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デザインスタジオ「WOW」がなぜ、八ヶ岳にキャンプ場を?

2021.6.14
デザインスタジオ「WOW」がなぜ、八ヶ岳にキャンプ場を?
八ヶ岳山麓のアクセス至便な場所に設けられた、ジムと呼ばれる施設。東京、仙台、ロンドン、サンフランシスコに続く、WOWの5つ目の拠点となり得るだろうか?

最先端テクノロジーを操り、未知の世界を創造するビジュアルデザインスタジオ「WOW(ワウ)」が、長野・八ヶ岳に生んだ森の中の空間で、計画の首謀者にアウトドアの魅力と効能をたずねました。

於保 浩介(おほ・こうすけ)
WOWのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、チーフクリエイティブディレクター。約20年のキャンプ歴を有する、「WOW Mountain Gym YATSUGATAKE Project」の出案者

「開墾と伐倒はクリエイティブ」

森の開墾に伴って切り出した木々に寄り添う於保さんの姿に都会の匂いは薄い。「ここで暮らしていけば、僕もいつかは木こりになれるかも」

アウトドアの幸福を
分け与えられたら

横幅7mの開口部を設けるため、室内には極太の梁をめぐらせた。東西の天井裏に就寝スペース。風呂・トイレも完備。家具類の素材は基本的に木と鉄と革のみ

「目に見えるものすべてがデザインの対象」を標榜するビジュアルデザインスタジオ「WOW」。チーフクリエイティブディレクターの於保浩介さんは、5年前に「WOW Mountain Gym YATSUGATAKE Project」を立ち上げた。主目的は社員の保養所づくり。実はこれ、大義名分らしい。

「20年近くキャンプをしてきましたが、次第にキャンプ場が混みはじめて不自由を感じるようになりました。それなら自分たちのキャンプ場をつくろうという発想と、WOWの保養所計画を一体化させました。別荘ではなく、あくまで自然の中に身を置くキャンプ場にしたかった。なぜなら、クリエイティブに刺激を与えてくれると僕が感じたアウトドア体験の幸福を社員にも分け与えられたら、と思ったからです」

計画の象徴たる建物が施工したのは2019年3月。「それよりも」と於保さんは語り出した。

「いまは開けているこの場所、元は手つかずの森で、僕らが木を1本ずつ切り倒しながら開墾していったんです。多摩美時代の友人で福井に住む木こりがいて、彼の協力を仰ぎながら」

クリエイティブディレクターの口から飛び出した「開墾」と「木こり」に聴覚のすべてが奪われた。

「僕で40本くらい。ウチのスタッフも伐倒しました。人生で木を切るなんて経験、まずないじゃないですか。あれは誰にとっても貴重な瞬間だったと思います。もちろん無暗に切り拓くのではなく、この森に建物が建つ最終形をイメージしながら、切る木と残す木を選びつつ。リアル空間をつくり上げていくのはめちゃくちゃおもしろかったですね。まさに開墾と伐倒はクリエイティブです」。

イメージしたのは
外を感じられるタープ

玄関には社名の頭文字

計画の象徴と称した建物も、キャンプ好きの於保さんらしい創造力に満ちたデザインとなった。それが建つのは、八ヶ岳山麓の標高1300mに位置する1500坪の土地のほぼ中心。最大の特徴は、東西線上に横たわる14・5×4・5mの細長い外観の中央を貫く広大な開口部だ。スライド式のドアが備わっているものの、滞在中はほぼ開け放ち、森に吹く風を通すという。

「イメージしたのは、巨大なタープ」

タープとは、天井に相当する布を支柱とロープで張り、日差しや雨を避けるアウトドアの定番ツールだ。テントが外界を遮る寝室なら、タープは自然の中のリビングと呼んでいいだろう。

「テーマは、常に外を感じられること。それだけで仕事場とは違う時間が流れる。自然に身を置くことはクリエイティブにもよい影響を与えてくれると思います」

言葉通りゆったり語る於保浩介さんは、もはやこの風景に欠かせない山の人に見えた。

自然のものに触れること
野生の感覚を生かすこと

地下水を利用するキッチンには、於保さんセレクトのアウトドア用品が揃う

違う時間が流れるリアル空間の構築に要したアナログ作業は、デジタルを軸に表現世界を創造するWOWに、どんなつながりをもたらすのだろう。

「最も大事なのは振り幅です。それが狭いと、仕事も人生も広がっていかない。僕らは主に東京で毎日デジタルに向き合っていますが、それがいかに最先端テクノロジーであっても、触れる場所も対象も変わらなければ渇望というものが失われていきます。対してアウトドアという僕にとってオフの場所には、プリミティブな経験が満ちています。いまも木が擦れている音が聞こえるでしょう」

言われて音の鳴るほうを見上げたら、森の高いところで木々が揺れていた。

「昨夜も獣たちが叫ぶ声が響いていましたよ。そういう自然のものに触れること、または野生の感覚を生かすことは、特にデジタル領域で判断に迫られる僕らの仕事にとって、今後ますます重要になると思います」

WOW Mountain Gymの母屋は建ち、すでに有効的に機能しているが、ジムに完成はないという。サウナ小屋をつくりたいし、新たな木を植えたいし、コロナが収束したらフェスも、“キャンプ接待”も実施したいそうだ。

「ここにいて風に吹かれていると、都会では出にくい青臭い話ができたりしてね。場所の力を実感しますよ」。

『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』
嵐のラストライブ配信コンサート『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』のAR&映像演出を担当。活動21年間のメンバーの思いをくむ仕事は、都会と自然との振り幅があってこそ満足のいくクリエイティブになったという。

阿寒ユーカラ『ロストカムイ』
阿寒湖に住むアイヌの人々とつくり上げた、アイヌシアター「イコㇿ」の新演目。彼らの自然観に驚愕しつつ、八ヶ岳での経験で共感できた部分が多かったと於保さんは振り返る。WOWは舞台映像の演出・制作を担当。

text: Tonao Tamura photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2021年6月号「ビールとアウトドア」


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