INFORMATION

約20年ぶりの高専が徳島県神山町に誕生!
未来の起業家を育成する
「神山まるごと高専」【Part 4】

2023.3.28
<small>約20年ぶりの高専が徳島県神山町に誕生!</small><br>未来の起業家を育成する<br>「神山まるごと高専」【Part 4】

学生生活の、もうひとつの拠点となるのが寮。それぞれの思いとともに暮らし、友人たちと切磋琢磨する、大切な場所がここにある。充実の学びを支える寮の魅力を神山まるごと高専寮長の川崎克寛さんにうかがった。

≪前の記事を読む

神山まるごと高専寮長
川崎克寛さん

徳島県出身。アメリカを拠点に海外交流に従事し、帰国後は企業勤務を経て独立。企業再生や地域プロジェクトにかかわり、東日本大震災後には被災地支援にも尽力。現在は徳島市内から神山町に通う

光がたっぷりと差し込む廊下。個室の上部には採光と通風のための小窓が設けられている。シャワールームやランドリールームを各フロアに完備

共同生活を通して
よりよい未来を創造する

全国から集まった学生たちが暮らすのは、「ホーム」と名づけられた寮。町の中学校校舎を受け継いだ空間は、クラスメイトとともに学び、食べ、眠り、将来について語り合う拠点となる。
 
寮長の川崎克寛さんは語る。「高専に在籍する15歳から20歳は、人生で一番価値観が変わる時期。ここで暮らしていく学生たちが思い悩むことがあったら、そっと背中を押す役割になれたらと思います」。寮という共同生活の場は、自分を律することと協調性が求められる、いわば社会の縮図。とはいえ、寮則にただ従えばいいとも思わない。「よりよい生活の場にするためなら、自分たちで考え、ルールはどんどん変えていってもらいたい。ルールを再検証する姿勢こそが大切で、それが未来を変える力になっていくんだろうなと思います。寮長の仕事は学生たちの健康と安全、衛生を管理することですが、いずれ学生が自治力をつけて、極端な話、自分が必要なくなる時が来たらいい」とほほ笑む。
 
個室は中学校時代の教室を生かしたユニークなモジュールで、異学年が同じフロア・ユニットに入居する。現状では3年次までの学生を受け入れ、4〜5年次は別に寮を構えるかなど構想中だという。日々新しく何かを吸収し、伸びていく学生たちの暮らしの中で、どんなドラマが生まれるか楽しみだ。

個室内部は、もと教室だったところの壁を落としたむき出しの風合いがモダン
2人部屋が2室、1人部屋が2室と、1モジュールに計6名が入居する。手前はコミュニティスペースになる予定。床材は神山町の杉材を使用。校舎の構造材として用いた神山杉の端材を、寮室のフローリングに活用し、建築プロジェクトでも“まるごと”をコンセプトにしている
2年次までを過ごす2人部屋の一例。部屋の両端に各自のベッドとデスクなどが配置される。3年次になると1人部屋に入居する仕組み

地産地食への願いが詰まった、日本一の給食

育ち盛りの学生たちの胃袋を支える、寮に併設された「まるごと食堂」。そこで提供される給食には、地域の産物や食文化への真摯な思いが込められている。参画しているのは、神山町の農業を次世代につなぐ取り組みであるフードハブ・プロジェクトをはじめ3機関。学生たちが安心して毎日の生活を送れるよう、まずは美味しく、そしてほっとするような食事を心掛けている。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、旬のものを最適な調理方法で、毎日継続的に。言葉にすると簡単なようで、相当な熱量が必要だ。勉強に、課外活動にと多忙な生活を送る学生が、心身を健やかに保つために、食が果たす役割は大きい。みんなが食事を真ん中に会話を楽しむ場が醸成され、豊かなつながりが生まれる。そんなシーンが学校生活を彩ることが期待されている。地域の農産物を地域で食べ、関係性を育んでいくという思いが込められた「地産地食」もキーワードだ。神山町に暮らすことになった学生が、土地の魅力を体感できる機会でもある。
 
フードハブ・プロジェクトは食堂のメニューを支えるほか、教育の文脈でも高専にコミット。プログラムパートナーとして、5年次の食農ワークショップ演習を担当する予定だ。「地産地食」の品々や授業を通して、学生や教師たちと状況を共有し、神山町や全国の中山間地域の農業や食文化の問題に目を向けるきっかけをつくりたいと考えている。学生たちが生み出す「テクノロジー×デザイン×起業家精神」の力で、地域、さらには日本と世界の食の課題解決に挑む日も、きっと遠くないだろう。

「まるごと食堂」はホーム(寮)の1階。学生と教職員が自由に利用できる交流の拠点として活用される予定。一緒に地産地食を体験することで、地域での関係性を育てるというフードハブ・プロジェクトの理念を体現している。気候がよければテラス席で風を感じながら食事が楽しめる
日本一の地産地食率を誇る神山町。たっぷりの旬野菜などを盛り込んだ、食べ応えも味わいも満点の給食で、育ち盛りの身体をサポートする

学生たちの1日の過ごし方例
7:00 朝日と鳥のさえずりで目を覚ます
8:00 仲間と一緒に朝食
8:30 自然の空気を吸いながら登校
9:00 授業開始、1限目はプログラミング
10:30 2限目、SFプロトタイピングの授業
12:00 日本で一番美味しい給食でお昼ご飯
 
13:00 午後の授業は、学校の外へ(※1)
16:00 放課後は、各自のプロジェクト作業
18:00 それぞれのペースで夕食・お風呂(※2)
20:00 自由時間
23:00 就寝

読了ライン

※1 雨乞いの滝
急峻な山道を800mほど登ったところにある滝。雌滝と雄滝の2本からなり、日本の滝100選にも選定されている
※2 神山温泉 ホテル四季の里&いやしの湯
1868年開業の温泉。肌触りのいいなめらかな塩泉で、神経痛や筋肉痛などに効能あり。神山産の青石を使った浴槽も
住所|徳島県名西郡神山町神領本上角80-2
Tel|088-676-1117

 

   

 

text: Aya Honjo photo: Ryusuke Honda
Discover Japan 2023年3月号「移住のチカラ!/移住マニュアル2023」

徳島のオススメ記事

関連するテーマの人気記事