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奥入瀬渓流を望めるレストラン「Sonore ソノール」
犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑

2020.1.2
奥入瀬渓流を望めるレストラン「Sonore ソノール」<br class=“none” />犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑
黄葉する大自然の中で過ごす格別の時間
10月下旬になると、北東北・青森の紅葉シーズンが訪れる。十和田八幡平国立公園内の奥入瀬渓流にも一気に紅葉が広がる。この地域の紅葉は見事な黄色に染まるのが特徴で、11月下旬まで楽しめる

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。第10回は「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」内にあるフレンチレストラン「Sonore ソノール」を紹介する。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

自然と一体になった
立地を最大限に生かす

アペロは食事の前の贅沢。

水音と風を感じながら渓流に面した川岸に50mほどテラスが続く。テーブルとソファが並び、寒い時期には温風機が優しく温めてくれる。ソファに身をゆだね耳を澄ますと、聞こえてくるのは渓流のせせらぎと、四季折々の虫や鳥の声。シャンパーニュで乾杯をした後には、フィンガーフードが次々に登場する。生ハムとオリーブのフィナンシェ、そば粉の生地にのったスモークサーモンとレモンクリーム。トマトとライチの泡でマリネした真鯛のマリネ。ワカサギのフリット、豚のシュー、カニのフランなど。軽いおつまみだが、どれも丁寧に手間をかけてつくられている。ついつい食べ過ぎないように注意しないと……。30分ほど寛いだら、さあダイニングへ!

国立公園内の奥入瀬渓流沿いに立つ唯一のホテル、「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」。一度は行ってみたいホテルのひとつとして以前から気になっていたのだけれど、なかなか実現する機会がなかった。そんなとき、「よし行くぞ!」とがぜん乗り気になったのが、この夏、大人のためのフレンチレストランがオープンしたというニュース。

ファミリー向けの賑やかなレストランは気軽だけど、食事くらいは、大人だけでゆったりした時間を楽しみたい。その料理はどんなスタイルなのか、渓流に面した唯一のホテルで、どんなディナーが体験できるか。ようやくそのときがきた。

ホテルのもうひとつの魅力は「岡本太郎」作品の存在感。ロビーに到着して誰もが圧倒されるのが、大暖炉「森の神話」。どの時間帯にも違う表情を見せるこの作品はやさしく、おおらかだ。岡本作品はほかに2点。どこにあるかは自分で探そう!

ディナーは星野リゾートの各ホテルではおなじみのアペロ(食前酒とおつまみ)ではじまった。奥入瀬渓流に面したテラスでせせらぎを聞きながら30分ほど過ごしてからダイニングへ移動する。

取材時はまだ、紅葉には早かったが、夕暮れから刻々と変わる景色は森の深さを実感させる。料理はフレンチをベースに、現代的な軽い仕上げ。詳しくは次のぺージで紹介するが、レストランが旅の目的になると言っても過言ではない。

個性あるホテルダイニングを目指せ!

鮪のオペラ仕立て 帆立貝とイカのムース 。チョコレートのお菓子・ガトーオペラに見立てたマグロのタルタル。フランス料理でタルタルといえば牛肉だが青森の代表素材は大間のマグロ。下からホタテ貝とイカのムース、海苔のジュレ、マグロのタルタル、シブレット(細ネギ)。上には長芋にウニとキャビアを飾って

渓流テラスからダイニングに移動する。凛とした空気に少し縮こまった身体が、ほわんとゆるむよう。室温のせいではない。テーブル間をゆったりとったこの空間にも樹木、岩、水といった渓流の風景を連想させるデザインがあしらわれているからだ。まだ“夢の続き”を見ているようだが“夢見心地”はここからはじまる。

ひと皿目が登場すると、まるでデザートのようなプレゼンテーションにゲストの表情がほころぶ。第1のポイントは、ビストロの定番であるタルタルをエレガントなお菓子仕立てにしたこと。もともとタルタルは生の牛肉をたたいて好みの薬味を混ぜるワイルドな料理なのだから、この変身は大胆な提案だ。

さらに牛ではなくマグロを使用したのが第2のポイント。地方での楽しみは、その土地ならではの素材、料理を味わうことだが、「大間のマグロ」をひと皿目から出すとは大胆。

フォアグラのポワレと林檎のロースト シードルソース。青森のフルーツといえば、リンゴ。手前は南部せんべいにのせたフォワグラのポワレ。リンゴのお酒・シードルでつくったソースを添えて華やかに。奥はローストしたリンゴの下半分とフォアグラ、シナモン風味のテュイル(焼き菓子)

続くふた皿目は、フレンチの高級素材・フォアグラに青森名産・リンゴを合わせた黄金コンビ。主役を引き立てる土台に、さりげなく南部せんべいが使われている。“せんべい”といっても、小麦粉からつくられているのがフレンチに馴染む理由。テュイルと互角の御役目を果たしているのだ。

3皿目は姫鱒のムニエルに山菜。これもバリグール風という南仏料理を取り入れた一品。4皿目の仔鳩とアワビのトゥルトは、フレンチでジビエを扱うときの最もリッチな手法のパイ生地包み。斉藤シェフは、ジビエ料理が得意な星付きシェフの下で修業しただけに、ソースは完璧。どの料理にも個性的なソースが生かされている。

仔鳩と鮑のトゥルト 鮑の肝のサルミソース。“トゥルト”は小さなケーキ、タルトという意味。鳩とアワビをケーキ仕立てで。サルミソースは、ジビエ料理では血を使ったソースを指す。ここではアワビの肝をソースに仕立てて海と山の恵みをひと皿に。ジビエ料理を得意とする斉藤シェフならではの力強い味わい

続くデザートも、チョコレートに黒ニンニク、パンぺルデュにリンゴなど、おもしろい素材合わせで、食べ進むたびに興味が深まっていく。斉藤シェフはここの料理長に就任してまだ数カ月だが、自分のスタイルを築き上げた。

星野リゾートのホテルや旅館ではそれぞれ料理コンセプトが違うのに土地の素材を的確に料理に生かしている。その理由を、グループ料飲統括責任者・梶川俊一氏に聞いた。「料理人を公募する際、キャリアは問いません。重視するのは、最終的な表現はどうであれ、その料理が古典に根ざしていること」。

ショコラの軽いムース 黒にんにくとプラムのコンポート。チョコレートとチェリーの組み合わせは王道。そこにアクセントとして加えたのがプラム。さらにプラムに合う地元の素材は? と探したところ、黒ニンニクに出合った。プラムと黒ニンニクを煮込むとフル−ティな風味が引き出されるとは、驚きの美味しさ!

「Sonore」は、斉藤シェフの“古典に根ざした現代フレンチ”が柱だが、もうひとつ、大人のレストランらしく“銘醸ワイン”に特化していること。リストにはグランヴァンだけでなく掘り出し物が思い切った価格で用意されている。

時間を気にせず楽しめるのはホテルレストランの最大の魅力。ロケーション、紅葉、料理、ワインと揃って、最高の夢が見られそう。

フレンチレストラン「Sonore」(ふれんちれすとらん「そのーる」)
住所|青森県十和田市大字奥瀬字栃久保231 星野リゾート奥入瀬渓流ホテル西館1F
Tel|0570-073-022(星野リゾート予約センター)
営業時間|17:30〜21:00
宿泊料金|1泊2食付3万2500円〜 ※「Sonore」での食事利用の場合
www.oirase-keiryuu.jp/dishes/sonore/


文=犬養裕美子 写真=前田宗晃
2019年11月号 特集「すごいぜ!発酵」


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