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1万年間のミス土偶は誰だ?
美人土偶コレクション

2020.11.2
1万年間のミス土偶は誰だ?<br>美人土偶コレクション

いま、巷でちょっとした土偶ブームが起きています。土偶と聞いてまず思い浮かぶのは、ぎょろっとした目とずんぐりむっくりした身体の遮光器(しゃこうき)土偶ではないでしょうか。ところがその土偶のイメージを覆すさまざまな土偶たちが世の中を席巻しはじめています。ゆるふわの天然系やナイスバディのグラマラス系……バラエティに富んでユニークな土偶コレクションを紹介します。

監修者
譽田亜紀子(こんだ・あきこ)さん
文筆家。岐阜県生まれ。京都女子大学卒業。奈良県橿原市の観音寺本馬遺跡の土偶との出会いをきっかけに、各地の博物館、遺跡を訪ね歩き、土偶、そして縄文時代の研究を重ねている。現在は、テレビ、ラジオ、トークイベントなどを通して、土偶や縄文時代の魅力を発信する活動も行っている。東京新聞中日新聞隔週水曜日夕刊に『譽田亜紀子の古代覗き見』連載中。著書に『はじめての土偶』(2014年)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年、ともに世界文化社)『ときめく縄文図鑑』(2016年、山と溪谷社)『土偶のリアル』(2017年、山川出版社)『知られざる縄文ライフ』(2017年、誠文堂新光社)『土偶界へようこそ』(2017年、山川出版社)。『縄文のヒミツ』(2018年、小学館)『折る土偶ちゃん』(2018年、朝日出版社)がある。近著に『知られざる弥生ライフ』(2019年、誠文堂新光社)がある

Q.なぜいま、土偶が女性に人気なの?
A.かわいくて、ミステリアスだからです。

近年、土偶の魅力に真っ先に気がついたのは、女性たちだった。土偶を「かわいい」と言って、粘土で自作してブローチにしたり、精巧につくられた土偶フィギュアを部屋に置いたり。休日には土偶が多数紹介されている本を眺めながら過ごすのが幸せ、という若い女性もいたりする。強者になると、現物を見るため東北を回って「土偶旅」をする人まで出現しているのだ。実際に、博物館の関係者によると、女性の来館者が増えているという。

 ここで少しおさらいをしておこう。土偶とは、縄文時代に粘土でつくられたの焼物をいう。それらは、弥生時代になると姿を消し、縄文時代を象徴するアイコンのひとつといってよい。その存在は古くは江戸時代から知られ、明治、大正と、いわゆる好事家たちによって収集されてきた。それらも含め、全国でおよそ2万点見つかっている。

では、多くの人々の心をぐっとつかんできた土偶とは、そもそも一体何なのか。この本質的な問いに明確な答えを出せる人は、実は研究者といえども存在しない。なぜなら、縄文人が書き残した文字はなく、私たちは彼らが残したさまざまな生きた証し(土の中から掘り出されたもの)で推測するしかないからだ。その多くが妊娠した女性を表現し、漁猟採集狩猟の食料確保の祈願をしたり、安産多産を、また命の再生を祈願するための祭祀道具だと研究者は考えている。

また、土偶の多くはバラバラと壊れた状態で見つかっていて、国宝土偶のようにほぼ完全な姿で見つかるのはまれなのだ。では、バラバラになった土偶と完全なかたちで埋められていた土偶の間にはどんな違いがあるか。用途の違いではないかと推測されるが、それも事実はわからない。すべては謎なのだ。

土偶を鑑賞する3ポイント

そんなさまざまな境遇を経て現代によみがえった土偶を鑑賞するポイントは3つある。

まずひとつ目。土偶と目線を合わせる。なんだそれ、と思うなかれ。恥ずかしがらずにやってみてほしい。なぜか土偶との距離がぐぐっと縮まる気がするのでオススメだ。ふたつ目。正面だけでなく背中もじっくりと観察する。中には、裏表でまったく模様やテイストが違う土偶もある。あたかも人の姿を見ているような気持ちにさせられることもある。それでも、そこには縄文人の何らかの意図があるはずだ。背面には彼らの本心が込められていると個人的には思っている。最後に、つくり手や使い方などあれこれ勝手に想像する。いまの世の中、簡単に正解を求め過ぎる気がするが、いくら考えても正解がわからないものを、あれこれ想像し考えることが、もしかしたら豊かな時間なのではないか。

すべてがミステリアスなのに、その造形は眺めているだけで癒されるという、ゆるキャラの元祖ともいえる土偶たち。この機会にじっくり美人土偶たちを鑑賞してみたい。

美人土偶コレクション

滋賀県教育委員会蔵 画像提供=滋賀県教育委員会

〈no.1〉
スタイル抜群、原始の美。

土偶

はじめから頭はつくられていない。サイズも31㎜ととても小さいが、このスタイルに痺れる。少し丸い背中と豊満な乳房、そして括れたウエストは成熟した女性を思わせる。つくり手にとって、理想の女性像だったのではないか。女性はその存在自体がすでに美しいのだと、もの言わぬ土偶が語っている。

