍しい柄の着物に着目する。そこからヒントを得て、有松絞り(有松・鳴海絞り)へと確立させていった。

東海道の往来が盛んになったのは、伊勢参りが注目を集める1638(寛永15)年頃。旅人が有松土産として反物や手拭いを買い求めたことで、有松・鳴海絞りは大流行した。

有松・鳴海絞りには100種に及ぶ技法がある。この柄は、最もクラシックな技法「手蜘蛛絞り」により生み出される、象徴的なテキスタイルだ

庄九郎ゆかりの屋敷で、有松・鳴海絞りの「伝統」に出合う

中庭の緑が美しい広間にて、有松の製品でも稀少な、有松・鳴海絞りの絹地の着物(時価)。屋敷内や着物の見学も可(要予約)

庄九郎が確立させた有松の絞りは、東海道の発展とともに徳川時代のトップファッションになった。1975(昭和50)年には、愛知県で最初に伝統的工芸品に指定され、現在「SHIBORI」は世界語になっている。

そもそも絞り染めとは、布を糸で括って染液に浸け、防染することで多彩な模様や質感を生み出す染色方法のこと。日本における歴史は古く、日本書紀に記述が残り、正倉院には染織品が収蔵されている。絞りの技法は現在、世界で約100種が認められているが、90%は日本で発達したものだそう。中でも有松の絞りは、庄九郎をパイオニアに新技法を開発し続け、染織工芸文化を牽引し続けてきたトップランナーである。そんな有松の町で注目したのが、「伝統」、「革新」を知ることができるこの2店舗だ。

商品部の竹田昌弘さん。Uターンして活躍中

竹田嘉兵衛商店は、庄九郎の一族で、寛保年間(1741〜1744)に絞業を営んでいた竹田嘉七郎に端を発する。歌川広重は作中でその外観を描いたといわれ、敷地内の茶室には、徳川14代将軍・家茂や勝海舟ら幕末の要人も訪問。江戸末期建造の主屋は、名古屋市指定文化財、都市景観重要建築物にも指定される老舗だ。入店すれば、江戸時代に東海道を往来した旅人気分を味わいながら買い物が楽しめる。新作の即売会やイベントも定期的に開催しており、それを目掛けて行くのもいい。

竹田庄九郎家の分家として江戸時代の末期に建てられ、増改築を重ねながら往時の面影を残す。1995(平成7)年に名古屋市の有形文化財に指定

“逆輸入”された「革新」の有松・鳴海絞りに魅せられる

パレットのような空間。ストール(素材価格別)、ワンピース(5万6100円)、照明(3万6300円〜)等に魅了される

suzusanは、鈴三商店の5代目・村瀬弘行さんが、アーティストを目指して渡った欧州で、ルームメイトのクリスティアン・ディーチさんと立ち上げた気鋭のブランド。伝統的な“浴衣”ではなく、“欧州の暮らしの中で生きる日本の伝統工芸〟として有松・鳴海絞りを再構築した。

店頭に立つ坂田真実さんは、有松・鳴海絞りに魅せられ、新潟から有松にIターンした

村瀬さんは有松・鳴海絞りが“二次加工のための技術〟である点に着目。木綿や絹でなく、カシミヤやアルパカなど付加価値の高い素材を採用し、伝統の絞り染めを施すことで、新しい有松・鳴海絞りを生み出した。2012(平成24)年からはパリ、2014(平成26)年からはミラノでコレクションを発表し、国内トップブランドとのコラボレーションや、世界的なメゾンブランドへの生地の提供も実施。現在は、23カ国、120店舗以上で取り扱いがある。

庄九郎がもたらした有松の絞りという革新は、伝統として受け継がれ、新しい革新も生んでいる。

竹田嘉兵衛商店
住所|愛知県名古屋市緑区有松1802
Tel|052-623-2511
営業時間|9:00〜17:00
定休日|不定休

suzusan factory shop
住所|愛知県名古屋市緑区有松3026
Tel|052-693-9624
営業時間|11:00〜17:00
定休日|水・木曜

 

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text: Discover Japan photo: Koji Honda
2020年10月号「新しい日本の旅スタイル」

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