アイヌ工芸作家のクラフトが渋谷パルコにやってくる!
阿寒湖の“カムイ”と共に生きる作家の特別展
北海道の東部・阿寒湖温泉で暮らすアイヌの人々は、豊かな自然と関わりながらクラフトを生み出してきた。そこには自然や身の回りのものには魂が宿り、カムイ(神)と敬ってきたアイヌの人々の暮らしの知恵と感性が詰まっている。
そんな阿寒湖アイヌコタン(集落)の作家たちがつくるクラフトが渋谷PARCOのDiscover Japan Lab.に集結。「AKAN AINU ARTS & CRAFTS→NEXT× Discover Japan 特別展 2023」として2023年2月14日(火)〜3月13日(月)にかけて開催される。
刺繍や木彫りなどの伝統的なものからシルバージュエリーや有田焼とのコラボ皿など革新的なものまで、本展で展示販売される多種多様なアイテムとそのつくり手を紹介しよう。
※作家が一点ずつ制作する作品は手づくりならではの個体差がございます。掲載写真はイメージのため詳細は店頭でご覧ください。
つくり手や文化との繋がりを感じられる
下倉絵美さんの「ガマのコースター」
貴重な天然の素材「シキナ(ガマ)」でつくられる、暮らしや儀礼で使われてきた民具「チタラペ(ゴザ)」を、日常使いしやすいコースターにアレンジ。
乾燥させたガマを、手製の編み機を用いて、シナの木から作った糸で一本一本編んでつくる。要所に着色した材を織り交ぜ、生活を彩る感性豊かで楽しい絵柄に仕立てた。クッション性と保温性のあるガマは、うつわをのせるコースターに最適な素材。暮らしに温かみと心のうるおいをもたらしてくれる。
「一枚のコースターから、阿寒湖温泉やガマが自生している水辺、アイヌ工芸のつくり手や文化との繋がりを感じてもらえたら嬉しいです」と絵美さん。
手をかけた素材をいつくしみながら、一点一点、思いを込めてつくり上げる。
アイヌ刺繍の文化を継承する
小林慶子さんの「タペストリー」
慶子さんの作品でまず目を引くのが、その独特な色使い。たくましい生命力を感じさせる赤に、阿寒湖周辺の美しい清流を想起させるブルーが特に印象的だ。ルウンペという置布を縫い留めてその上から刺繍をする技法を用いるなど、その刺繍は、多彩な技術をもつ唯一無二のつくり手ならでは。
慶子さんは、「タペストリーは若い方でも買いやすい作品。そこからアイヌ文化に親しんでもらえたらという思いでつくりはじめました」と言う。
長年つくり続けてきた感性を信じて生み出される、阿寒湖の自然をモチーフにしたおおらかで繊細な作品は、インテリアに取り入れることで空間に心地よいリズムをもたらしてくれるだろう。
アイヌ伝統文様×有田焼
コラボレーション皿
阿寒湖アイヌアーティストと佐賀県有田町の有田焼窯元との協働による商品開発プロジェクトから生まれたプロダクト。400年前に九州・有田に生まれ、その匠の技と異文化との交流により世界に知れ渡った歴史をもつ有田焼。その精神性とともにアイヌの人々に受け継がれてきたアイヌ伝統文様。両者の初のコラボレーションが実現した。
この皿は斉藤政輝さんらの木彫作家がアイヌ文様を彫った原型を基に型を制作。焼き上がったものに釉薬で色付けをし、再度焼成してつくっている。伝統的な「イタ」に倣い彫り、有田焼の皿に見事に再現された美しいウロコ彫りにも注目だ。
磁器の素地の上に呉須と呼ばれる顔料で、アイヌ文様を青一色で絵付けした染付による皿。見事なアイヌ文様のデザインは、アイヌ工芸作家でアイヌ歌謡の歌い手である郷右近富貴子さんと刺繍作家の鰹屋エリカさんが手掛けている。
北欧の伝統道具を独自アレンジ
瀧口健吾さんの 「ククサ&ストラップ」
木彫作家であり阿寒湖アイヌコタンに「イチンゲの店」を構える健吾さんは、ラップランドのサーミ族に伝わる水飲みの道具「ククサ」にインスピレーションを受け、カップを製作。
素材にはアイヌ民族の丸木舟にも用いられる、水に強いカツラの木を使用している。カップの側面や取っ手にアイヌ文様を施し最後は蜜蝋で仕上げている。「アウトドアシーンで使ったり、長く愛用してもらえたら嬉しいです」と健吾さんは言う。
健吾さんの奥さまがつくる、希少な素材・オヒョウニレで手編みをしたストラップとセットで販売される。
アイヌの伝統的な儀式にも使われる
床州生さんの「漆のイタ」
