時代とともにアップデートされる建築技術
《進化する中高層木造建築》
いま木造建築が注目を浴びている。時代の変化に伴い、これまで鉄とコンクリートでつくられていた中高層ビルにも木材が使われはじめている。確実に増えつつある「都市木造」は今後、社会に何をもたらすのか。
後編では、木造建築物の最大の課題である「燃えないための工夫」と、現代の技術が生み出すさまざまな木質構造を紹介する。
火事は大丈夫?
燃えない工夫もアップデートしている!
木は一本一本の強さやかたちが異なり、燃える、腐るといった欠点がある。そういった短所を受け入れる一方、それらを克服する技術の開発が進んでいる。
「そのひとつが、薄い板を貼り合わせて大断面にした集成材の開発です。木材にはさまざまな樹種があり、繊維の方向によって性能が異なり、節や割れといった欠点もあります。そこで、薄い板を貼り合わせて大断面にした集成材などのエンジニアードウッドが生まれました。強さが異なる木材を小さく分解して再構成。積層する繊維の方向を工夫することで、強さのばらつきを軽減。安定した強度を実現しています。また最近はCLT(直交集成板)といって、木の繊維が直交するように積層接着した、より大きく厚みのある板もつくられています」
木造建築物の最大の課題は、燃えない部材を目指すこと。耐火性についても、3種類の考え方に基づいた耐火部材を用いることで担保。そして耐震性についても、木材建築の部材実験や構造解析が可能となったことで、課題の解決が証明されている。
技術革新により木材でも構造計算・構造解析を行うことが可能になり、伝統や慣習にとらわれない新しい木造建築の技術やデザインを社会に提案できるようになった。腰原教授はこの考え方を「都市木造」と呼んでいる。
「これだけ技術が進化している時代ですから、木材だっていつまでも『燃えやすいから駄目』と言われっぱなしではいけないのです。伝統的な木造建築と新しい価値観の木造建築が融合した、多層木造建築物が都市のあちこちにできる。そんな未来を目指しながら、日々研究を続けています」
木造建築で心配されるのが火災。だが現在、木材の耐火技術は大きく発達した。石膏ボードなどの耐火被覆材で包む、内部に鉄骨を入れ熱を吸収する、木材を不燃の燃え止まり層で覆ってその上を燃えしろで覆う、という3種類の耐火材の技術研究が進んでいる。
燃えしろ被覆型
木材を不燃木材などの燃え止まり層で覆い、その上を燃えしろで覆う。火災時に燃える木材の量を予測し、燃え残り部分で安全を確保
鉄骨内蔵型
火災のとき、木材部分が燃えしろ(燃えることを前提とした部材)として燃焼。その後、内蔵した鉄骨の働きによって燃焼が止まる
一般被覆型
石膏ボードなどの耐火被覆材で木構造部分を覆い、燃焼、炭化を防ぐ最もシンプルな方法。外から木材と判別できないのが難点
木のタイプもいろいろ
日本でも少しずつ都市木造が実現しはじめているが、実はすべて木造で建てているもの、ハイブリッドなど、構造はさまざま。木材のみで建てるいわゆる昔ながらの木造にこだわらず、鉄やコンクリートなどさまざまな材料とうまく合わせることによって、適材適所で良質な木質構造の建築物を建てていくことが大事だろう。
木質構造
柱、梁、床、壁というすべての地上構造部材に木材を使用した、高層純木造耐火建築物。11階建てで高さ44mと、純木造の耐火建築物としては国内で最も高さがある
混構造
日本初の木造ハイブリッドビル。RC造のストラクチャーの内側に、3層ごとの木造建築を自立させて組み合わせた10階建てのビル。将来的な増改築も検討しやすいつくりだ
ファザード木質化
構造は鉄骨造で一部木造。敷地東側ゾーンを会議室やリフレッシュコーナーが集約したコミュニケーションハブとし、この範囲を木造化。FRウッドという耐火集成材を使用
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text: Naruhiko Maeda
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」