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「Moving Inn|ムービングイン」移動するホテルで北海道の大地をひとり占め!【後編】

2021.6.11
「Moving Inn|ムービングイン」移動するホテルで北海道の大地をひとり占め!【後編】
上質なワーケーションのお供になる、こだわりのコーヒーとスピーカーから流れるお気に入りの歌。オンとオフの境目が徐々になくなっていく

広大な十勝平野、太平洋に沈む夕日、西にそびえる日高山脈……北海道は車で旅をするにふさわしい場所。美しい風景を追いかけながら、仕事も遊びも満喫したいところ。今回は、キャンピングカーで巡る北海道の魅力を3つの記事でご紹介します。

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ワーケーションの先で
十勝の人と風景が交錯する

十勝では、あらゆるものが新鮮で美味しい。寄せては返す波の音を聞きながら、近くでは焚火がパチパチと爆ぜる。至福の時間

西日が眩しい光を放ち、空が柔らかなオレンジ色に染まりはじめた。あと1時間もすれば、日高山脈に陽が沈み満点の星空が顔を出す頃だ。十勝といえば、見渡す限りの平原に山々が屹立する景色を想像しがちだが、今夜の宿泊先は太平洋を一望できる大樹町の名もなき海岸。どこまでもまっすぐ続く道をひた走り、防風林の合間を抜けると、ないだ海がどこまでも美しく眼下に広がる光景にたどり着いた。

どこからか漂着した流木を薪にして火をおこす。テーブルに広げたのは、日中キャンピングカーで駆け回って集めた十勝の食の恵み。HOTEL NUPKAで配布されていた「十勝チーズの道」マップによると十勝には、30カ所近くのチーズ工房があるという。ほどよい酸味を感じるtoiの白いパンに「しあわせチーズ工房」のラクレットチーズをのせて、軽くオリーブオイルに浸す。HOTEL NUPKAの旅のはじまりのビールで晩酌だ。十勝は、美味しいものに事欠かない。

「僕の作品は、先人の積み重ねた思想の一つひとつに影響されているのだと思います」とはpageの高野さんの言葉だ。北海道の木彫り熊の歴史は道南の八雲町で、尾張徳川家最後の当主・徳川義親が、農閑期の副業として農民らに木彫り熊の製作を勧めたことに端を発する。大正13年には八雲農村美術工芸品評会が催され、以後、国内で高く評価されていく。これは洋画・版画家の山本鼎が、「農村に美術の心を」という信念の下に信州上田で興した農民美術運動の影響を受けているのかもしれない。くしくもそれは、「日常の暮らしにこそ美は宿る」と、柳宗悦らによって提唱された「民藝運動」の時期とも重なっている。宮沢賢治が工業化する社会に警鐘を鳴らし、『農民芸術概論』を寄稿したのもまさにこの頃だった。

十勝の名もなき海岸線をゆく。風は強かったが、青空にたなびく雲と深い海のコントラストが美しかった

高野さんは製作をするときに、「身体が勝手に動いていく感じ」に身を任せるのだという。「見えない力に作用されている」とでもいえるだろうか。その力も、高野さん個人に属するものではなく、先人たちの歴史の礎の上に成り立っている。高野さんの思想と作品の奥深さにあらためて酔いしれた。

北海道の歴史は、開拓の歴史でもある。1881年、現在の帯広市に入植した依田勉三は、「十勝開拓の父」とも呼ばれる人物。後に「晩成社」を結成して十勝内陸部の開墾を推し進めた。十勝には、北方の警備と開拓のために編成された屯田兵が入植せず、晩成社のような本州からの民間の開拓移民によって土地が開かれた。開拓は極めて過酷で、依田もたび重なる蝗害や冷害によって帯広開墾を一時断念。その後、太平洋側の当縁郡当縁村オイカマナイ(現在の大樹町晩成)に居を移し、牧畜業を開始。畜産やバター製造などに取り組んでいった。

ちなみに、北海道を代表する製菓メーカー「六花亭」の銘菓「マルセイバターサンド」の名は晩成社がはじめて商品化したバターの商標にちなんだもの。晩成社の「成」を丸で囲んで「マルセイ」とし、いまもその精神を引き継いでいる。  

空の高いほうからだんだんと夜の帳が降りていく晩成の夕景。ハイエースで追い求めた「最高の景色」がそこにはあった

また、開拓の時代、馬は人間の営みにおいて非常に重要な役割を担ってきた。手つかずの原生林を切り開き、農耕馬として土地を耕し、その力試しとして丸太を引いて競争をさせていたことが現在の「ばんえい競馬」のルーツとなっている。

「私がまだ小さかった頃は、馬がいっぱいいた」

HOTEL NUPKA総支配人の坂口さんはそう話す。いまや農業も機械化が進み、馬の仕事はトラクターに取って代わられたが、坂口さんは馬を愛する仲間らとともに「馬車BAR」プロジェクトを発足。HOTEL NUPKAを発着点に、夜の帯広の街をばん馬が引く馬車でめぐるプランを立ち上げた。かつては当たり前だった「馬のいる景色」を帯広に復活させたのだ。

いま、目の前に広がる景色とそこで得られる豊かな自然の恵みは、当然のことながら、一朝一夕で出来上がったものではない。音更のベーカリーtoiでは、パンの原料である小麦粉や副材料のほとんどに十勝で採れる有機・無農薬なものが使われている。原料が採れる土地も、開拓の歴史の中で生まれたものだ。そこに生産者がいて、生産者の想いが幾層にも重なっている。そういうものを、私たちはいただいて生きていることをあらためて知る。

十勝の「最高の景色」を車でめぐり、仕事をしながら旅を続けてきた。雪を頂く日高の山。窓から見える種まき前の畑。開拓当時の面影を残す晩成の海。自然の景色と、出会った人々が交差し、暮らしが見える。車だからこそ見つけられた、新たな旅のかたちだ。

Workation Data
料金|33万円(30日間)※食事なし
定員|2名
オフィス設備|ポケットWi-Fi、バッテリー、コンセント、テーブル、椅子 ※~6月30日までの限定プラン(予約受付~5月30日)

Moving Inn
車種|HIACE LX(2.7ℓガソリン/6速AT 4WD) ※撮影利用車
料金|1泊食事なし3万8500円~
定員|2名
装備|カーナビ(TV、ラジオ、CD、DVD、Bluetooth)、ETC
設備|サイドオーニング、ルーフキャリア、サブバッテリー(走行充電・外部充電)、100V電源、FFヒーター、シンク、冷蔵庫など
備品|アルコール消毒液、虫よけスプレー、折り畳み傘、懐中電灯、救急箱、スリッパ、シャンプーセット
無料レンタル|LEDランタン、折りたたみ椅子、折りたたみテーブル、焚火台グリル、ガスコンロ、調理器具など
有料レンタル|テント、寝袋など
※その他2~4名用の車種あり。要問合せ
※事前決済のみ
問|Moving Inn 帯広事務所
Tel|0155-67-6257

text: Sai Hasegawa photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2021年6月号「ビールとアウトドア」


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