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熊本県南小国町《喫茶 竹の熊》
美しい日本の原風景の中にある喫茶店

2023.10.19
熊本県南小国町《喫茶 竹の熊》<br><small>美しい日本の原風景の中にある喫茶店</small>

2023年5月、熊本県阿蘇郡南小国町に「喫茶 竹の熊」がオープンした。地場産品である小国杉を多用した建築は、美しい里山の風景と調和し、訪れた人々に南小国町の風土を伝えている。

「喫茶 竹の熊」の板の間は水庭の上に建つ。使用する木材は柿渋を塗った小国杉。屋根の裏側にも小国杉の樹皮を採用。ここで購入したドリンクやフードが楽しめる

九州の中央部、阿蘇外輪山と九重連山の裾野に位置する熊本県阿蘇郡南小国町。総面積の85%を山林原野が占め、九州最大河川である筑後川の源流域を形成、黒川温泉をはじめ数多くの温泉地を有すなど、豊かな緑と水は美しい景色を織りなし、いつの世も人々の暮らしに寄り添ってきた。人口は約4000人。農林業と観光業を主産業とする小さな里山である。「喫茶 竹の熊」が佇むのは、そんな南小国町の田園風景の中。ここは地域の風土を五感で感じられる稀有な場といえよう。

店主の穴井俊輔さんは家業である「穴井木材工場」の3代目を務めるかたわら、2016年に林業を基盤とした事業を展開する「Foreque」を創業し、翌年ライフスタイルブランド「FIL」をスタート。そして2023年、喫茶 竹の熊を開業した。

空と田んぼの稲穂を映す水庭は、メダカや金魚などが生息するビオトープ。「喫茶 竹の熊は、南小国町の林業、農業、観光業が連携し、それぞれが発展する取り組みの事例にしたいんです」と穴井さん

「喫茶 竹の熊では食を軸とした林業の在り方を表現しています。山を整えるときれいな水が湧き、その水で田畑を耕し、作物が収穫できるように、林業と農業と人の営みは密接にかかわっていて、1000年続くこの循環を感じられる場にしたいと考えました」
 
建築は山の湧き水を引いた水庭を中心とし、高床式の板の間、回廊、喫茶室がそれを取り囲むように配されている。棟木、柱、こけら葺きの屋根、板の間の床など、使用する木材のほぼすべては南小国町の山で育った小国杉だ。板の間に腰を下ろすと、山懐に抱かれたのどかな風景が目の前に広がり、水の音は心地よいBGMとなる。
 
「この景観を尊重する建築にしたいと思いました。ここから見える山々に植わるのは小国杉です。スギは古来多用されてきた日本固有の樹種。次の時代で活用できるスギの可能性をも、体感していただけたらうれしいですね」

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南小国町の風景をイメージして醸造された「竹の熊 クラフトビール サワーセゾン」。小国杉の葉を使って爽やかな香りをつけ、すっきりしたのど越しの、酸味豊かで果実感のある味わいに仕上げている
「南小国の風土の魅力を象徴するのが水だと思います」と穴井さんが話すように、南小国町には至るところに清らかな水が流れている。湧き水は水路を通って水庭を満たし、田んぼへと流れていく

 

小国ならではの自然環境を生かして
誕生する「小国杉」

 
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text: Nao Ohmori photo: Kenta Yoshizawa
協力=九州観光機構

Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

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