出身|滋賀県東近江市 相谷熊原(あいだにくまはら)遺跡
身長|31㎜
時代|縄文時代草創期

東京国立博物館蔵

〈no.2〉
土偶界の女王とは私のこと。
遮光器土偶(重要文化財)

土偶といえば、これである。バランスよく全身に施された模様も美しいが、頭部を見てほしい。ところどころに赤く色づいた場所がある。当初は全身が赤く塗られていたとされ、宇宙人色がいま以上に強く、インパクト大である。そのせいなのか、不憫にも某国民的人気アニメの映画には悪役で登場している。

出身|青森県つがる市木造亀ヶ岡
身長|342㎜
時代|縄文時代晩期

個人蔵 image:TNM Image Archives

〈no.3〉
恋愛成就をお手伝い。
ハート形土偶(重要文化財)

縄文人も現代のハートと同じ意味でつくったのだろうか。だとしたら、なんてロマンティスト。あまりに完成度が高くて見惚れてしまう。現実的には植物の葉から連想したと思われるが、それでもこのフォルムはすごい。全身にびっしりと施されたデザインは計算されていて感嘆するほかない。

出身|群馬県東吾妻町郷原
身長|303㎜
時代|縄文時代後期

福島市教員委員会蔵(宮畑遺跡史跡公園保管)

〈no.4〉
伸ばせば私、美脚の持ち主。
しゃがむ土偶(重要文化財)

桃畑の排水溝をつくる作業中に見つかった。昭和27年のことである。器用に脚が折りたたまれているが、上半身に比べてかなり長いのではないかと想像する。そもそもなんでこんな複雑なポーズをとる必要があったのだろう。ウルトラマンの「シュワッチ!」のごとく組まれた腕が謎を深める。

出身|福島県福島市 上岡遺跡
身長|213㎜
時代|縄文時代後期

東京・明治大学博物館蔵

〈no.5〉
自慢のステップ披露します。
山形土偶

頭が山のように三角形になっている土偶を「山形土偶」という。見つかった場所ではない。柔らかな顔、耳にはポチッとした耳飾りの装飾と女子力が高い。その上、かなりの巨乳である。そして左右に広げた両腕が踊っているようで楽しげだ。くれぐれもヒゲダンスではないのでご注意を。

出身|千葉県佐倉市 江原台遺跡
身長|119㎜
時代|縄文時代後期

山梨県・山梨県北杜市考古資料館蔵

〈no.6〉
ファッションリーダーと呼んで。
パンツをはいた土偶

赤く塗られた痕が顔から肩にかけてきれいに残っている。顔のそれは、まるでほお紅をさしているようだ。肩に施されたドット柄は、現代の女性もシャツに取り入れたりしているから、ドット好きは縄文時代からだったのか。耳には耳飾りを、首にはネックレスとかなりのオシャレ好き。

出身|山梨県北杜市 石堂B遺跡
身長|110㎜
時代|縄文時代後期

井戸尻考古館蔵

〈no.7〉
ミステリアスな女とは私のこと。
ハートのお尻の土偶

ハート形の顔を空に向け、天を仰ぐこの土偶。両手を広げるさまは、まさに祈りの姿。身体には何とも不可思議な模様が正面だけでなく、脇腹、そして背中にも施されている。なんだ、この模様は。何かの暗号、いや、メッセージか。いずれにしても、縄文人が願いを込めてつくったもの。

出身|長野県諏訪郡富士見町 坂上遺跡
身長|230㎜
時代|縄文時代中期

宮城・東北歴史博物館蔵

〈no.8〉
おかっぱ頭がチャームポイント。
角偶

シカの角でつくられた人形である。ご丁寧に両手脚の指も刻まれている。そして圧巻は透かし彫りの胴部。まずは適した道具をつくり、根気強く彫っていく。少しでも力を込めたら、おじゃんだ。つくり手にはどうしてもつくらねばならない理由があったのか。技術力の高さに度肝を抜かれる逸品。

出身|宮城県石巻市 沼津貝塚
身長|38㎜
時代|縄文時代後期

宮古市教育委員会蔵
X線画像

〈no.9〉
お腹に命宿ってます。
音の鳴る遮光器土偶

振るとカラカラと鳴ることから、身体をX線撮影したところ、お腹の中に3つの粘土玉を抱えていることが判明! 土偶は子宝を祈願する道具ともいわれるが、本当に子宝を宿していた非常に珍しい土偶である。いまも昔も、新たな命を宿すことは尊いことだと教えてくれる。

出身|岩手県宮古市 菅ノ沢遺跡
身長|148㎜
時代|縄文時代晩期

千葉・国立歴史民俗博物館蔵

〈no.10〉
母性愛の化身。
子抱き土偶

頭が失われているのが残念でならない。愛しげに乳飲み子を腕に抱き、乳をやろうとしている非常に珍しい土偶である。母の顔はないが、あったとしたら、きっと優しい顔をしていただろう。人類が誕生したときから変わらない、普遍的な人の営みがこの土偶には表れている。母は偉大なり。

出身|東京都八王子市宮田遺跡
身長|71㎜
時代|縄文時代中期

text:Akiko Konda
2018年9月号「縄文人はどう生きたか」

 

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