全国各地のマニアックな美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。
〈お話をうかがった方〉
栗原 祐司(くりはら・りゅうじ)
京都国立博物館副館長。小学生のときの夏休みに、博物館を見学するように宿題が出たことがきっかけで、学校よりも楽しく知的好奇心を満足させてくれる施設があることを知り、博物館訪問を開始。以後、学芸員を志すも運命のいたずらで文部省に入省し、博物館政策を専門とする。2012年に念願の博物館現場へ。これまでに全国6500館以上の博物館を訪問。日本博物館協会理事も務める。主な著書に『教養として知っておきたい博物館の世界』(誠文堂新光社)など
日本各地、マニアックな愛であふれています!
上は天文、下は地理、森羅万象のありとあらゆるものを対象としているのが博物館。その中でも、マニアックなコレクションは、“蒐集の鬼”と化したコレクターたちの長年の努力によって蓄積された情熱のたまものです。それらは、個人博物館が多い傾向で、財団や社団法人を設立したり、自治体等に寄贈して公立博物館に収蔵される場合もあります。個人博物館の場合、多くは自宅を改造・増築して公開するところからはじまりますが、立派な展示棟を建ててしまうことも。ただし、予約制の施設が多く、残念ながらコレクターである館長(オーナー)が病気になったり、亡くなるとクローズしてしまうことが多く見られます。
公立博物館では、安定的・継続的に保存・管理されますが、実態はどこも収蔵庫不足で、日本の博物館政策の最大の課題です。マニアックなコレクションへの関心が高まり、来館者が増えれば財源も確保でき、博物館の社会的必要性も高まるでしょう。皆でマニアックな博物館を訪問し、長年かけて形成された貴重なコレクションを未来へ継承していきたいですね。
動物園や水族館も博物館?
博物館法上、資料を収集し、保管(育成)、展示、調査研究を目的とする機関を「博物館」と定義しており、動物園や水族館、植物園等も博物館の一館種とされています。ただし、生きた資料を扱っているため、おのずからその役割や専門性は異なっているのです。
名バットの展示で
野球の名シーンが脳裏によみがえる!?
「南砺(なんと)バットミュージアム」
木製バット生産日本一の富山県南砺市福光の商店街にある、個人運営の博物館。グリップ部分が太いこけしバットや打つ部分が黒色のポッキーバットなど多様なバットのほか、王貞治さん、長嶋茂雄さんをはじめ歴代のレジェンドたちが使用したバットなど500本以上を展示。実際に触れられるものもあり、個人的には阪神タイガースのランディ・バース選手が使用していたバットは感慨深いです。
南砺バットミュージアム
住所|富山県南砺市福光6754
開館時間|10:00〜17:00
休館日|水曜(2月23日、祝日を除く)
料金|一般 500円、中小生 200円
Tel|0763-52-0576
施設|なし
https://nantobat.jimdofree.com/
20世紀を代表する
ロックバンドへの愛がすごい!
「ビートルズ文化博物館」
日本で唯一、ビートルズを専門に扱う博物館。「日本一のビートルズ収集家」といわれる館長の岡本備(そなう)さんいわく「私はコレクターではなくエバンジェリスト(伝道者)」。ビートルズをユネスコ世界無形文化遺産にする活動も展開中です。コレクションは2万点を超え、うち約300点を展示。世界初のビートルズCDとして日本で発売されながら回収された幻の『アビイ・ロード』は貴重です。
ビートルズ文化博物館
住所|兵庫県赤穂市加里屋2059
開館時間|11:00〜16:00
休館日|月・木曜
料金|300円 ※フリードリンク付
Mail|soy20088@gmail.com
施設|なし
https://beatles21.jimdofree.com/
小さなマッチに50年近い
ロマンが詰まっている
「たるみ燐寸(まっち)博物館」
「燐寸」の読みは「マッチ」。館長の小野隆弘さんが、小学生の頃から45年以上も集め続けている明治から令和のマッチラベル、マッチ箱など、マッチ関連の資料を約5000点常設展示している個人博物館です。ビルの2階にある展示室は、一見コンパクトな規模ですがコレクションは圧倒的。3つ並べると絵が出来上がる「喫茶 思いつき」のマッチは、小野館長思い入れのマッチだけにイチ押しです。
たるみ燐寸博物館
住所|兵庫県神戸市垂水区宮本町1-25 ビル・シーサイド西201
開館時間|13:30〜19:00
休館日|不定休
料金|300円 ※事前予約制
Tel|078-705-0883
施設|ショップ
https://in-red.net/
思わず硬貨を入れたくなる!?
世界に誇る貯金箱博物館
「世界の貯金箱博物館」
尼崎信用金庫の企業博物館。約2万4000点に及ぶ世界の貯金箱コレクションの中から、約2500点を常設展示し、貯金箱を通して時代の変遷を知ることができます。日本最初の貯金箱博物館で、コレクションとしては世界的にも最大規模。欧米やアジア、中東など古代から現代まで世界62カ国の貯金箱も含まれます。コインを置くと「ドラえもん」が、箱から手を伸ばして回収する貯金箱は印象的。
世界の貯金箱博物館
住所|兵庫県尼崎市西本町北通3-93
開館時間|10:00〜16:00
休館日|月曜、祝日(土・日曜を除く)
料金|無料
Tel|06-6413-1163
施設|なし
https://www.amashin.co.jp/sekai/index.html
ガラクタとは言わせない!
