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GEZAN、コムアイ、GOMA、U-zhaan……
「ウタサ祭り」の裏側
冬の阿寒湖温泉滞在記【後編】

2022.3.4 PR
<small>GEZAN、コムアイ、GOMA、U-zhaan……</small><br>「ウタサ祭り」の裏側<br>冬の阿寒湖温泉滞在記【後編】
2021年に続きオンライン配信となった、2022年の阿寒ユーカラ「ウタサ祭り」

2020年、阿寒湖で阿寒ユーカラ「ウタサ祭り」という新しい祭りがはじまった。「ウタサ」とはアイヌ語で「互いに交わる」という意味。その名の通り、アイヌ文化の担い手たちと国内外のアーティストたちが交わり、同じ時を過ごし、対話することで新しい表現を生み出すことをテーマとしている。今年のウタサ祭り(2022年2月12~13日開催)を通じて、阿寒湖アイヌコタンにおける「アイヌ文化の今」を感じ取ってみたい。

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「互いに交わる」ウタサ祭りと『ロストカムイ』

雪に覆われる、阿寒湖アイヌコタン

過去の記事でも取り上げたように、阿寒湖アイヌコタンではアイヌ文化に対する新たな取り組みが行われている。阿寒湖アイヌシアター「イコ」で上演されている演目もそのひとつ。中でも2019年から上演されている阿寒ユーカラ『ロストカムイ』は、デジタルアートや7.1chサラウンドによってアイヌの神話世界を表現し、国内外からも高い評価を得ている。

「イコ」でのパフォーマンスの模様

ウタサ祭りはその『ロストカムイ』のチームが運営を担っている。中心を担う床州生(とこ・しゅうせい)さんは阿寒湖アイヌコタンのエンターテイメントの多くをプロデュースする人物であり、州生さんは「ウタサ祭りでの役割? ま、何でもやる雑用だね(笑)。本当に全部やる」と笑い、こう続ける。

「アーティストを選ぶところから俺とフッキ(郷右近富貴子さん)は入っていて、自分でも踊るし、プロデュースもやれば、クリエイティブもやる。そういう立場だね」

お話をうかがった床州生さん

州生さんと富貴子さんの中には「いつかフェスみたいなものをやりたい」という思いがあったという。

「道東(北海道東部)の音楽好きが集まりつつ、アイヌ文化を紹介するフェスをやりたかったんですよ。アーティストが来てくれるのはいい。ただ、同じ目線でやれる人とやろう。そういうことは最初から話していました」

『ロストカムイ』もまた、「イコ」という場でさまざまなクリエイターたちが「互いに交わる」作品であった。音楽監督を務めるKUNIYUKI TAKAHASHIはアイヌ民族の伝承歌をベースに新たな阿寒の音楽を創造し、3DCGによって映像化されるアイヌ民族の神話世界の中でコンテンポラリーダンサーが踊る――。『ロストカムイ』で積み重ねてきたそうした試みの延長上でウタサ祭りはスタートしたのだ。

次々に披露されるコラボレーション

アイヌ民族伝統の儀式・カムイノミ(神々への祈り)から祭りの本編がはじまった

2021年に続きオンライン配信となった2022年のウタサ祭りにも豪華な顔ぶれが揃った。GEZAN、コムアイ、GOMA、U-zhaan、川上ミネ、Kuniyuki Takahashiといったゲストアーティストに加え、アイヌコタンの唄い手や踊り手たち、海外でも精力的な活動を展開するOKIといったアイヌ文化の担い手たちが一堂に会した。メインビジュアルは出演者のひとりであるGOMAの絵と、阿寒湖アイヌコタンのアイヌ文化伝承者である床みどりの刺繍を重ね合わせたもの。そのようにあらゆる場面で「互いに交わる」ことが意識されている。

