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発酵の主役は人間ではなく微生物
あれも発酵、これも発酵⑤

2019.12.4
発酵の主役は人間ではなく微生物<br>あれも発酵、これも発酵⑤

発酵とは、目には見えない微生物が有機物を分解し、人間にとって有用な物質をつくり出すこと。日本人は、古代から発酵を生活に取り入れ、その恩恵にあずかってきた。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに発酵の魅力を教えてもらいました。全5回の最終回の今回は、人類の未来を照らす「微生物」の無限の可能性を探る。

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小倉ヒラクさん
発酵デザイナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT)

Q.微生物って何モノ?

A.肉眼では見えない小さな生物の総称です。

細菌、菌類(カビ、酵母、キノコなど)、ウイルス、微細藻類、原生動物などが含まれる。ほどんどの微生物は、大きさが1㎜以下。人間に役立つ微生物が働けば“発酵”、有害な微生物が働けば“腐敗”となる。

〈微生物のカビが目に見えるのはなぜ?

目に見えない小さな細胞が繁殖して集合体となっているため。つまり目には見えなくてもカビが生えている可能性もある。

Q.学問領域でいうと?

A.大きく分けると生物学の一種です。

生物学のうちで微生物学は、研究の対象によりウイルス学、細菌学、菌類学などに分けられるほか、病原微生物学、土壌微生物学、発酵微生物学などの分野に分けられる。「まず生物学か生物工学かという入口がありますが、僕なりにざっくり説明すると、発酵学とは人間に役に立つ有用微生物のうち、特に食べられるものの研究です。それが狭義の発酵学で、最近では、土壌細菌学や生命工学、医療、環境工学なども含む場合もあります」

動物学:動物を研究対象とする。動物形態学、動物生理学などに分類される
植物学:植物を研究対象とする。植物分類学、植物形態学などに分類される
微生物学:微生物を対象とし、形態、生理、遺伝、生態などを研究分野とする
醸造学:醸造技術に関する分野のほか、麹菌や酵母など醸造にかかわる微生物を研究する醸造微生物学、微生物の力を活用した醸造技術によって環境問題に取り組む醸造環境学などがある

Q.発酵って何だ?

A.微生物が人間に役に立つ働きをしてくれること。

微生物が人間に有用な働きをする、言い換えれば微生物の力によって食品が美味しくなれば“発酵”。反対に微生物が人間に有害な働きをする、言い換えれば微生物の力によって食品が腐れば“腐敗”。「生命工学的に定義すれば、発酵は生物界における普遍的な化学現象。でもその結果生まれたものが美味しいかどうかという視点で考えると、社会的な考察が必要になる。つまり発酵は“科学と哲学の交差点”なんです」

Q.発酵には無限の可能性があるってホント?

A.約8万株の微生物遺伝資源の整備が進んでいる。

企業などによる研究開発や産業利用のための微生物遺伝資源(微生物及びその遺伝子)の収集などを行う製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)では、これまでに約8万株の微生物を保存し、提供している。その数は世界でも約7万7064(2011年時点)と世界でもトップクラス。微生物を活用した産業のさらなる発展が期待されている。

A.微生物が貢献する製品の市場規模は6兆円。

微生物遺伝資源の利用範囲は医薬品(発酵生産物、バイオ医薬など)、化学(工業原料、化粧品、香料など)、農業(キノコ、微生物資材など)、食品(酒類、調味料、発酵食品、アミノ酸、ビタミンなど)、畜水産、繊維、環境などに広がっており、その市場規模は約6兆円。そのうち食品が約4.8兆円を占めている。

Discover Japan 11月号「すごいぜ!発酵」

文:成田美友、編集部 写真=山平敦史、岡崎健志
出典=小泉武夫『発酵』(岩波新書)、経済産業省「新たな知的基盤整備計画及び具体な利用促進に関する検討会‐配布資料」、バイオ産業創造基礎調査報告書(平成22年度版)、日経BP2012版

 

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