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日本の林業の課題と未来
《木と日本人のかかわり、そして未来④》

2023.11.1
日本の林業の課題と未来<br><small>《木と日本人のかかわり、そして未来④》</small>

「山と森の国」日本は、森林があることで多様な文化が育まれてきた。では、我が国の森林はいま、どんな状況にあるのか。日本がもつ森林資源のポテンシャル、そして活用可能性を考える。
 
最後のテーマは「日本の林業の課題と未来」。日本の林業は、豊富な森林資源をなぜ活用しきれていないのか。その背景にある課題を明らかにし、林業大国への可能性を考えていく。

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日本の森林が抱える課題と林業大国への未来

林業にはさまざまな仕事がある。大きく分けると①森をつくる「造林」②森を育てる「育林」③木材を供給する「間伐・主伐」の3プロセス。詳しくは上の図を見てもらうとして、木を植えて森をつくる造林から、伐採して木材を供給するまでの長い年月の中で、下刈り、除伐・間伐などの保育・管理を行う。宇都木さんは語る。
 
「日本の林業は多くの課題を抱えていますが、それを考える上で必要な視点がふたつあります。ひとつは円高により輸入木材の競争力が高まったこと。1964年に丸太などの輸入が全面的に自由化され、国内の林業は価格競争に巻き込まれることになりました。そしてもうひとつが、材料の変化。いわゆる石油製品やコンクリートなどの登場で、木材を材料としてきた製品が変わり、さまざまな需要がなくなった。さらに燃料革命によって里山の管理がおろそかになり、将来的には住宅着個数の減少により木材需要が減少するだろうと言われています」

取り巻くさまざまな問題で
減少する日本の林業人口

※画像はイメージです

なぜ、このような状況なのか。大きいのは木材価格の下落だ。
 
「たとえばスギ1㎥あたりの立木価格は1977年に約2万円でしたが、2012年には2600円と大きく下落しています。伐採・搬出費、製材加工費の変化と比べると、立木価格が著しく下がっています。林業家は立木価格の中から造林や育林の費用を捻出せねばならず、難しい経営を強いられています」
 
価格については固有の問題がある。丸太の価格に対するコストを海外と比較すると、日本は立木の価格に対し素材生産費(伐採+搬出費)、運材流通費が高い。
 
「日本は南北に長いためさまざまな環境条件があり、急傾斜地が多いことが大きな理由です。また、温暖で雨の多い日本は雑草の生育が旺盛で、下刈りや地拵えに大きなコストがかかっています」
 
そしてもうひとつが、樹種構成のアンバランスさ。高度成長期から現在まで、木材資源を海外から調達しているうちに、戦後間もない頃には枯渇していた国内の森林資源は大きく回復。現在は森林の蓄積が増える速度より伐採利用量が少なく、日本の木材資源は増え続けている。しかしその中身を見たとき、樹種がスギやヒノキなど一部の針葉樹に偏り過ぎている。
 
「ニーズに応じ、現在の育成単層林を針葉樹と広葉樹が混交した森林へと転換する必要があります。また日本の人工林は主伐期を迎えているにもかかわらず、伐採が進まない地域が多く存在することも大きな問題です」
 
また、林業家の高齢化と担い手不足も課題のひとつ。山村の青年の都市部への流出などにより、他業種と比較して後継者不足は顕著。結果、林業人口は減少している。

必要なのは長期的ビジョン
日本の林業はこれから

※画像はイメージです

では、どのようなソリューションが考えられるのか。まずは森林をゾーニングし、それぞれ個別の保全と管理を行い、バランスよく持続的に森林を活用すること。そして、木材のニーズの変化に対応するため、針葉樹と広葉樹が混交した新たな育成単層林への転換を進めていきたい。
 
「地拵え、植林、下刈りという一連の作業はどこの林業でも同じですが、地域によってコストのかかる作業は異なります。たとえば草が多い地域は草刈りにコストがかかる。平坦で伐採により枝葉が多く残る地域ならば、地拵えの効率性を考える必要がある。これからの林業には、それぞれの地域に応じた技術の使い分けが必要。すべてを統合するシステムをまず構築し、それぞれの地域ごとにカスタマイズすること。システムのどこを中心にすればコストが下がるかを、地域で選んでいくことが重要になります」
 
また現在、さまざまな技術開発が進んでいる。GNSS(全地球航法衛星システム)による位置情報の利用、ICTの活用、日本の森林に合った小型で新しい機械の開発は大きな力を発揮するはずだ。ドローンを用いた森林資源情報の分析や地形解析による効率的な林道づくり、雑草の状態の判別による下刈りの省力化、伐採に使用した機械でそのまま地拵えを行う一貫作業システムの構築などを行っていけば、作業の省力化と平準化を図れる。そしてほかにも、製材品などの木材加工製品の高付加価値化、森林のレクリエーションに向けた積極活用など、これまでの林業の枠組みを越えたアイデアの創出も必要になるだろう。
 
「ただし、それらを考える以前に必要なものがあります。それは長期的なビジョン。木を植えてから伐採するまでには、50年から100年という年月が必要であり、その間の保育・管理が必要。一人の人間が生きる時間や世代を超えて、森林が育っていく時間を見守り続ける目線が欠かせません。そのためには山をよく見て、将来の目標林型を設定するなど、流域全体の整備プランを立てる親方=フォレスターを地域ごとに育てるなどして、問題を解決していく必要があります」
 
戦後から長い年月をかけて育林を行い、主伐期に入っている日本の森林。日本の林業経営はまだまだこれからだ。50年先、100年先を見据え、どんな森を育てていくのかを考え、素晴らしいポテンシャルをもつ日本の森林資源と林業について啓蒙する機会を多くつくり出し、世代を超えた議論を重ねていくことが重要だろう。

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林業の課題と解決策

※画像はイメージです

【課題】
◎立木価格の下落
◎高い中間コスト
◎担い手不足

【解決策】
◎フォレスター(森林管理者)の育成/地域ごとのカスタマイズ
◎技術革新/最終製品化による高付加価値化
◎レクリエーションに向けた活用

1㎥あたりの丸太価格の内訳日本の丸太の価格に対するコストを海外の林業先進国と比べると、木を伐採して林内を移動させるなど素材生産にかかる経費と流通コストが高く、それが山元立木価格(山に立っている木の価格)を圧迫しているとわかる
伐採に使用した機械ですぐさま地拵えを行い、
コンテナ苗を用いて植林を行う一貫作業システムは、低コスト再造林の切り札。
そして森林資源情報の分析などへのドローンの活用も今後進んでいく
提供:(国研)森林総合研究所

 

   

 

text: Naruhiko Maeda
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

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