12日のトークセッションに続き、13日の祭り本編はカムイ(神々)に感謝し、平和な暮らしを願うカムイノミの儀式からはじまった。オープニングに続き、川上ミネ×Kapiw&Apappo×平良智子のステージでは、版画家・絵本作家の手島圭三郎の版画を投影しながらアイヌ民族の口承文芸であるユーカラの物語が描き出されていく。

祭りのメインビジュアルになった、GOMAの原画

コムアイはネウサパの3人と会話を交わしながら、伝承歌の世界へと深く潜り込み、GOMAはディジュリドゥ―に似たレックタル(イオンカとも)と呼ばれるアイヌ民族の伝統楽器を演奏。U-zhaanは6人のウコウク(輪唱)とタブラのアンサンブルによって新たな音の世界を切り開いていく。

KUNIYUKI TAKAHASHIはいくつもの生楽器を重ね合わせながら、『ロストカムイ』にも出演しているコンテンポラリーダンサーを交えた大掛かりなステージを披露。ラストを飾るのは、現在の日本でもっとも注目を集めるロックバンドのひとつといえるGEZAN。彼らは全国ツアーの最後、札幌公演を終えてそのまま阿寒湖アイヌコタンへ駆けつけた。GEZANのエモーショナルな演奏の上で4人の歌い手によるウポポが、まるで遥か昔からそうであったように踊りと共に混ざり合う。エンディングは出演者全員による輪踊り。多幸感あふれるラストに胸が熱くなる。

アイヌ民族の舞踊に加わるコムアイ
U-zhaanはタブラと輪唱とのアンサンブルを奏でた
GOMAによるレックタルの演奏
GEZAN。圧巻のパフォーマンス

阿寒湖のクリエイティビティの最前線

祭り当日に至るまでにアイヌ民族側と和人側はリモート会議を繰り返し、音声データをやりとりしながら構成を練り上げたという。前日には入念なリハーサルを繰り返すなど、時間をかけて一つひとつのセットをつくり上げたわけだ。一日限りの異文化交流的なセッションではない、アイヌ文化の担い手たちとアーティストによる新たな音の創造。ウタサ祭りはそうした実験の場でもあったのだ。

州生さんはこう話す。

「阿寒でも思春期の子どもたちってアイヌ文化に触れたがらないことが多いんですよ。俺もそうだったけど、なんか照れくさいんだろうね。でも、ウタサ祭りや『ロストカムイ』を観ると、そういう照れくささがなくなるんだと思う。あと、フチ(尊敬されている女性の年長者)たちがGEZANのライヴにどう反応するのか心配だったので、リハのあとに聞いたんですよ。『びっくりしなかった?』って。そうしたら『あたし、ああいうの大好きなの』って(笑)。参加メンバーはみんなやりきった感があると思う」

阿寒湖アイヌコタンでは新たな文化と未来が生まれつつある。ウタサ祭りに出演した3人組バンド、タデクイは3人とも高校生。OKIの息子であるmanaw(ドラムス)も大活躍した。また、踊り手の中には若者や子どもたちも数多く含まれていて、若い世代に文化が継承されていることも実感できた。

アイヌ民族伝統の輪踊りも披露された
アーティストとともに、子どもたちや若者も演者として参加
OKIをはじめアイヌコタンの唄い手や踊り手たちが、祭りを通してアイヌの文化を発信した

ただし、阿寒湖アイヌの人々はアイヌ文化を継承するだけではなく、阿寒湖アイヌコタンで生活を営みはじめた1959(昭和34)年から変わらず、常にクリエイトし、現在進行形のアイヌ文化のあり方を模索し続けてきた。ウタサ祭りはそうした阿寒湖アイヌコタンのクリエイティビィティの最前線を示すものでもあるのだ。

 

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第1回|大自然とアイヌ文化に出合う夏 前編 後編
第2回|秋は祭りや儀式で阿寒湖をより深く体験 前編 中編 後編
第3回|冬の阿寒湖でアイヌ文化と豊かな風土にふれる 前編 後編

text=Hajime Oishi photo=Yuka Suzuki

 

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