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日本最北の世界自然遺産!
北海道・知床で知るエコツーリズム
|前編 知床とは?

2021.8.28 PR
<small>日本最北の世界自然遺産!</small><br>北海道・知床で知るエコツーリズム<br><small>|前編 知床とは?

1964年に国立公園、2005年にユネスコ世界自然遺産に登録された北海道の知床半島。自然保護の歴史は長く、地域住民が声を上げてきたのが特徴だ。豊かな自然は魅力的な観光資源だが、それゆえ多くの人が訪れることで、傷む可能性もある。自然をよりよいかたちで未来に残すには、いま何をすべきか。観光と環境保全を互いに支え合う存在と考える知床のエコツーリズムの取り組みを見ていこう。

世界自然遺産・知床とは?

中編で紹介する「知床自然体験1日コース」の「原生林ツアー」折り返し地点からの眺め。知床岬まで望める

北海道の東に飛び出た半島。1000mを超える知床連山が海からすぐの場所にそびえる独特の地形を持つ。連山を境に半島の東西に斜里町と羅臼町がある。

生態系
海から陸へ、栄養の循環
知床の生態系で大きな役割を果たすのは流氷。氷の中に取り込まれた微細藻類が春先になると解け出て海を豊かにするのだ。プランクトンとなりそれを魚類が食べ、その魚類を鯨類が……とつながり、海には多くの生き物が生息する。鮭は海を回遊した後、故郷の川を遡上。ヒグマやシマフクロウの栄養となり、そのフンが森を豊かにする。

生物多様性
稀少な動植物が生息、生育
日本最大の陸上動物、ヒグマが高密度で暮らし、日本最大のフクロウであるシマフクロウや、絶滅危惧種の海鳥・ケイマフリなど、稀少な動物が多数生息。またシレトコスミレは知床半島とその周辺の一部地域だけに生育する植物だ。シャチやイルカなど多種類の鯨類が姿を見せる羅臼沖は世界的な研究でも価値のある場所とされている。

※赤線のかこみ部分が世界自然遺産地域

日本で3番目に世界自然遺産に登録
自然遺産に登録されるための基準は「自然美」、「地形・地質」、「生態系」、「生物多様性」。知床は、海から山への生態系のつながりがわかりやすく目に見える点、稀少性の高い生き物が多数生息していることが評価され、「生態系」と「生物多様性」の基準を満たし、2005年に世界自然遺産に登録された。海岸線から約3kmの海域も範囲に指定されている。登録後の調査で、ユネスコからは解決すべき17の課題が出され環境省などが改善に取り組んでいる。

未来につなげる保護活動をする人々

100平方メートル運動取得地は知床五湖近くにも。樹種の多様な森にするための作業が進められている

ユネスコに評価された知床の豊かな自然。実は、自然遺産登録前から環境保全を意識し、守ってきた歴史がある。 最もエポックメイキングな取り組みとなったのは1977年にはじまった「しれとこ100平方メートル運動」。開拓跡地を乱開発から守るために、斜里町が全国に寄付を呼び掛けたものだ。自治体主体のナショナル・トラスト運動として注目を集め、’97年には目標を達成。土地の取得後は生態系の再生を目標に、100年先を見据えて活動中だ。

また、知床五湖では2011年からヒグマ活動期(5月10日〜7月31日)の地上遊歩道への立ち入りは認定ガイド同行の有料ツアーに限定。国立公園では2例目の利用調整地区制度だ。自然保護の面での効果に加え、ガイド利用者数は’11年の6519人から’19年の1万6080人へと大幅に伸びた(※1)。知床ネイチャーオフィスの松田光輝さんは「エコツアーを利用する、と観光する側の意識が変わってきたように思います」と話す。ツアー会社でもガイドの質を維持し、要望があったときに手配できる仕組みづくりに取り組み、同社では全ガイドが正職員だという。

倒木はあえて撤去せず。種がその上に落ちると下草にじゃまされずに光合成ができ、次の森へとつながる

こうしたことから、知床を「日本の自然保護や環境保全を考えるラボみたいな場所」と表現するのは「知床財団」の秋葉圭太さん。知床財団は斜里町により’88年に設立。世界自然遺産登録後は、羅臼町も設立者に加わり、知床全域の自然保護活動にかかわるようになる。100平方メートル運動で取得した土地の維持管理や、環境省や北海道が策定した世界遺産の管理計画に基づきシカやヒグマの調査も行い、独自の事業としては普及活動、環境教育からグッズ販売まで。業務は多岐にわたり、知床では大きな役割を果たす。

「この地域の価値を上げ、経済的な恩恵を受けながらどう自然を保全していくのかを考えることが私たちの仕事」と秋葉さん。次の大きな仕事として挙げるのは、「移動」の仕組みづくりだ。「知床では道路でさまざまな問題が起きているんです。一番は野生動物、特にヒグマとのあつれきです」。これまでも財団では対策を続けてきたが、解決には至っていない。訪れる人の「野生動物を見たい」という思いに寄り添っていなかったのではという反省をもとに考えたのが「入り口は観光。出口が自然保護」の仕組みづくりだ。「自然保護が入り口になると規制論になりがち。それを楽しみ方とセットで提案すれば、社会的な共感も得られやすいと思うんです」。

100平方メートル運動地を示す看板。1年単位で5区画を順番に手入れ。一般の人も植樹祭などは参加可能

昨年10月に3日間、地域や環境省の協力を得て実証実験を実施。「知床オータムフェス」の一環で「バスデイズ」としてイベント的に行った。知床五湖など国立公園の主要エリアへはシャトルバスに乗り換えて行く仕組みだ。バスにはガイドが同乗し、野生動物とのつき合い方を説明。バスの中からルールを守り野生動物の観察もできる。反応は上々。渋滞を解消し、縦走登山などを提案しやすくなる可能性も見えてきた。

しかし、法律上の問題や予算、バスの手配など、課題は山積している。「実際の運用には、自動運転やMaaS(※2)など、最新技術も最大限生かす必要があります。もはやヒグマの課題解決のためだけではなく、温暖化対策などのトピックも盛り込んで進める必要があるでしょう。大変なことに手をつけてしまったという思いもありますが(笑)、地域の魅力を上げながら、結果として自然を守る仕組みになると実証していきたいと思います」。10月1〜3日、「知床サスティナブルフェス」で2回目の試みを行う予定だ。

2010年に設置された知床五湖の高架木道。植生保護、ヒグマ対策、バリアフリーとさまざまな問題を解決
知床財団は大学等と連携してヒグマの個体識別調査を実施。DNA鑑定を行い、家系図を把握している

※1 2020年度第1回適正利用・エコツーリズム検討会議資料「ヒグマ活動期の立入認定者数の推移」より
※2 マース(Mobility as a Service)。異なる交通手段をアプリなどひとつのサービス上で一括して検索、予約、支払いができるようにするシステム

 

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日本最北の世界自然遺産!
北海道・知床で知るエコツーリズム
前編|知床とは?
中編|「陸」から知る知床
後編|「海」から知る知床

text: Masayo Ichimura photo: Hiroki Tsuji
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」


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