アイヌ民族の暮らしにおいて、木材に彫刻を施した皿や盆は「ニマ」や「イタ」と呼ばれ、北海道では生活をつかさどる重要なウッド・クラフトとして昔からつくられてきた。
表面は、アイヌ文化ともかかわりの深い「漆」を施して仕上げてある。漆器は本州との交易によってもたらされ、アイヌの人々の伝統的な儀式にも使われており、その所縁にちなんで用いられた。
彫金とアイヌ文化を織り交ぜた
下倉洋之さんの「Ague ジュエリー」
彫金作家としてアイヌ文化を織り交ぜた独自の世界観を築く下倉洋之さん。地域の人々からは“Ague(アゲ)さん”として親しまれ、喫茶店の店主として世代をつなぐ役割も担っている。
Agueさんは「はじめて阿寒湖アイヌコタンでアイヌの方々の着物を見たとき、あんなに美しく華やかなのにつくり手のエゴが感じられず、身に纏う本人のものになっていることに衝撃を受けました。自分のジュエリーの価値も、選んで使ってくれる人の思いに委ねたいと思っています」と語る。
アイヌの人々にとって、羆(ひぐま)は山のカムイ(神)として神聖に扱われてきた。アイヌ民族の暮らしの中では、イオマンテ(熊送り)という儀礼が行われてきた歴史があり、神に近くも親密な存在だ。毛の一本一本が再現された「熊の手リング」は、Agueを代表するアイテムであり、力強さと繊細さとともに、アイヌ民族の人々と自然とのかかわり方を教えてくれる。
ペンダントは自然からインスピレーションを得た伝統的なアイヌ文様をデザイン。自然からのエネルギーに満ちたAgueさんの作品には、装飾的な美しさはもちろん、身につける人の内側に作用するお守りのようなものになって欲しいという願いも込められている。
『ゴールデンカムイ』でお馴染みのアイテムも
平良秀晴さんの
「コロポックル」と「マキリ」
日々アイヌ文化を自身の中に取り入れ技術を蓄積しながらも、楽しく彫ることをモットーに制作に勤しむ、木彫作家・平良秀晴さん。阿寒湖アイヌコタンは、のんびりとした雰囲気と誰をも受け入れる懐の広さがあると平良さんは言う。この居心地の良さは、自然とともに暮らすというベースがあるからだろう。
動物や自然に神を見出し、ともに生きる。アイヌ文化を自然の中のひとつと考えている平良さんは、この美しい文化を、作品を通して広めていきたいと考えている。
「コロポックル」とはアイヌの民話に登場する小人の妖精で、「フキの葉っぱの下にいる」という意味。アイヌの人々が生活の困窮に苦しんでいるときに、木の実や食べ物を運んできてくれたという伝説から、「幸運を運ぶ小人」として阿寒湖で土産物としてつくられるようになった縁起物だ。素材にはご長寿や縁起のよい木として知られる槐(エンジュ)を使用し、白と茶色木目を生かしながら彫刻している。ペアのコロポックルは、見る人によって、夫婦とも、おじいちゃんと孫とも。
本来動物の解体や魚を捌くとき、裁縫、そして男性が女性にプロポーズをする際の贈り物としてなど、多目的に使われていたアイヌ文様が彫刻された小刀・マキリ。
平良さんの「マキリ」は美しく細やかなウロコ彫りと、植物の蔦をモチーフにしたデザインが特徴だ。アートとしてだけではなく手に取ったときの心地よさも兼ね備えた用の美に触れてみてはいかがだろう。
読了ライン
実際にアイヌ作家のプロダクトを体感しよう!
阿寒湖アイヌコタンの作家たちが手掛けるさまざまなアイヌ・クラフトが期間限定で渋谷パルコ・Discover Japan Lab.の店頭に集結。通常は現地でしか手に入らない商品も多く並ぶため、ぜひこの機会に店頭でチェックしよう。
AKAN AINU ARTS & CRAFTS→NEXT × Discover Japan 特別展 2023
会期|2023年2月14日(火)~3月13日(月)
場所|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
※最新情報は公式Instagram(@discoverjapan_lab)などで随時紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
※作家が一点ずつ制作する作品は手づくりならではの個体差がございます。掲載写真はイメージのため詳細は店頭でご覧ください。
text:Takashi Kato, Discover Japan photo: Kazuya Hayashi