森永卓郎さんの宝物が集結
「B宝館」
経済アナリストの森永卓郎さんが、自ら子どもの頃から集めたミニカーや菓子の付録のおもちゃなど、ノベルティグッズをはじめとする「普通は捨てられるもの」のコレクション約12万点を収蔵・展示する私設博物館です。50年をかけて集積されたその膨大なコレクションの量は、目がくらむほど圧倒されます。全国から寄贈が相次ぎ、その量はさらに増加を続けているらしいですね。崎陽軒の醤油入れ「ひょうちゃん」のコレクションは必見!
B宝館
住所|埼玉県所沢市けやき台2-32-5
開館時間|12:00〜18:00
休館日|第1土曜のみ営業
料金|一般 800円、60歳以上 600円、小学生以下 400円
Tel|04-2907-9591(開館中は070-4165-8196)
施設|ショップ
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~morinaga/
ウイスキー好きは訪問必至な
大人のミュージアム
「天領日田(てんりょうひた)洋酒博物館」
オーナーの高嶋甲子郎さんが、13歳から約40年を費やしてコレクションした洋酒やボトル、ポスター、ポットスチル(蒸留窯)、そのノベルティグッズなど、3万点以上を展示しています。まさにウイスキー愛あふれる個人博物館。隣接するバーで実際に飲めるのもいいです。映画『七年目の浮気』の名シーンを再現したマリリン・モンローのボトルは、注ぎ口が下にあるため、スカートをのぞき込むようにして注げるようになっています。
天領日田洋酒博物館
住所|大分県日田市本庄町3-4
開館時間|11:00〜17:00
休館日|水曜
料金|一般 800円、中小生 500円 ※ソフトドリンク付
Tel|0973-28-5266
施設|バー
https://tenryo-hita-whiskymuseum.com/
見えないからおもしろい深海の世界
「沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュージアム」
深海生物をテーマにした世界初の水族館。地元の水産会社が、2011年に沼津港に開館しました。すぐ近くの駿河湾は、最深部2500mと日本一深く、深海生物の宝庫なのです。生きる化石といわれる世界で唯一のシーラカンスの冷凍標本の展示2体は必見。巨大なダンゴムシのようなダイオウグソクムシも、キモかわいいと人気のようです。日本一深い駿河湾や世界中の深海生物を、常時100種類以上展示しています。
沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュージアム
住所|静岡県沼津市千本港町83
開館時間|10:00〜18:00 ※繁忙期は変動あり
休館日|なし(1月にメンテナンス休館あり)
料金|一般 1600円、中小生 800円、4歳以上 400円
Tel|055-954-0606
施設|ショップ
http://www.numazu-deepsea.com/
昆虫は生き物であり、アートです!
「名和昆虫博物館」
1919年に開館した、現存する日本最古の昆虫専門博物館。ギフチョウの発見者である名和靖(やすし)が1896年に開設した名和昆虫研究所が母体組織で、館長は代々、名和家が世襲で務めています。世界各国の昆虫約1万2000種類、30万点以上もの膨大な標本を収蔵。明治洋風建築のしゃれた建物は、登録有形文化財にも登録されています。2階の壁一面に展示された、482匹ものモルフォチョウの展示は芸術的です。
名和昆虫博物館
住所|岐阜県岐阜市大宮町2-18
開館時間|10:00〜17:00
休館日|火〜木曜(祝日を除く)
料金|一般600円、4歳〜中学生 400円
Tel|058-263-0038
施設|なし
http://www.nawakon.jp/
若者人気も高いマニアック博物館の代表格
「目黒寄生虫館」
マニアックな博物館の老舗といえば、1953年開館の目黒寄生虫館。しかも入館無料。世界でも珍しい寄生虫専門の博物館で、全長約8.8mの長大なサナダムシは圧巻。物珍しさや怖いもの見たさから、デートスポットとしても知られています。公益財団法人が運営しているため、寄付金やミュージアムグッズは貴重な収入源。ぜひ、寄生虫を樹脂に封入したストラップなど、レアグッズを土産として買って帰りましょう。
目黒寄生虫館
住所|東京都目黒区下目黒4-1-1
開館時間|10:00〜17:00
休館日|月・火曜(祝日の場合は翌日休)
料金|無料(募金箱あり)
Tel|03-3716-1264(自動音声)
施設|ショップ
https://www.kiseichu.org/
実は医学的にも役立っている!?ヘビの王国
「ジャパン・スネークセンター」
群馬県の温泉地にあるヘビ類専門の動物園で、一般財団法人日本蛇族学術研究所が管理・運営。300匹以上のヘビを飼育展示していますが、近年では警察に押収・保護された蛇類を引き取り、毒ヘビ、ニシキヘビが増加しているとか。同研究所は、主目的が毒蛇及び毒蛇咬傷の研究であり、日本で最初にヤマカガシの毒に対する血清を製造し、医療機関からの問い合わせを年間300件以上受けている重要研究施設です。ぜひヘビの食事タイムに見学したい。
ジャパン・スネークセンター
住所|群馬県太田市藪塚町3318
開館時間|9:00 ~ 17:00(11 ~ 2月は~ 16:30)※入館は閉館の1時間前まで
休館日|金曜(8月を除く)
料金|一般 1000円、4歳~小学生 500円
Tel|0277-78-5193
施設|ショップ
https://www.snake-center.com/
1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
3|「日本美術」を楽しめる美術館
4|「自然とアート」を楽しめる美術館
5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
6|日本全国の美しい名建築、外から見る?中から見る?
7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館
text: Discover Japan, Yuji Kurihara
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」