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《MOA美術館》
日本の伝統的な素材を用いた現代デザイン空間

2022.4.8
《MOA美術館》<br><small>日本の伝統的な素材を用いた現代デザイン空間</small>

熱海市の高台に位置する「MOA美術館」は、日本美術を中心に美術品を所蔵し、日本文化の情報発信。開館から40年を経て、美術品がもっと美しく鑑賞できるよう、ロビーエリアと展示スペースなどを一新し、2017年にリニューアル。手がけたのは、現代美術作家・杉本博司氏が建築家 榊田倫之氏とともに主宰する「新素材研究所」。美術品とともに建築美も愉しめる、新しく生まれ変わった「MOA美術館」とは・・・・・・。

MOA美術館とは

MOA美術館は、昭和57(1982)年に創立者・岡田茂吉氏の生誕100年を記念して開館。

コレクションは、茂吉氏が第二次世界大戦後から本格的に蒐集されたもの。現在、国宝3点、重要文化財67点、重要美術品46点を含む約3500点を所蔵。絵画や彫刻、陶磁器、漆工芸など日本美術を中心に、展覧会とともに伝統工芸や芸能に取り組み、日本文化の継承と発展に努めている。

また、36年が経過した平成28(2016)年〜平成29年(2017)にかけ、「美術品がもっとも美しく見える空間」をコンセプトに改修工事が行われた。ロビーエリア、展示スペースの設計は、世界を舞台に活躍する現代美術作家・杉本博司氏が建築家 榊田倫之氏とともに主宰する「新素材研究所」が手がけた。

古代や中世、近世に用いられた素材や技法を、現代にどう再構築して受け継いでいくかという問いに取り組み、さまざまな試みのなかから、日本の伝統的な素材を用いた現代的な空間を生み、あたらしいMOA美術館を体現した。

新素材研究所/杉本博司+榊田倫之
新素材研究所は、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之が2008年に設立した建築設計事務所。その名称に反して、古代や中世、近世に用いられた素材や技法を研究し、それらの現代における再解釈と再興を活動の中核に据えている。すべてが規格化され表層的になってしまった現代の建築資材に異を唱え、敢えて扱いが難しい伝統的素材の建築的な可能性を追求する。それは近代化のなかで忘れられつつある高度な職人の技術を伝承し、さらにその技術に磨きをかけることでもある。時代の潮流を避けながら旧素材を扱った建築を造ることこそが、今もっとも新しい試みであると確信し、設計に取り組んでいる。https://shinsoken.jp/

足利義政が慈照寺「東求堂」で見た光り、千利休が茶室「待庵」で見た光りなど、MOA美術館にある多数の日本文化の至宝を、その最高の光りと場で表現。

屋久杉や漆黒喰、畳などの前近代の素材にこだわり、最も古いものが最も新しいものへと変化するデザインが施されている。

別世界への入口「アートストリート」

エスカレーター
円形ホール

美しい色彩で空間デザインされたアーチ形の壁面や天井。約200mの通路を7基のエスカレーターで上がり本館へ。途中に、世界6カ国から集めた大理石を床に敷いた直径20mの円形ホールがあり、さらに進むと相模灘の雄大な景観を眺めることができ、20世紀彫刻の第一人者、ヘンリー・ムアのブロンズ像「キング・アンド・クイーン」が展示されている。

メインロビー

ロビーには、初島や伊豆大島が浮かぶ相模灘を一望でき、遠くは房総半島から三浦半島。伊豆七島まで180度の大パノラマが楽しめる。床は大理石の一種・寒水石を敷詰めソファは杉本氏のデザインで、脚部は透明度の高い光学ガラスを使用。壁面に杉本氏の代表作「海景 熱海」が展示されている。

伝統×最先端の技術が融合

漆塗の大扉
敷き瓦と扉

エントランスの入口は、人間国宝の室瀬和美氏が手がけた漆塗の大扉が出迎えてくれる。朱漆と漆黒のコントラストは杉本氏のデザインで、桃山時代に流行した「肩身替」をイメージ。

ロビーから展示室へ続く通路を露地に見立て、敷き瓦を四半数で配置。杉本氏がデザインした自動ドアは、木曽檜を用いた現代的な数奇屋の建築美を表している。


黒漆喰の壁を設置した展示室

ガラスのない展示スーペス

展示室では美術品の魅力を最大限に引き出す工夫が随所に施され、露出展示としてガラスのない展示スーペスは、大床を設けている。框(かまち)に杢目の美しい樹齢1500年の屋久杉を。両脇の柱は奈良の海龍王寺・當麻寺の天平古材を用い、壁は聚楽壁の土壁。

黒漆喰の壁を設置した展示室。ガラスへの映り込みを無くすだけではなく、壁によって回誘動線が生まれ、順路が明確になる。照明を落としているのでかなり黒っぽく見えるが、壁の色は黒というよりグレーに近い。

MOA美術館では美術品だけではなく、日本の美しい、上質なエンターテイメントも届けている。檜皮茸き・入母屋造りの屋根に、総檜造りの能舞台。優れた伝統芸能の紹介をはじめ、クラシック、ポップスのコンサート、講演会など多目的に活用されている。

また、日本庭園と建築を鑑賞できる「茶室 一白庵」、光琳屋敷などが併設された庭園。初夏の庭は新緑で覆われ、桔梗など季節の草花が彩る。150本以上あるモミジは、毎年11月中旬から12月初旬にかけて紅葉し、熱海の紅葉狩りスポットとして人気を集めている。モミジが一斉に赤く染まる庭園は幻想的で、日本で一番遅い紅葉を愉しめる。

the cafe

時代を超えて、日本の伝統的な素材や技法と最先端の技術を融合させた「MOA美術館」。日本の伝統美と現代的な空間のなかで、美術品の本来の形や細かな表現を鑑賞できるだろう。

MOA美術館
住所|静岡県熱海市桃山町26-2
Tel|0557-84-2511
開館時間|9:30-16:30(最終入館16:00まで)
休館日|木曜日 (祝休日の場合は開館)、展示替え日
https://www.moaart.or.jp/

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