青森県《弘前ねぷたまつり》
ねぶたとの違い、山車の特徴は?
|改めて知っておきたい日本の祭り
古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。
今回紹介するのは、2022年に300年を迎えた青森県弘前市の「弘前ねぷたまつり」。青森ねぶた祭との違い、山車の特徴や掛け声など、祭りの魅力をひも解いていこう。
※2024年は8月1日(木)~7日(水)にかけて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください
ねぶたとねぷたの違いは?
仙台の七夕祭り、秋田の竿灯祭り、そして青森のねぶた祭。この3つは東北三大祭りとして知られ、夏の東北観光の目玉でもある。その中の青森のねぶた祭は「あれ?ねぶた?ねぷた?」と、どちらが正しい名前か迷う人も多い。しかし正解は「どちらも正しい」なのだ。青森で開催されるのがねぶた祭、弘前で開催されるのがねぷたまつり。どちらも歴史ある厄払いの祭りである。
青森のねぶた祭と弘前のねぷたまつりの大きな違いは引き回される山車の形。青森は今風に言えば歌舞伎の荒事などのシーンを3Dの立体型で表現するのに対し、弘前は扇形の平面に描く2Dスタイルが主であること。弘前のねぷたは、平面の絵画でありながら、飛び出さんばかりの迫力で描かれる。表が武者や英雄、裏は美人画や水墨画の、静と動が表裏一体で表現される。
由来は諸説あるが、弘前のねぷたまつりは、忙しい夏の農作業の妨げとなる眠気や怠け心などを流す、「眠り流し」という農民行事から生まれ、ねぷたの語源もこの「眠り流し」から「ねむたながし」、「ねむた」、「ねぷた」と転訛したのではないかと言われている。
津軽人は情っ張り、
弘前人はさらに上行く剛情っ張り
弘前のねぷたまつりの見どころのひとつは、この祭りばやしの一隊に加わる津軽情っ張り大太鼓だ。情っ張りとは、津軽の人の「意固地さ」を表す方言。ねぷたまつりには、とくに情っ張りに「剛」の字をつけて「津軽剛情張大太鼓」と呼ぶ、直径4ⅿ、長さ4ⅿ50㎝センチの大太鼓が登場。通常の津軽情っ張り太鼓の直径3.3ⅿ、長さ3.6ⅿの上をいくサイズで、弘前は一番だ!という気概を表す大太鼓だ。
津軽情っ張り大太鼓に先導され、「ヤーヤドー」の掛け声とともにねぷたが行く。列は小型のねぷたを先に、大型のねぷたが後から来るため、それぞれのねぷたが重なるように見える。
各ねぷたの後ろには笛や太鼓の囃子方の一団が続き、その音色とリズムが観衆の心を沸き立たせていく。
最大9ⅿ超の大型ねぷたが観客に見得を切りながら電線や看板をかわしていく様は、引手の力と技があってこそ。重量数tもあるねぷたの歩みを止めることなく、汗にまみれて押し引き回していく「曳き手」の姿も見どころのひとつだ。
中には藩政期の津軽で盛んにおこなわれていた金魚養殖の歴史にちなんだ、金魚の形のねぷたもあり、そのかわいらしさが人気を呼んでいるそうだ。大小80台あまりのねぷたが夜の闇を照らしながら進む姿に魅かれ、国内外から集まる観客は160万人を超えるとか。昔は祭りの後はねぷたを解体し、海や川に流したが、現在は祭りの終了後に解体するが環境に配慮し、水に流す行事は行われない。
読了ライン
弘前ねぷたまつり
開催時期|毎年8月1日~7日 ※2024年は8月1日(木)~7日(水)にかけて開催予定
会場|8月1~4日土手町、5・6日弘前駅前、7日土手町
Tel|0172-37-5501
https://www.hirosaki-kanko.or.jp
※開催内容は今後変更になる可能性があります。最新情報は公式ウェブサイトを確認ください
ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=日本の祭り解剖図鑑(エクスナレッジ)、祭りの辞典(東京堂出版)、日本の祭り(実業之日本社)、祭りの日本史(洋泉社)、日本の祭り 旅と観光(新日本法規出版)