チームラボのメンバーとしても注目!
建築家・浜田晶則の“デジタル”を潜ませる建築術【前編】
若手建築家としてジャンル横断的な活動を展開し、“アート集団”チームラボのメンバーとしてアート分野の仕事でも注目を集める建築家の浜田晶則さん。地域性や建築の持続可能性を支えるシステムを考えながら、プロジェクトを手掛ける、浜田さんの仕事術をひも解きます。
浜田 晶則(はまだ・あきのり)
建築家。1984年、富山県生まれ。2010年、首都大学東京卒業。2012年、東京大学大学院修士課程修了。2012年、studio_01を設立。2014年Aki Hamada Architectsを設立。同年よりteamLab Architectsのパートナーを務める。2014年〜2016年、日本大学非常勤講師。主な作品として「綾瀬の基板工場」、「魚津埋没林博物館KININAL」ほか
デジタル技術で建築の可能性を広げる
「Digital Tea House」は、浜田さんが大学院時代に携わった日米の学生による共同ワークショップ。「naminoma」と題された作品は、ベニヤ板を素材に、デジタルをツールとして用いることをテーマにつくった現代版茶室。建築誌の表紙に掲載されるなど国内外で注目を集めた。
茶碗がモチーフの形状は、ベニヤに溝を彫り、曲げやすくすることでなめらかな曲面を実現。溝の位置や深さの設計図はコンピュータでシミュレーション後に作成、部材はプレカット工場で制作した。
「コンピューテーショナルデザインとデジタルファブリケーションを用いることで複雑な形状も短期間で設計・施工できることを経験し、枠にとらわれない建築の可能性が広がると確信しました」
この取り組みを契機に、建築とデジタルの融合を積極的に進めていった浜田さんは、メディアアート、デジタルアートに関心をもつように。そして、大学院2年のとき、チームラボ代表の猪子寿之さんと建築家の西沢立衛さんの対談をトウキョウ建築コレクションで企画。そこでの猪子さんとの出会いが、浜田さんの運命を変えるターニングポイントになった。
「チームラボで空間にまつわるプロジェクトが増えてきた時期で、建築ができる人を紹介してほしいと猪子に言われ、『僕できますよ』と手を挙げたんです(笑)」
とはいえ、当時はアレックス・ニゾさんと「studio_01」というデザイン事務所を立ち上げたばかり。富山で総菜カフェ「藤吉」をつくるプロジェクトがはじまっていたため、チームラボ内にデスクを間借りするかたちで合流した。
「当初は、チームラボの中で自分に何ができるかは考えていませんでした。デジタルやプログラミングは、大学院での素養がありましたし、何かできそうだという思いはありました。しかし藤吉の後は全然仕事がなくて、チームラボのオフィスでアレックスと毎日大声で喧嘩(笑)。チームラボの空間系プロジェクトの提案書をつくる仕事のおかげでギリギリ食っていくことができていました」。
魚津ご城下の台所 藤吉
住所|富山県魚津市中央通り2-8-8
Tel|0765-32-4249
営業時間|10:00〜18:00(テイクアウトのみ)
定休日|日曜
https://mizudango.uozu-tokichi.jp/
そんな中、2013年にチームラボのメンバーとしての大きな仕事が舞い込む。それが、浜田さんが設計とプロジェクト進行を手掛けたキャナルシティ博多でのクリスマスツリーのプロジェクトだ。「チームラボクリスタルツリー」は、無数のLEDを三次元に配置した光の点の集合体による作品。デジタル制御により、クリスマスツリーなどの立体物を動かしながらリアルタイムに投影できる「インタラクティブ4Dビジョン」のシステムを独自に開発した。
「絵を描いてクライアントに提案したのはよかったのですが、本当にできるのか? とチームメンバー含めて多くの人が思っていたと思います。アプリ開発やネットワーク構築に関しても経験がなかったので、最初は構成システムもわかりませんでした。エンジニアに教わりながらプロジェクトの進行と同時に学んでいきました」
それでも、誰もつくったことがないクリスマスツリーだけに完成までには大きな問題も。
「会期が数カ月後に迫ったある日、出張先の上海で、『今回はリスクが大き過ぎるか』とチーム内で話が挙がりました。すでに部材の制作も進んでいる段階でプロジェクトを中止するのは、失敗のリスクはなくなりますが、損害も大きく出てしまいます。そこであらためて懸念事項をすべて緻密に洗い出し、その上で『絶対にできる』と説得して推し進めていきました」
制作は会期直前までかかったが、翌年も開催されるまでに好評を博した。チームラボにとっても大規模な作品となり、後の快進撃につながる大きなきっかけになった。
「この仕事を機に、チームラボ内でも大きな建築的プロジェクトを実現できるという実績ができました。それからは、実現が難しそうなプロジェクトばかり僕が担当することになりました(笑)」。
text: Takashi Kato photo: Hiroyuki Kudoh
Discover Japan 2019年5月号「はじめての空海と曼荼羅」