世界が注目する木造建築の最前線
前編|建築集団「BIG」が木造を採用する理由
国土の約7割が森林である日本。古からさまざまな種類の木を用途によって使い分け、建築や日用品として暮らしに取り入れてきただけでなく、木は信仰の対象でもあった。そんな森林大国・日本にとって木は特別な存在だが、世界もいま、木に熱い視線を注いでいる。
今回は、「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれている建築家のビャルケ・インゲルスさん率いる建築集団「BIG」の木への想いと取り組みを紹介。カーボンフリーエネルギーを実現する建築や3Dプリントでつくる住宅など、世界中で先進的な建築を実現し続けるBIGが、木造を採用する理由とは?
デンマークの建築集団「BIG」を率いるビャルケ・インゲルスさんは建築について「都市や建物を、私たちが望む生活様式に適合させるための芸術であり科学である」と表現する。最先端技術を駆使した先進的なプロジェクトを世界中で進める中、大規模な木造プロジェクトも進行中だ。
カンザスの建築事務所「BNIM」と「カンザス大学建築・デザイン学部」と共同制作する「メイカーズ KUbe」は、室内外に現れた集成材の「ダイア・グリッド」の骨組みが特徴。日本の伝統的な「仕口(しぐち)」と呼ばれる木材の接合技術にインスパイアされており、直線的な構造が軽やかで透明感の高いデザインに昇華されている。「この建築は生きたカリキュラムとして機能し、機能、技術、構造のすべてを学生が鑑賞し、批評する具体的な対象となる」とビャルケさんは語る。
「デューマック本社」は、集成材による木材フレームを放射状に並べて円形にした構造が特徴。格子状のファサードは、デンマークの伝統的な木造住宅の外観を参照したデザインだという。
BIGパートナーのレオン・ロストさんは「人類は現在、毎月ニューヨーク市に匹敵する建築物を地球上に生み出しています。一方、理論上はその建築需要を満たすだけの木材が伐採されていても、ほとんどがバイオ燃料や使い捨ての紙製品になっています。クリーン・エネルギーで廃棄物を出さない未来では、持続可能な方法で伐採された木材が大半の建物の基本構造システムになり、 都市は炭素を固着させる“森”となるでしょう。鉄やコンクリートは、超高層、地下、水中などにだけ使われるようになるはず」と予想する。
近年、世界中で木造への注目度が高まっている背景には、環境配慮やサステイナブルへの意識の高まりがある。気候変動への対策や脱炭素の手段として、CO2を固着させておける木材を大量に用いることが有効であるためだ。工事中に排出されるCO2の量も大幅に抑えられ、森林資源の循環的な利用につながるメリットも大きい。
レオンさんは「木材をはじめとした自然素材の時代の幕開けです。生命の多様化が急速に進んだカンブリア紀のように、これから自然素材を使ったさまざまな建築が爆発的に生まれると信じています。太陽熱利用の広大なひさしの下にそびえ立つ木格子、キノコの菌糸を利用した材料で覆われた床……。中でも木材は、建築の中心的な役割を果たすでしょう」と語り、木がつくる未来の姿を描いている。
放射状の木フレームとガラスで自然を取り込む建築
デューマック本社
中庭をもつドーナツ型の形状と、格子状のファサードが特徴のオフィスとショールームをもつデューマック本社。CLTという木質系材料による44のフレームで構成され、起伏のある屋根を載せる。BIGの建築、ランドスケープ、エンジニアリング、プロダクトのデザインチームが一丸となり、高いエネルギー性能をもつ環境を実現。
竣工|進行中
場所|デンマーク・オーデンセ
建築設計|BIG
延床面積|約2800㎡
構造|木造
用途|オフィスほか
すべてが生きた教科書となる木造フレームの建築
メイカーズ KUbe カンザス大学建築・デザイン学部
BIGが、BNIMとカンザス大学建築・デザイン学部と共同制作する木造施設。既存のふたつの建物と相互に連結し、つながりのあるキャンパスを創出する。オープン・スタジオ・スペース、3Dプリンティング・ラボ、ロボット・ラボ、1階にカフェを配し、各フロアがらせん状に連続するように計画。太陽光や雨水活用のシステムも備える。
竣工|進行中
場所|アメリカ・カンザス
建築設計|BIG
延床面積|約1万6600㎡
構造|木造
階数|地上6階
高さ|33m
用途|教育施設
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text: Jun Kato coordinat: Chieko Tomita
Discover Japan 2024年9月号「木と暮らす」