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アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅【前編】

2021.2.7 PR
アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅【前編】

阿寒湖を訪れる楽しみは、阿寒カルデラの中心に位置する雄大な自然、地域性豊かな食、北海道でも有数の温泉地としての顔などさまざまあるが、今回は阿寒湖アイヌコタンの工芸を中心としたクリエーションに注目したい。

阿寒湖にはアイヌの人々の工芸を扱うショップ、その歴史に触れられるシアターなどの施設が立ち並び、アイヌの人々が暮らすアイヌコタンがある。阿寒湖の工芸や舞踊とは、アイヌの人々の生活の中で育まれ、生み出されてきたものなのである。

〈旅をした人〉

写真
横田裕市(よこた・ゆういち)
写真家。福島県郡山生まれ。東京都在住。国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外で活動の幅を広げている。本記事では、写真を担当。直近の展示に、横田裕市写真展「ブータン 穏やかなる龍の国」(2021年1月5日〜1月20日/新宿アイデムフォトギャラリー「シリウス」)がある

文章
加藤孝司(かとう・たかし)

ライター、写真好き、猫好き。デザインやアート、クラフトなどを横断的に執筆。写真展に「Landscapes seen by someone」(テラススクエア,2020)。休日は愛猫のジャスパーと過ごすことを楽しみとしている

暮らしの中に息づいてきた工芸

アイヌの人々は、動物や植物など、人間に恵みを与えてくれるものだけでなく、天候、火や水など人間の力の及ばないものから人が使う道具まで、地上のすべてのものに魂が宿り、それをカムイ(神)として敬ってきた。アイヌの人々はカムイのことを神と言ってはいるが、それは人間が尊び敬う神とは異なり、人間と対等な存在であり、カムイとの関係性がアイヌの人々の独自の自然観をつくってきた。

アイヌの人々が暮らす阿寒湖は、商いを営む阿寒湖アイヌコタンでも体感できるように、アイヌ文化と深い関わりをもっている。アイヌコタンのショップでは木彫作品やアイヌ柄の刺繍が施された布といった、美しい工芸品や土産物に出合うことができる。

そのようなアイヌの人々が森や山で採集し、カムイの魂が宿った木材や道具を使ってつくるものとは、どのようなものなのだろうか? 今回の旅では、そんな阿寒湖エリアのつくり手たちに話を伺うことができた。

「伝統という基礎があれば絶対にブレない」

秋辺デボ(あきべ・でぼ)
木彫作家。阿寒湖温泉生まれ。13歳のときに村人たちが演じるユーカラ演劇「アイヌラックル伝」に触れ感激し、自身もアイヌとして生きることを決意。高校卒業後に民族文化の伝承に尽力し、阿寒湖アイヌコタン創設の中心人物であった父・秋辺今吉エカシに弟子入りをする。阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」プロデューサー、「イオマンテの火まつり」などの演出、歌手、俳優など多彩な活動を展開。昨年公開された映画「アイヌモシㇼ」では準主役を務め話題になった

まずは2020年11月にリニューアルオープンした、アイヌ文化伝承創造館「オンネチセ」で、木彫家の秋辺デボさんに話を聞いた。

阿寒湖アイヌコタンにある「オンネチセ」(大きな家、の意味)は、もともと阿寒アイヌ舞踊を上映する劇場として開館。2012年の阿寒湖アイヌシアター「イコㇿオープンにともない、アイヌコタンの新旧の作家を中心とした作品展示をするアイヌアートミュージアムとしてリニューアルオープンした。

阿寒湖で暮らすアイヌの人々が代々受け継いできたルウンべやチンジリといった衣服や装飾品、美しい装飾が施されたイクパスイという神事に使われる道具、イタなどの工芸品、交易を通じて手に入れた宝石などでつくった珍しい宝飾品などを見ることができる。

秋辺デボさんは、阿寒湖温泉生まれの木彫作家で、舞台演劇の演出や俳優として知られるオンネチセの中心的人物である。

「阿寒湖温泉アイヌは私たちで2世代目。リニューアルしたオンネチセでは、アイヌコタンで活動する新旧作家たちがつくったものを展示しています。舞台も新装して歌や踊りも上演していく計画です」

リニューアルしたオンネチセでは、アイヌ工芸の展示や木彫り体験に加えて舞台も新しくつくられた。ここでは伝統舞踊や「カムイノミ」といったアイヌの人々にとって大切な儀式も行われる

昨年上映され話題になった映画「アイヌモシㇼでは、村で育てた子熊を神々の国に送る熊送りの儀式「イオマンテ」を行うまでを実名で演じた。

「熊もフクロウも神さまがくれたカムイ。神の国からそれぞれの役目をもってこの地上に降ろされてきたと考えられているんです。だから丁寧にもてなして、あの世に送り返す。そしてカムイに地上はいい場所だったと伝えてもらい、また地上に遊びにきてもらう。実際のイオマンテは40年以上行われていないけど、10年前には実際にイオマンテを行うことを目的に店の裏で子熊のチビちゃんを飼っていました。でも家族に反対されたりいろんなことがあって、カムイに呼ばれていない、これは私がやるべきことじゃないと思って止めました」

ルウンべやチンジリといった伝統的な衣装などが展示されている、オンネチセ内の風景。阿寒湖アイヌの人々の伝統的な暮らしを垣間見ることができる

デボさんは新生オンネチセのディレクターを務めた。

「伝統という基礎があればどんなことをしても絶対にブレない。でも私たちがつくっているものは単なる「伝統」とはちょっと違うんです。伝統は踏まえるけど伝統には縛られたくない。だって親父たちと同じようにつくっても、自分の表現にした途端、絶対に違うものになるはずだから。伝統のものをつくるときは「祈り」、それ以外のものは「夢」です。それと、この村のおもしろいところは、つくり手たちがお互い負けたくない、真似をしないと競争しているところ。新しいオンネチセは古いものだけじゃなく、そういうものも見ることができる場所にしたかったし、本当にいいものはアイヌコタンのそれぞれの店にあるから宝探し気分で訪れてみてほしいと思っています」

アイヌ文化伝承創造館「オンネチセ」
住所|北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4-7-19
Tel|0154-67-2727(阿寒アイヌ工芸協同組合)
営業時間|土・日曜、祝日の9:00~17:00
入場料|中学生以上500円、小学生250円、幼児無料

 

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アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅
・前編
・中編
・後編

text: Takashi Kato photo: Yuichi Yokota

 

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