熊本県南小国町《喫茶 竹の熊》
美しい日本の原風景の中にある喫茶店
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2023年5月、熊本県阿蘇郡南小国町に「喫茶 竹の熊」がオープンした。地場産品である小国杉を多用した建築は、美しい里山の風景と調和し、訪れた人々に南小国町の風土を伝えている。
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九州の中央部、阿蘇外輪山と九重連山の裾野に位置する熊本県阿蘇郡南小国町。総面積の85%を山林原野が占め、九州最大河川である筑後川の源流域を形成、黒川温泉をはじめ数多くの温泉地を有すなど、豊かな緑と水は美しい景色を織りなし、いつの世も人々の暮らしに寄り添ってきた。人口は約4000人。農林業と観光業を主産業とする小さな里山である。「喫茶 竹の熊」が佇むのは、そんな南小国町の田園風景の中。ここは地域の風土を五感で感じられる稀有な場といえよう。
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店主の穴井俊輔さんは家業である「穴井木材工場」の3代目を務めるかたわら、2016年に林業を基盤とした事業を展開する「Foreque」を創業し、翌年ライフスタイルブランド「FIL」をスタート。そして2023年、喫茶 竹の熊を開業した。
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「喫茶 竹の熊では食を軸とした林業の在り方を表現しています。山を整えるときれいな水が湧き、その水で田畑を耕し、作物が収穫できるように、林業と農業と人の営みは密接にかかわっていて、1000年続くこの循環を感じられる場にしたいと考えました」
建築は山の湧き水を引いた水庭を中心とし、高床式の板の間、回廊、喫茶室がそれを取り囲むように配されている。棟木、柱、こけら葺きの屋根、板の間の床など、使用する木材のほぼすべては南小国町の山で育った小国杉だ。板の間に腰を下ろすと、山懐に抱かれたのどかな風景が目の前に広がり、水の音は心地よいBGMとなる。
「この景観を尊重する建築にしたいと思いました。ここから見える山々に植わるのは小国杉です。スギは古来多用されてきた日本固有の樹種。次の時代で活用できるスギの可能性をも、体感していただけたらうれしいですね」
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誕生する「小国杉」
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text: Nao Ohmori photo: Kenta Yoshizawa
協力=九州観光機構
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」