INFORMATION

森林の役割と林業の現状
《木と日本人のかかわり、そして未来③》

2023.11.1
森林の役割と林業の現状<br><small>《木と日本人のかかわり、そして未来③》</small>
photo: Mariko Taya

「山と森の国」日本は、森林があることで多様な文化が育まれてきた。では、我が国の森林はいま、どんな状況にあるのか。日本がもつ森林資源のポテンシャル、そして活用可能性を考える。
 
今回のテーマは「森林の役割と林業の現状」。災害防止や自然保全、環境形成などの公益的機能、木材の安定供給や森林資源活動など、森林のさまざまな役割、そして、それを支える林業の現状とは?

教えてくれた人
森林総合研究所 林業生産技術研究担当・研究ディレクター
宇都木 玄

1966年生まれ。1992年森林総合研究所入所。北海道支所チーム長、植物生態研究領域チーム長を経て現職

≪前の記事を読む

多様化が求められる林業と森林資源

林業は日本の森林資源を活用、維持するために欠かせないものである。だが、機械化が進まない手作業による作業が多い林業(一次産業)では、少子化による人員不足、地域経済の疲弊による人口流出による人手不足、という問題から大きな影響を受けている。
 
「前述のように、日本の森林は増え続けています。いまも戸建て建築物の木造率は8割を超え、需要もそれなりにある。しかし、木材の国内の自給率は35%程度。つまり、林業がうまく回っているとは決して言えません。その理由を深く考察し、日本の林業をもっと時代に合ったかたちに変えていく必要があると思います」
 
多くの資源を輸入に頼る日本で、森林は山と水と太陽の光があれば手に入る唯一の循環資源。持続可能な社会を目指す中、世界に誇れる森林をより活用し、生態系を守りながら健全に循環させる。その大きな可能性に目を向ける時期に差し掛かっているのは確かだ。

いまの森林と林業はどうなっている?

※画像はイメージです

日本の森林がもつ大きなポテンシャルを理解するには、林業について詳しく知ることが欠かせない。
 
林業を定義すれば「木を育て、森をつくり、育った木を切って売る産業」。だが役割はそれだけではない。森林総合研究所の林業生産技術研究担当・研究ディレクター、宇都木 玄さんは語る。
 
「森には地面に雨を蓄えてきれいな水にしたり、空気を清潔にしたり、木の根が土をつかんで災害を防いだりなど、世の中に役立つさまざまな働きがあります。森のこうした働きを守り、森林資源の保全につなげ、健全な森林を保つことも重要な役割です」
 
現在、日本のすべての森林で林業が行われているわけではない。日本の森林は主に「育成複層林や天然生林」、「里山林」、「育成単層林」に区分される。上の図でわかるように、日本の森林面積、約2500万haのうち約1000万haを育成単層林が占めている。林業が行われているのは基本的にこのゾーンだ。
 
「育成単層林の多くはスギやヒノキを中心とした針葉樹の人工林です。成熟した森林を皆伐(全面的に伐採すること)して植栽を行い、繰り返し利用しています」
 
大事なのは、森林を役割で区分するゾーニングを図り、一律な技術を当てはめることなく、森林と林業の多様性を見据えてバランスよく活用することだ。

4つに区分される現在の日本の森林

災害防止や自然保全、環境形成などの公益的機能を目的とした「育成複層林」、地域の生活に利用する「里山林」、国産木材の安定供給など森林資源活動に利用される「育成単層林」に区分。そして育成単層林の一部は針葉樹と広葉樹が混交した形への転換を進めるべきと考えられる

森林面積に占めるスギ、ヒノキの人工林の割合

日本の全森林面積は約2505万ha。うち天然林が1348万haで、人工林は1020万ha。つまり日本の森林の約4割で林業が行われている。人工林は針葉樹、特にスギとヒノキが大半を占め、スギが444万haで全体の約44%、ヒノキが260万haで全体の約25%を占める。今後は針葉樹と広葉樹の混交した育成複層林の割合を増やし、針葉樹だけの育成単層林の割合を減らす森林整備が進められていく

line

 

日本の林業の課題と未来
 
≫次の記事を読む
 
   

text: Naruhiko Maeda
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

RECOMMEND

READ MORE