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《青森県立美術館》
青木淳氏設計の建築美と青森出身アーティストの作品を堪能

2022.5.2
《青森県立美術館》 <br><small>青木淳氏設計の建築美と青森出身アーティストの作品を堪能</small>

2006年に開館した「青森県立美術館」は、ホワイトキューブのシンプルな外観が印象的。設計したのは建築家の青木淳氏。トレンチ状に縦横に切った上向きに凸凹の土のランドスケープに、上面は平らで下面は凸凹の構造体を噛み合わせた構成を持つ建物は、隣接する縄文集落跡・三内丸山(さんないまるやま)遺跡の風景と融合している。青森県のアーティストコレクションを多数所蔵し、絵画や彫刻などの美術品にとどまらず、映画、演劇、音楽などさまざまな文化芸術活動も行なっている。ユニークな建築と青森らしさを感じる美術品たちの魅力を紹介。

青森県立美術館について

発掘現場のトレンチ状のランドスケープ

青森県立美術館は2006年開館。青森の豊かな自然や芸術風土、隣接する縄文集落跡・三内丸山(さんないまるやま)遺跡に埋蔵された縄文のエネルギーを芸術創造の源泉として捉えながら、強烈な個性によって青森県のアーティストたちの原風景を探求し、青森県の芸術風土を世界に向けて発信している。

「木」と「a」で青森を表現している

シンボルマーク、ロゴタイプをはじめとする総合的なVI(ビジュアル・アイデンティティ)は、グラフィックデザイナー・菊池敦己氏が手がけた。「木」と「a」をモチーフにしたシンボルマークは、パターンとして展開することで、「青い木が集まって森になる」という成長を書き出している。シンボルカラーは空色と土の茶色そして雪の白色。ロゴタイプやサインの文字は、水平・垂直・斜め45度の同幅の直線だけで構成されているオリジナルフォント。外壁に設置されたシンボルマークのネオンや大きく表示された直線的な文字は、わかりやすく機能的であると同時に、建築や風景と調和したイメージとして美術館の個性のひとつだ。

白と土色の凸凹が生む不思議な空間

常設展示室

建築を手がけたのは、美術館の設計コンペで最優秀賞を獲得した青木淳氏。青木氏はこの建築の着想を、隣接する三内丸山遺跡の発掘現場から得たそうだ。発掘現場のように地中深く掘り込まれた溝の上に、白い煉瓦壁で囲われた量塊の凹凸の間にできる空間を、展示室や収蔵スペースといった活動の場としている。

建築家
青木淳(あおき・じゅん)
1956年、神奈川県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。東京大学大学院修士課程(工学修士)修了。磯崎新アトリエ勤務を経て、1991年、青木淳建築計画事務所設立。https://www.aokijun.com/

エレベーター誘導サイン

この基本構造により、建物の内部には、真っ白なホワイトキューブの部屋と、土の床や壁が露出する土の部屋が、対立しながら共存する強度の高い空間が生み出されている。アレコホールと呼ばれる巨大空間を中心に、四方へ大中小の展示室が連なる配置は、中央広場を中心に家並みが広がる「街」の構成を意識して設計されている。

エレベーターで地下へ向かう。そしてエレベータが降りていくのにあわせて照明がゆっくり暗くなっていく。

アレコホール

美術館の中心には、「アレコホール」という、縦横21m、高さ19mの四層吹き抜けの大きな空間が設けられ、建物のなかの屋内広場のような存在。周囲にはさまざまな空間があり、迷ったとしても、屋内広場が見えるため、だいたいの位置がわかるそうだ。あえて迷路のような空間を楽しむのも、この美術館の特徴だろう。

ここには、20世紀を代表する画家のマルク・シャガール(1887-1985)によるバレエ「アレコ」の背景画が展示されている。この背景画は、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため亡命していたアメリカで、「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」からの依頼で制作したもの。大画面の中に「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が遺憾無く発揮された舞台美術の傑作。このアレコホールは、コンサートや演劇、ダンスの公演にも活用されている。

青森の豊かな芸術風土や縄文を感じる

巨大な犬の立体作品《あおもり犬》
Artwork ©Yoshitomo Nara , Photo ©Daici Ano

地下の西側にある野外空間には、巨大な犬の立体作品《あおもり犬》が設置されている。高さ約8.5m、横幅6.7mのこの作品は、国内外で活躍する弘前市出身の美術家・奈良美智(なら・よしとも)氏によって制作された。挑むような眼差しを持った人物の絵や哀愁を帯びた犬の立体作品は、複雑な現代社会に生きる多くの人々の共感を惹きつけている。この美術館では、1998年から奈良美智作品の収蔵をはじめ、現在170点を超える。季節の移り変わりとともにさまざまな表情を見せ、大仏のように観る者を包み込む魅力を持った《あおもり犬》は、美術館のシンボルとしても多くの人に親しまれている。


奈良美智《Miss Forest / 森の子》2016年
Photo ©Yuki Morishima(D-CORD), Artwork ©Yoshitomo Nara

南側の敷地にはもう1点、奈良氏による大型のブロンズ像《Miss Forest / 森の子》が設置されている。作品が展示されている場所は、奈良氏のデザインに基づいて作られた「八角堂」と呼ばれる八角形をした煉瓦の建造物の中にある。厳かな建物の内部に元々いたかのように鎮座し、風のそよぎや鳥のさえずり、そして冬には雪といった周囲の環境とともに語り出すような魅力を持つ。

棟方志功《花矢の柵(はなやのさく)》1961年
※展示されていない時期もある

棟方志功(むなかた・しこう、1903-1975)は、青森市出身の版画家。版画を「板画」と称し、木版画の優れた作品を多く残している。美術館では、棟方志功展示室において年4回の展示替えを行い、棟方作品を紹介している。

カフェ「4匹の猫」では、奈良美智のブロンズ像が設置された「八角堂」を見渡すことができる開放的な空間で、軽食やスイーツを楽しめる。りんごを入れて丁寧に煮込んだカレーや青森県産牛を贅沢に使用した和風ピラフなど、地元の食材を生かしたメニューが人気。

ミュージアムショップでは、青森県立美術館コレクションをモチーフにしたポストカードや文具など、オリジナルグッズのほかを販売。そのほかにも、お土産に最適な地元の工芸品、特産の果実を使ったお菓子なども用意。

創作ヤード

美術だけでなく、建築の美しさを楽しんだり、演劇、音楽、映画、などさまざまな文化芸術活動を活発に展開している「青森県立美術館」。青森へ訪れた際にはぜひ足を運んでみてはいかが。

青森県立美術館
住所|青森市安田字近野185
Tel|017-783-3000
開館時間|9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日|毎月第2、第4月曜日 (この日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始
コレクション展(常設展)観覧料|中学生・小学生 100円、大学生・高校生 300円、一般 510円
※企画展観覧料は展覧会ごとに異なる。詳しくはWEBページ
https://www.aomori-museum.jp/ja/

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