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夏の阿寒湖で豊かな自然とアイヌ文化に触れる旅【後編】

2021.9.18 PR
夏の阿寒湖で豊かな自然とアイヌ文化に触れる旅【後編】
朝焼けに照らされる雄阿寒岳

アイヌ文化の発信地として、いま再注目を集めている阿寒湖。夏の魅力を体感するため、ライターの大石始さんと写真家の鈴木優香さんが現地を訪れた。後編では各地の山々を渡り歩いてきた鈴木さんに後日談を伺った。ふたりはこの後、秋冬にも阿寒湖を訪れることになっているが、夏ならではの魅力はどこにあるのだろうか?

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〈今回旅した人〉

大石 始(おおいし はじめ)
音楽や祭りなど各地の地域文化を追うライター。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書に『盆踊りの戦後史』(筑摩書房)、『奥東京人に会いに行く』(晶文社)、『ニッポンのマツリズム』(アルテスパプリッシング)、『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)など。現在、屋久島古謡に関する著作を執筆中

鈴木優香(すずき ゆか)
東京藝術大学大学院修了後、商品デザイナーとしてアウトドアメーカーに勤務。2016年より、山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」をスタート。現在は山と旅をライフワークとしながら、写真・デザイン・執筆などを通して表現活動を続ける


前日の雨の気配が残る、朝の森を行く

今回の旅は山岳収集家を名乗る鈴木優香さんが撮影を担当し、すべての行程をともに回ることになった。これまで日本各地の山に入り、風景を拾い集めるように写真に収めてきた鈴木さんだが、阿寒湖にやってきたのははじめてのことだったという。

鈴木さんには今回の滞在でひとつの目的があった。それが日本百名山にも選定されている雌阿寒岳(めあかんだけ)に登ることだ。

阿寒湖には象徴となる山がふたつある。ひとつはアイヌ語で男の山を意味するピンネシリこと雄阿寒岳(おあかんだけ)。もうひとつが女の山を意味する活火山、マチネシリこと雌阿寒岳だ。鈴木さんは後者の雌阿寒岳に登ったわけだが、そのときのことをこう振り返る。

「雌阿寒岳は標高1499mで、雌阿寒温泉登山口からだと往復4、5時間。アカエゾマツの森から歩きはじめ、続いてハイマツ帯、岩場となり、山頂付近では活動中の噴火口、阿寒湖や雄阿寒岳も望むことができます。この地域は森林限界の標高が低くて、高山でなくとも視界が開けた道が長く歩けていいなという印象でしたね。今回はガスに覆われていて展望がなかったのですが、雨上がりの山もなかなかいいもの。雨の雫が付いたハイマツや、火山特有の岩を撮影するなどして楽しく歩きました」

ハイマツ(左)と、独特の色を持つ岩(右)

何気ない会話から土地への理解が深まる

アイヌの方々の土産物店などが軒を連ねるエリア「阿寒湖アイヌコタン」

阿寒湖観光の中心となるのは、阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」や阿寒湖アイヌのアートミュージアム「オンネチセ」、さらにはアイヌ民芸品店や飲食店が立ち並ぶ阿寒湖アイヌコタン。鈴木さんは初日から民芸品店を周り、店主たちとなにげないコミュニケーションを交わしていたという。

エポエポの店主・森田薫さん


アイヌの祭具であるイクパスイ

「(民芸品店のひとつである)エポエポで店主の森田薫さんとお話しつつ長居していたら、茹でたてのトウキビを出してくださったことがありました(笑)。アイヌコタンには木彫りの作品を扱うお店がたくさんありますが、中でも森田さんがつくるものが好みだったので、滞在中何度か訪ねました。はじめはアイヌのイトッパ(しるし)を刻印した作品をきっかけに、その意味や由来、アイヌの人たちが自然や動物とどのように向き合いながら生活をしていたかを話してくれました。いままでアイヌの文化に触れることがなかったのでピンと来ないこともありましたが、そのあと『イコㇿ』や『オンネチセ』を訪ねたり、『Anytime Ainutime!』に参加するうちに、そこで得た知識と森田さんの言葉が繋がっていきました。たとえば、イナウやイクパスイといった祭具がどんな場面で使われるのかがわかったり、チシポ(針入れ)の使い方がわかったり。同じ場所に長く滞在すると、その土地への理解が急速に深まるのでおもしろいですね」

色とりどりな夏の阿寒湖

日の出から間もなくして、阿寒湖畔からカヌーに乗り込み、湖上へ向かう

今回の滞在では鈴木さんもさまざまなアクティビティに参加したが、中でも印象に残ったのが早朝のカヌーツアーだったという。
「生い茂る葦の中を通るなどの冒険的要素もありつつ、湖上でのコーヒータイムもあり、穏やかな気持ちになれるひとときでした。水面の表情や、木々や雲の映り込み、進むカヌーの横にできる波紋が本当に綺麗で、写真をたくさん撮りました」

この日は、水面も穏やかだった。ふと目に映る自然の美しさに、たびたび心を奪われる
阿寒ネイチャーセンターの安井岳さん。湖上で阿寒湖の大自然を五感で感じながらいただくコーヒーは格別

そんな夏の阿寒湖の魅力について、鈴木さんはこう振り返る。

「自然の中で行うアクティビティと温泉街の街歩き、どちらも気軽に楽しめるのは夏ならではと思いました。これから紅葉の季節が訪れ、冬には湖面が凍り、この後もさまざまな阿寒湖の姿が見られると思うと、次回の滞在が待ち遠しいです。阿寒湖を訪れたのは今回がはじめてでしたが、たっぷり5日間滞在したことで密度の高い旅になりました。阿寒湖や雌阿寒岳をはじめとする自然と、自然とともに生きるアイヌの文化に触れたことで、まずはこの地域の全体像を見ることができたと思います。とくにアイヌの舞踊や歌の響きは新鮮で、ずっと頭から離れず、自宅に戻ってからもいろいろな動画を探しては観ています」

 

《秋の阿寒湖の旅。
まりも祭りとカムイノミの裏側。》
 

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第1回|大自然とアイヌ文化に出合う夏  前編 後編
第2回|秋は祭りや儀式で阿寒湖をより深く体験  前編 中編 後編
第3回|冬の阿寒湖でアイヌ文化と豊かな風土にふれる  前編 後編

text=Hajime Oishi photo=Yuka Suzuki

 

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