渋谷パルコ《沼田智也 個展》
料理を引き立てる“抜け感”のある絵皿
端正な日本料理こそクスッと笑える“抜け感”を。「潮待ち」店主が選んだうつわは、ユーモアと温かみをにじませる沼田さんの絵皿でした。2024年11月15日(金)~24日(日)にかけて、東京・渋谷パルコのDiscover Japan Lab.にて「沼田智也 個展」を開催。テーブルを賑やかに彩る沼田さんの絵皿、そのユーモラスな魅力とは?
沼田智也 (ぬまた・ともや)
1979年、茨城県高萩市生まれ。京都で日本画を学んだ後、陶芸家・田中いさお氏に師事。2012年に愛知県立窯業高等技術専門校卒業後、郷里に戻り、作陶を続ける。古典的な文様に遊び心をプラスした絵付けが特徴。
日本料理「潮待ち」で愉しむ
料理と共鳴するうつわとは?
東京・代々木上原の料理店「潮待ち」では、主人の川島好雄さんの料理と沼田智也さんのうつわが共鳴し、テーブルを賑やかに彩る。ユーモラスなお多福文の取り皿にはじまり、酒のアテを入れた蕎麦猪口や煮物鉢、お造りを盛り合わせた皿に至るまで、カラフルな絵皿が使われているのだ。タコの煮物をいただけば、食べ終えたうつわの底で、こちらを見つめるタコと目が合う。その瞬間、カウンターの奥で料理をつくる川島さんと心が通じ合った気がした。
川島さんが沼田さんのうつわに惹かれたのは7、8年前のこと。ちょうど代々木上原に店を移し、店名も変えて再スタートを切ろうとしていたときだ。
「当時、自分がやりたいことはなんだろうと考えていたときに、沼田さんのうつわが妙にしっくりきたんです。それは〝抜け感〟と〝遊び心〟でしょうか。自分も日本料理のベースは押さえながら、遊び心を大事にしたいと思って。お客さまが料理を食べ進め、最後に笑顔が出れば最高です」
川島さんは沼田さんの個展に足を運び、思うままにうつわを買い求めていった。いま、店は「沼田美術館」と呼びたくなるほど、沼田さんのうつわがひしめいている。
自分が思った以上の使い方をしてくれ、それが冥利に尽きるし刺激になると沼田さん。料理とうつわのすてきな関係が築かれている。
“遊び心”から生まれた
沼田さんの特徴的な絵皿
京都の大学で日本画を専攻し、独特なタッチの絵付けのうつわが人気の沼田さん。陶芸をはじめた当初は、茨城県高萩市の地元で自ら掘り出した土を用いて手びねりで成形し、絵付けはせずに原始的な穴窯で焼く素朴なうつわを極めようとしていたそうだ。陶器市で並べた作品群の端に少しだけ置いた絵皿の評判がよく、後にろくろの技術を学び、ほぼ独学で絵付けを習得していく。転機になったのは、中国の古典的な文人画を模した絵付けに、思わずUFOを描き添えたときのこと。お客が喜び、ギャラリーから勧められ、いつしかうつわというキャンバスに、奔放に絵を施すようになっていった。
絵皿は、本焼きを終えた無地のうつわに模様をつけ、色を留めるためだけにもう一度焼くという手間を要する。それでも沼田さんはうつわの土台づくりを人に任せることはせず、すべての工程を自分で愉しんでいる。 「大変だけど、自然相手で思うようにいかないところが、やっぱりおもしろいんです。もともと陶芸の、そこに惹かれたので」
料理を引き立てるユーモラスなうつわ
作品ラインアップ
花鳥文7.5寸皿
素焼きした生地に呉須で絵柄を施す染付けと、釉薬をかけて本焼きした後に赤や緑をのせる上絵付けを一枚で愉しめる、華やかな一枚。
蛸文4寸皿
沼田さんの代表作ともいえる蛸文は、地元の海に潜ってタコを捕った日に記念に描いたタコがモチーフ。周囲の柄は海の岩場を表現。
花唐草文7.5寸皿
描かれる草花は実際に存在するものではなく、抽象的なもの。安南手(あんなんで)と呼ばれる、ベトナムのにじんだ染付けのイメージで。
渋谷PARCO5周年記念
オリジナル「パルコアラ文」も必見!
パルコアラ文蕎麦猪口
原画に輪をかけてとぼけた表情が愛らしいパルコアラ。産みの親であるデザイナーも、うつわになったことを喜んでいるそう。
パルコアラ文3寸皿
タータンチェック柄の大きな耳が特徴のパルコアラ。これを染付けと上焼きで表現するのは難しく、不揃いなところがかえって味わいに。
渋谷PARCO5周年を記念してつくられた「パルコアラ文」のうつわも、コアラのにじんだ線がとぼけた表情を助長し、かえって愛らしい。食卓にひとつあるだけで、どんなにその場が和むことか。料理を盛るためのうつわという用途を超えた魅力がそこにはある。
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個展作品の一部がオンラインで買える!
公式オンラインショップ
沼田智也 個展
会期|11月15日(金)~11月24日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
※詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)にてご確認ください。
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
※料理の料金は時期によって変動します。
text: Yukie Masumoto photo: Yuko Okoso
2024年12月号「米と魚」