日本人の心のふるさと
《伊勢神宮》の森の秘密
国と国民の平安を祈り、
めぐりめぐる常若の神宮【前編】
2000年以上も続く悠久の歴史を誇る伊勢神宮。20年に一度の式年遷宮により、常に新しくみずみずしい姿を誇り、神宮を抱くように広がる豊かな森では大切に継承されてきた木々が育まれている。未来のために伝統をつなぐ、数百年単位の営みをご紹介しよう。
日本人の「心のふるさと」と親しまれる伊勢神宮(正式名称は神宮)。日本国民の総氏神で、皇室の祖先神である天照大御神を祀る内宮、衣食住や産業の守り神・豊受大御神を祀る外宮を中心に、125の宮社から成り立ち、檜や広葉樹からなる森に抱かれる。
その森の中で重んじられてきたのが「常若」の思想。常に若々しく、清浄であり続けることで永遠性を保つ。こんな和歌がある。「神垣の 御室の山の榊葉は 神の御前に 茂り合いにけり」。神宮各所に供えられる榊は常緑樹で、生命力に富んだ産霊(万物を生み出す力)の象徴。常に青々と生い茂るさまを、神の繁栄に重ねているのだ。
石づくりの建造物は不朽の堅牢さを思わせるが、いずれは風化し遺跡となる。では木造建築の神宮はどうか。“変わらないために変える”、それが神宮最大の神事、20年に一度の式年遷宮だ。社殿をはじめ、宇治橋や鳥居、装束や神宝まですべてを一新する。天武天皇の発意によって制定され、約1300年にわたって継続。最近では、2013年に第62回目が執り行われている。
日本の古い建築様式「唯一神明造」を用いた社殿には、御造営用材として檜が欠かせない。1回の遷宮につき約1万本、丸太材積で約1万㎥と、膨大な量を必要とする。それも清浄な山「御杣山」から伐り出されたものでなければならない。伊勢の御杣山は鎌倉時代後期から森林資源が枯渇し、美濃や木曽の山に供給を求めるように。そこで神宮では1923(大正12)年、「神宮森林経営計画」を策定。御用材を自給自足し、御杣山が伊勢の山々に戻ることを目標に、檜を200年で育成しているという。
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text: Aya Honjo photo: Mariko Taya
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」